第25話 林葬
クインの件から、数日が経過。
その間、アイリスとフロンさんはカケダーシのギルドにて、クエストの報告書を書き連ねる作業に追われていた。
クインはトナリーノの街には向かわず、そのまま王宮へ。
その後の事は、一般冒険者の俺たちには分からない。
カゲトラはどうやら、自分探しの旅に出るようだった。
『景虎』という存在のまさしく陰に佇んでいた彼にとって、日に当たる事は特別なのだろう。
ウキウキとした様子で、カケダーシの街へ背を向けた。
ちなみに、俺とヤミィは──
カケダーシの街の、手前に広がる平原。
軽い岡の頂点に差し掛かって、俺は足を止めた。
「──この辺にするか? ほら、『世界の大樹』もよく見えるぞ」
「うん」
ヤミィはこくりとうなづき、かがみ込む。
懐から小さなスコップを取り出して、地面を掘り始めた。
そして穴にある程度の深さが出てきたところでスコップをしまって、代わりに苗木を取り出す。
彼女は優しく丁寧に苗木を穴の中に入れ、土を戻す。
──この世界には火葬以外に、林葬というものがあるらしい。
「……モルト」
ヤミィは苗木に手を合わせて、そう呟いた。
そして表情に一筋の影を浮かべて、続ける。
「……遅かったかな?」
この林葬は、彼女の両親が亡くなってから数年の時を経て行なっているものだ。
死者を弔う儀式としては、かなり遅い方なのだろう。
それも、火葬という最もタイムリーな儀式を引き合いに出してしまっては。
が、この儀式の本質はそこにはない……と思う。
俺はヤミィと同じようにかがみ込み、苗木に手を合わせた。
「──ヤミィの両親は、これから世界の大樹の力になれるんだ。……その事実に、遅いも早いもないだろ?」
「……」
「これから、俺たちにできることをやろう」
「……うん」
軽く、ヤミィの肩と俺の肩は触れ合う。
彼女の体重が、そして遅れてぬくもりもジンワリと俺の肩を伝ってくる。
「……次」
「ん?」
ポツリと、ヤミィが何かを呟いたのを聞き、彼女を一瞥する。
その後、俺はすぐに苗木へと意識を戻した。
続く彼女の言葉に耳を傾けることもせず、やぼったい事も考えずに。
「……次は、私の仲間も連れてくる。……だから、待ってて」
ヤミィは彼女の両親にそう言った後、しばらく苗木に手を合わせていた。
──どんな儀式も、行う人間がいて成立するものだ。
冒険者が亡くなった時、御遺体すら遺族の手元に戻ってこない事がある。
火葬をして、世界の大樹の栄養にさせてあげられない事がある。
だからこそ『林葬』は、大切にされてきたのだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます