第5話:はじめまして




 よし、編集終わり!あとは投稿するだけだな。莉未りみに講義前に声をかけられた日から3日経ち、その間動画を撮り溜め編集し、今に至る。


 今回投稿する動画はポケ○ン。

 来年新作が発売される物が過去作のリメイクに近いようなので、その過去作を最初から始めている。


 あれ、何か大事なことを忘れている気がする…なんだったっけ。


 久しぶりにSNSを開き自分のコメントを見返してみる。(コメント=ツ○ート=ポ○ト)


 あー、コラボのアンケート取ったんだった。それで視聴者に、mmとコラボしたら?とか言われたんだったかな。


 そういえば講義前に寝てしまった時、どうしてmmの声が聞こえたんだろうか。

 まあいいか、寝ぼけていたんだろう。


 嬌太郎きょうたろうもまた、mmの中身が莉未だということに気づきそうにもなかった。


 mmとコラボか、どうする。

 おれが急に接触していくのは何かやましいことがあると思われてしまうのではないか?

 でもmmがおれの実況動画を見てくれたってことは認識してくれたことは確かだよな…。


 SNSでフォローしてみるか?うーん…。

 とりあえず今晩配信で視聴者の生の意見を聞いてみよう。



―――― その後大学での講義を終わらせ帰宅し、あれこれ済ませ夜8時になる。


 大学に行く前にSNSで9時に配信することを告知していたので最低限の視聴者は見に来てくれるだろう。

 PCの前の椅子に座り、いつものハイボールを飲みながら準備をする。


 よし時間だな。

 予定時刻の9時に配信をスタートした。


―――チャット欄 ―――

『きたよー』

『お疲れロキ』

『今日は何飲んでるの?』

『雑談しよう』

『スマ○ラしようや』

―――チャット欄 ―――


 視聴者のチャットが流れてくる。


「こんばんわー、みんなもお疲れ様。今日はゲームしないよ」


―――チャット欄 ―――

『いつもみたいにスマ○ラ部屋作ってやるのかと思ったわ』

『ロキ逃げたな』

『雑談でいい』

『どっちでもいいよ』

―――チャット欄 ―――


 いつもはスマ○ラ配信してたからなぁ、告知で詳細書けばよかったな。

「ごめんごめん、今日は雑談に付き合って。相談したいこともあるしさ」


 相談の内容は他でもない、mmとのコラボのことだ。

 しかしいきなりmmの名前を出すのはおれががっついているようで嫌だな。まずここは視聴者がmmの名前を出してくれるように上手く話しの流れを作ろう。


「あのさ、前におれがコラボしようかなって話しをしたじゃん?どんなゲームでコラボするのがいいかな?」


―――チャット欄 ―――

『スマ○ラ一択』

『スマ○ラでザク○イにボコられてどうぞ』

『レト○トと何か』

『赤○のとも』

『FPSは?』

―――チャット欄 ―――


 あれれ…すぐにmmの名前が出ると思ったんだけどな。

もう少し攻めてみるか。


「その辺の人達はおれなんか相手にしてくれないって、少しだけ話したことはあるけど。そうだ!マイ○ラはどう?できれば同じくらいの知名度の実況者さんでさ」


―――チャット欄 ―――

『いいねコラボゲーの定番』

『○○○さんとか』

『○○○は?』

『えー誰かな』

『同じくらいの知名度って、失礼すぎて草』

―――チャット欄 ―――


 最悪だ…確かに失礼な発言だったな。

 mmの名前が一向に出てこないな…。

「確かに失礼だった。○○○さん、○○○さんすみません」


 もう最終手段を使おう。


「ほら、この前SNSのアンケートで誰かの名前出てこなかったっけ?」


―――チャット欄 ―――

『誰だっけ』

『忘れた』

『なんかロキおかしくない?』

『ごめん覚えてない』

『mmじゃない?』

『あー確かにmmちゃんの名前出てたわ』

『思い出したmmだ』

―――チャット欄 ―――


 やった、ようやくその名前が出た!

「そうだったmmさんだったね。マイ○ラがいいのかな?」


―――チャット欄 ―――

『いいんじゃない?マイ○ラ』

『いいねいいね』

『泥酔コラボやん』

―――チャット欄 ―――


 よしよし、おれの目論見通り。

「なるほどね。いろいろ意見ありがとね」


 その後コラボの話しを打ち切り、視聴者のコメントを拾って1時間ほど雑談した。


 ふう、こんなに疲れる配信は初めてだったな。

 mmの名前が出てこないことには相当焦った。

 ……あれ?おれはどうしてこんなにもmmとコラボしたいと思ってるんだ?

