第3話:誰?その実況者



大学での講義が全て終わり帰宅し軽くシャワーを浴び冷蔵庫の冷えたハイボール缶の蓋を開ける。



先日撮影したモン○ン実況の動画編集を行っている。


獰猛なディアブ○ス亜種に角で突き上げ続けられる動画だ。



恥ずかしながらゲーム実況者のくせにアクション系はそこまで得意ではない。



編集で拘っているのは自分の言葉を全て文字起こしすること。


かなり地道な作業だが、古くからリスペクトしている実況者の動画に倣いその術を取り入れている。



おっと、もう21時半か。mmはもう生配信だろうか。



動画編集の手を止めスマホでyou○ubeを開く。


mmのチャンネルは以前に登録していた為、そこへ移動するのは容易だった。



配信は予定通り21時から始まっていたようで経過時間は32分ほどだった。



音量を上げると彼女の声がおれの耳を通ってきた。



「今みんなと話してたけど、このあとゲームやろうと思ってたんだよね。このままだらだら話しするのもありかな?」



―――チャット欄 ―――


『ゲームも見たかったけど別にいいよ』


『いいね、話そう!』


『mm質問させてー』


『酒飲むなよ草』


―――チャット欄 ―――



「もう飲まないよ!じゃあこのまま話そうか。何か聞きたいことあったら聞いてね、答えられる範囲なら答えるよー」



おいおい、どうせ下ネタくるぞ。



―――チャット欄 ―――


『mmって何歳?』


『休日何してるのー』


『一番好きなゲームは?』


―――チャット欄 ―――



へえ、意外と良心的な視聴者が多いんだな。



「歳?前も言わなかったかな、21歳だよ」



21歳…おれと同い年か。



「休日は喫茶店行ったり、服買ったりしてるかな。好きなゲームはマイ○ラ!」



マイ○ラはおれも好きなゲーム。サバイバルで何もない状況から村を立ち上げたりするのが最高に楽しい。



―――チャット欄 ―――


『でもmmはマイ○ラ下手だよね』


『いつもすぐ氏ぬやん』


『お前ら分かってないな、怯えてながらプレイしてるのがmmちゃんのいい所だぞ』


『mmちゃんは丁寧で慎重なんだけど下手なんだよね草』


―――チャット欄 ―――



さすが女性実況者。熱狂的なファンもいるって感じかな。



「だってスケ○トンが強すぎなんだもん、鉄装備作るのも時間かかるしさあ」



分かった、この人がものすごくマイ○ラを苦手としていることがすぐに分かった。


できるのであれば協力してあげたいなー。


ああ、じれったい。



―――チャット欄 ―――


『誰かに手伝ってもらえば?』


『mm弱すぎだからなあ』


『そういえばmmってコラボとかしないよね』


―――チャット欄 ―――



「うーん。コラボはできないよー。苦手なんだよね、人見知りだからさ」



ああ、おれも同意見。本当に仲良くなった人としかできないなあ。



―――チャット欄 ―――


『あ、ロキって人は?あの人もマイ○ラよくやってるよ』


『ロキは上手いよな』


『確かに。そういえば二人とも同じ日に泥酔して荒れてたから気合うんじゃね?』


『えー、mmが男とコラボはなんか嫌だなあ』


―――チャット欄 ―――



は?なんでここでおれの名前が出てくるんだよ。


それと…、あの晩のことはもう忘れてくれ。



「あ~、なんかトレンドで一緒に浮上してたみたいだね。でも動画見たことないんだよね」


ほう?本人が見てるとは思ってもいないだろうな。



「じゃああとで少しロキさんのマイ○ラ実況見てみようかな」


うわあ、こんな展開になるとは。なんか恥ずかしいな。



もういいかなと思いmmの配信画面を閉じた。


動画編集の続きするかぁー。


おそらく今夜は2時近くまでかかるだろう。




♦♦♦♦♦♦♦♦♦




―――― 一方、莉未は23時前に配信を終えベッドに仰向けに寝そべり休憩をしていた。



彼女は何かを思い出したのか、あ!と口を開けスマホでyou○ubeを開き【ロキ】と検索をかけた。



