第6話:コラボしてもいいですよ




思いもよらぬ形でmmに連絡をとってしまった。

その日は放心状態で一日を過ごしていたが、瑛人は謝るような素振りを見せなかった。

むしろ感謝しろよ、くらいに思ってるようだった。

呆れて返す言葉も見つからなかったおれは講義が終わるなり、すぐに帰宅した。


スマホは手元にあるがSNSを開きメッセージ欄を覗くのが怖い。

既読スルーなんてされていたら膝から崩れ落ちるようにヘコむだろう。

未読の場合は常にどきまぎすることになる。


しかしメッセージを確認しないことには何も始まらない。

様々な返信内容を想定しながらメッセージを開く…。


え、これはどういうことだ…。



♦♦♦♦♦♦♦♦♦



翌日


「瑛人ー、おはよ」


「うっす、んじゃ行くか」

おれが瑛人よりも遅く到着するのは稀なこと。

いや瑛人が無性に早く着いている時があるというだけのことだ。


「うまくいったか?」

他人事のように楽し気に笑う。


「んー、どうだろ。どうしたらいいか分からん」


「嬌太郎は優柔不断すぎるんだよ。もっと積極的にいかねーとさ、彼女もできねえぞ?」


彼女……莉未と別れて1ヶ月くらい経つだろうか。

別れたという事実は飲み込めてはいるのだが何かが心の中でつっかえている。


「彼女かあ」


「さっさと彼女作って次に進まねーと。まあおれは作る気ないけどな」

相変わらず瑛人は女子の視線を集めている。


「そうだな、おれも彼女作るか…」


おれが言い終える前に立ち止まって話しているおれ達の横をわざと肩をかすめるように莉未がツンとした表情で通った。


「…やべ、莉未ちゃんじゃん今の。聞かれたかな」


「たぶんね。少なくともおれが最後に発した言葉は聞こえてたと思うよ」


莉未を目で追ったが、早足で行ってしまったため、みるみるうちに背中が小さくなっていった。


「なんか悪いな」


「いやいいよ。もう別れて他人なんだし。あっちも彼氏できてるかもしれないしさ」


そうだ、別れたのだからお互い次に進むのは自由。

おれが彼女を作っても莉未がおれを責める権利なんてものはない。


「行こうぜ」


講義へ向う悲壮感が漂っているであろうおれの姿を見て、瑛人は口数を減らした。



♦♦♦♦♦♦♦♦♦



―――SNSメッセージ ―――

『はじめまして、コラボしませんか?』

『はじめまして…ロキさんですか?本物の。返信遅れてすみません』

『こちらこそ唐突にすみません、ちょっと手違いで…。あ、一応ロキ本人です』

『手違いなんですね…、あの時配信見てたので本当にコラボしてくれるものかと思ってました』

―――SNSメッセージ ―――



え、あの時の配信見てたの!?コラボのことを知ってるってことは序盤から見ていたってことだよな…。



―――SNSメッセージ ―――

『見ててくれたんですね。結構失礼なことも言ってたんですけど、それは忘れて下さい』

『失礼だと思ったことはありませんでしたよ。私の名前が出たことには驚きましたけど…』

(莉未(mm)本人は自分の名前を出したことをここでは伏せた)