 確かにアンケートでmmの名前が多数出てきてはいたけど他にもコラボできる実況者さんはいたはずだ。


 どうしてだろう。…まあいいか、今日はもう寝よう。


―――― 一方、莉未りみ(mm)はバイトを終え帰宅していた。


「はあ、疲れた。急に休まれると困るんだよね」


 コンビニのバイトをしている莉未は他の人が出られなくなり、急遽駆り出されていた。


 明日提出のレポートがある為、一度机についたがソファに戻り少し休憩をとることにした。


「少しだけ休も。誰かの実況でも見ようかな」


 莉未はスマホを手にとり、昔からのファンである、弟○のチャンネルを開こうとしたが。


「ん?ロキさんが配信してるじゃん。そういえば動画は見たことあるけど配信を見に行ったことはないなあ」


===ロキ配信===

『誰かとコラボしようと思ってるんだけど、誰がいいとかあるかな?』

==========


「コラボ?ロキさんってコラボしたことないんだ。 でもこんな風にコラボ相手聞くなんて斬新」


 莉未の言う通り、コラボ相手を配信で視聴者に聞くケースはあまりないが、ロキ(嬌太郎)は実況者の繋がりが乏しい為このような手段を取らざるを得なかった。


===ロキ配信===

『その辺の人達は流石に相手してくれないよ。同じくらいの知名度の実況者さんでいい人いないかな?』

==========


 誰?、誰だっけ、などと視聴者の口から実況者の名前が出てくることがなくなっていた。



カタカタカタ…、パチ。



【mmじゃない?】



 莉未は知らないうちにキーボードを叩いていた。


「え…え、え?私…どうして自分の名前を!?」


===ロキ配信===

『そうだったmmさんだったね。マイ○ラがいいのかな?』

==========


「待って待って!私コラボなんて!したく…え?コラボしたいのかな、私…」


 ここ数日ロキのマイ○ラ実況を見ていた莉未は自身に生まれた、一緒にマイ○ラをしてみたいという感情に気づいていなかった。


「どうしよう。これってロキさんは私とコラボしたいって思っちゃったってことだよね?でも面識も無いし…SNSでもフォローしたりしてないし。でも連絡来たりしたらどうしよう!」


 莉未は自身がしたことを悔やんでいたが、どこか連絡が来ることを心待ちにしていた。



♦♦♦♦♦♦♦♦♦



「よ!ロキさん!」

 朝、校内の売店の前に爽やかすぎる笑顔のイケメンが現れる。


「シーッ!瑛人お前、でかい声でその名前を出すな!」

 瑛人は唯一ロキの中身を知る人物だ。


「わりぃわりぃ。あれ、なんか今日いつもとちがくね?なんかいいことあった?」

 いいことかどうかはさて置き、相変わらず勘のいいやつだ。


「昨日配信したんだよ」


「へー、見てなかった。んで?何があったん?」


「コラボの相手を視聴者に聞いてた」


「おー!決まったのか!?誰とコラボ!?レト○ト?」

 瑛人はレト○トさんの大ファンだ。


「ごめんレト○トさんじゃないんだ。mmって女の実況者の人。決まったていうか候補?みたいな感じ」


「mm?……誰それ」

 知らなくても無理はない、おれですら知らなかったのだから。


「登録者数20~30万人の人。ジャンルはおれと同じ感じ」


「すげーじゃん、今度見てみるか。で?どうやってコラボまでもっていくん?」


「そこなんだよな…。おれも悩んでる。そもそもみんなどうやって仲良くなってるのかが分からん」

 実況者の友達はほぼ0。


「とりあえずSNSフォローしたら?それくらいなら別にいいだろ」


「まあ確かにそれくらいなら…」


「あ、そうだ。今日おれスマホ忘れたんだったわ。ちょっと電話しなきゃいけないから貸してくんね?」


「は?まあいいけど」

 パスワードを解除しスマホを渡す。


「サンキュー。えーっと電話番号が…」


「ちゃんと言っておけよ。嬌太郎さんの電話です、って」


「はいはい……。おっけ!やっぱ返す!」


「なんだそれ。電話するんじゃ……、これ…おま…」



 返されたスマホの画面はSNSが開かれていてmmにメッセージを送っていた。




【はじめまして、よかったらコラボしませんか?】




 その後、瑛人はニヤニヤしながら何か話していたが頭の中が真っ白なおれにはそれが聞こえなかった。




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