「ロキゲーム、登録者数50万人…ほんとだすごく人気あるじゃないこの人」



莉未はなんとなく自分と同じくらいの登録者数だと思っていたようだ。



再生リストを開きマイ○ラを選択する。



「50話もあるんだ、ゆっくり見ようかな」



生配信でまったりプレイしている莉未と違い、ロキは30分程度に動画を分けて投稿している。



「早速見てみようかな」



===ロキの動画===


『はい、ロキです。こんにちわー。今日もマイ○ラやっていきますよ。』


『マイ○ラって最初が肝心だよね。とりあえず木を切って石を手に入れて、石炭をどれだけ早く採取できるかが問題なんですよ』


===========



「MODは使わないんだねロキさん。まあ私も使ったことないんだけどね」



ロキのマイ○ラのプレイスタイルは村をどんどん発展させていくという、ごくごく普通なものだが、温厚な口調でのユーモア溢れるトークスキルと高い編集力で再生回数を稼いでいる。



「あ、もうこんな時間。そろそろ寝ないと」



彼女は3話見終わりサイトを閉じた。



「……なんか聞いたことある声…、いやでもロキさんの動画は初めて見たしなあ」



ロキが嬌太郎だと気づくはずもなく、時計の針が1時を差すのを確認し、布団にもぐった。




♦♦♦♦♦♦♦♦♦




やーっと終わった。


げ!もう3時じゃん。今から寝て朝起きれっかなぁ。



午前中には経理学の定期テストがある。


自慢ではないがおれはそこそこ頭がいいので起きることさえできれば何も問題ない。



机に伏せてあるスマホに手を伸ばし、心もとないが瑛人に連絡する。



『朝起こしに来てくれ、頼むよ』


土下座スタンプを付け、寝ることにした。





―――― ドンドンドンッ! ドンドンドンッ!



なんだ?こんな朝っぱらから…。



隣の家に住む大家さんがブチキレて出てくるのではないかと思うほど大きな音を立てる玄関ドアを押し開けると。



「おい!嬌太郎!!大変だぞ!」


血走った目を見開き、息を切らしながら大声をたてる瑛人の勢いにのけ反った。



「な、なに。なんだよ」



「やべーよ!おれも寝坊した!」



まあ想定の範囲内だったのでそこまで驚きはしなかった。



「大丈夫、瑛人は何も悪くないよ。じゃあ行こうか」



はぁ、こんな時にいつも起こしに来てくれた人がもういないということを思い出し、ほんの少しだけ心に穴が空いたように感じた。


いつまでも引きずってるなんて男らしくないなと思いながら校舎へ走った。



アパートから大学までの200mの距離をダッシュした甲斐もあって定期テストの時間に間に合い、無事講義を終えた。



次の教室への移動中、瑛人が肘でおれの腕を小突いてきた。



「嬌太郎ってさ、また誰かとコラボしたりしねーの?昔誰かとしてたよな」



「しないよ。あいつとは方向性変わっちゃったからさ」



「ふーん。でもさ、視聴者としてはコラボとか見ると喜ぶんじゃね?」


瑛人はニィっと笑いこっちを向いた。



「んー、今度視聴者に聞いてみようかな」



「お、いいねいいね!コラボするゲームは何にするん?」



「まだやるとは決まってねーぞ。でもなんだろうなあ、みんなが分かるやつ……まあ手っ取り早いのはやっぱりマイ○ラかな」



マイ○ラでコラボは流石にベタかな。



「いいじゃん!早速視聴者に聞いてみなよ!」



「はいはい」



コラボなあ、てかそもそも仲のいい実況者があんまりいないんだよなあ。


まあとりあえず視聴者の意見でも聞いてみようか。



SNSを開きコラボ実況を見たいかどうかのアンケートのコメントを出した。(※コメント=ツ○ート=ポ○ト)



「嬌太郎、今日飲みいかね?」



「いいね、いつものとこにしようか」



この日、講義を全て終えた後おれ達は久々に街で飲み明かした。





―――― SNSのコメント欄が大変なことになっているとも知らずに。





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