『そ、そうなんですよ。視聴者さんにそそのかされてその流れで…。すみません!聞かなかっことにして下さい』


少し間が空く。


『私はコラボしてもいいですよ』

―――SNSメッセージ ―――



え…え?どういうこと?mmがどうして誘いに乗ってくれたんだ?でも…。



―――SNSメッセージ ―――

『いやいや強要してるみたいですし、ごめんなさい!無かったことで!失礼しました!』

『…わかりました。ありがとうございました』

―――SNSメッセージ ―――



はあ、やべえ。無理無理。

やっぱりおれなんかがmmみたいな実況者とコラボなんて場違いだよ。

諦めよう、……んでも返信もらえたのは意外だったな。



♦♦♦♦♦♦♦♦♦



―――― 少し遡る、莉未(mm)の反応。


「講義まで少し時間があるなあ」

莉未はスマホを取出しSNSを開く。


「えーっと…メッセージだ。視聴者さんからかな」

常日頃視聴者から無数のメッセージが届く莉未にとってメッセージが届くこと自体はごくごく普通のことだった。



―――mmのSNSメッセージ 欄―――

『mmちゃん元気ー?』

『mmちゃん会いたいなあ』

『今何してるのー?』

―――メッセージ ―――



男性ファンからのメッセージが8割を占めている。


「うーん、返信はしないっていつも言ってるんだけどなあ…」


半ば確認するのも面倒になってきていた莉未の目に、ある人からのメッセージが届いていた。


「えーっと…ん…これ、ロキさん!?え!?」


動揺を隠し切れない莉未はメッセージとロキのプロフィール画面を何度も交互に開き、ようやく状況を飲み込み、恐る恐る内容に目を通した。


「【はじめまして、コラボしませんか?】…って、え!?コラボ!?」


声が教室内に響いたため、気まずくなった莉未は廊下へ出た。


「待って待って、どういうこと?どうして急に?あ、…私があの時自分の名前を出したからかな…」


先日のロキの配信で莉未は自ら【mmとコラボしたら?】的なチャットを打込んでいた。


「返信しないとだめだよね…。でもどう返したらいいのかな。うーん…」


教室に戻り講義中も返答についてずっと考えていた。



―――― アパートへ帰りメッセージを送る。


「えーっと、【本物ですか?】っと…」


「あ、返信きた!、本物…だよね。え?手違い?…、どういうこと?」

軽いパニック状態に陥る。


「でも私はコラボしてみたい…。思い切って伝えてみよう。【私はコラボしてもいいですよ】…。あれ、これじゃ上から目線じゃない??」


「え?強要?やっぱりしません?…。なんでなんで?…あ…途切れちゃった。うわぁ、私のいい方が悪かったんだよね、きっと…」


―――― 5分前の自身の返信に莉未はひどく後悔した。



♦♦♦♦♦♦♦♦♦



嬌太郎は視聴者との約束事を破らないようにしている為、諦めようとは言ったもののコラボしないわけにはいけなかった。

誰だ、誰とコラボすればいい。いっそのこと瑛人を実況者と見立ててコラボするか?…いや流石に無理があるか。

今更だけど、正直mmとコラボできそうな感じでもあったよな。してもいいですよって言ってくれてたし。

でもあんな風にメッセージ切った手前もう誘うのは無理だな。はあ、情けねえ。


―――― 翌日の夜。


嬌太郎は全ての講義が終わった瑛人と焼肉屋へ行き21時にほろ酔い状態で帰宅した。

酔ってはいたが動画編集程度はできる。

PCを起動し、動画編集に移る前にいつものようにyou○ubeを開き自身のチャンネルを確認する。


んー、最近視聴回数も横這いだなあ。

少しでも登録者数を増やしたいので何か目新しいものを取り入れないとなあ、と思い悩んでいた。


考え込みつつも登録しているチャンネルを眺めていると配信中のものが多数ある中に、mmのチャンネルの【mm部屋】があった。


あれ、mm配信中なんだ。

うーん、見に行きたいけど…。この前のメッセージのやりとり以来一方的に気まずさを感じている。

まあ見るだけだし…。


放送のタイトルは【雑談と相談】



===mmの配信===

『でも私嫌な言い方しちゃったなあって思ってるんだよね』

===========



嫌な言い方?何かあったのか?



===mmの配信===

『強要されてるなんて思わないのにさぁ』

===========



んー、途中から来たから何の話なのか全く理解できない。

抜けようか。と思っていた時。



===mmの配信===

『私は本当にコラボしてみたかったんだけどね、ってこれ本人が見てたらまずいね』

===========



あ……、本人がガッツリ見てます。



―――― うっわ、やっぱりあの時引かなければよかった。




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