第26話 面倒くさいに囲まれる




ヤミィとの林葬が終わって、カケダーシの街の門をくぐったその時。

妙にギルドの方が騒がしかったので、2人で寄り道をして行くことにした。

そしたらまぁ……、珍しい光景が広がっておりましてね。




「──離してくださいっ! コレは私たちのクエストですっ!」


と、フロンさんがクエスト受注の為の紙を引っ張っている。

無論、それを引っ張る者はもう1人いた。


「──ダメだダメだっ! クイン姫の件があるではないかっ! お前たちには任しておけないっ!」


と、メガネをかけた真面目そうな女の人が、フロンさんとは反対方向に、件の紙を引っ張っている。

さながらその光景は『やーん! 私の為に争わないでーっ!』ってな感じ。

更にはその2人を取り囲むように野次馬がワラワラとおりまして、ギルド内はやけ賑やかだ。


「……モルト。……何が起きてるの?」


「ん? ……あぁ、見えないのか?」


「……うん」


どうやらヤミィは身長のせいで、フロンさんの姿が見えていないらしい。

だが、事細かに状況を説明するのも骨が折れそうだ。

俺はほんの少しだけ考えた後、ヤミィの後ろに回り込む。


軽く腰を曲げて、両手は彼女の脇腹あたりをガッチリと掴む。


「よし、ヤミィ、準備はいいか? ……じっとしてろよ」


「……っ? ……まって、モル──」


困惑する彼女の制止は聞かず、そのまま腰を伸ばし、腕を天高く伸ばす。

そう、これは小さな子供をあやす時に大活躍する『たかいたかい』である。


「……おろして」


「どうだ? よく見えるだろ?」


「……」


彼女は何も言わなかった。

フロンさんの所をチラッと見るくらいのことはしたのだが、それ以上にこの体制が嫌らしい。

顔を赤くして俺を見下ろす。


「……ねぇ、モルト。……これ、恥ずかしい」


「恥ずかしがらなくてもいいだろ? これくらい、誰も気にして──」


そう言いきる前に、俺の視界は傾いた。


妙にゆっくりと流れる時間。

視界に映ったのは、ヤミィのスカートの下から覗く『非合法なヤツ』と、俺の顔面にめり込む靴の裏側……。


「──ぶっ!? ばあっ!?」


ドガッシッ!?


ガシャーーーン!


時間の流れが正常になったのは、俺の体ががギルドの壁に激突した時だ。

全身に反響する痛み……特に顔面。


ぐらつく視界と共に立ち上がると、目の前には腕を組んだアイリスが。

怒っている様子だった。


「えっ? なに?」


「ヤミィのパンツ! 覗いてたでしょ!?」


「……?? ……俺が?」


「アンタ以外に誰もいなぁい!」


「……なら、とんでもない誤解だな」


確かにそう勘違いされるような行動ではあったが、ドロップキックをぶちかまされるような事でもないだろう。

しかもだるま落としみたいに、ヤミィには危害を加えないトリッキーなやつを。


俺は憤りつつも、冷静にヤミィと目を合わせる。

きょとんとしている彼女の顔は、ほんのりと赤みがかっていた。


「ちょいちょい、ヤミィさん。アイリスの誤解を解いてくださいな」


ヤミィは俺が手招くと、タッタッタッと小走りで寄ってきた。

しかしその道中、アイリスが彼女の腕を掴んだ。


「やめなさい。あの変態に近づいたら、次は何されるか……」


「だからっ、それは誤解だって──」


「モルトさぁん! ちょっと助けてくださいよぉ!」


面倒ごとが次から次へと……。

クエストの受注について争っていたフロンさんが、俺の元へ駆け寄ってきた。

ついでにメガネをかけた女の人と、野次馬を連れて。


「ちょっとフロン! 今、モルトと私が大事な話をしてるのっ! 分からない?」


「いやいやアイリスさんっ! こっちの方が重大ですよ! だってこのままだとクインさんのクエストが──」


「……モルト、私のパンツ見たいなら、 ……後でね」


言い争いの相手が変わったフロンさんと、いつも通りのアイリス。

それと、とんでもない事を呟くヤミィ。

騒がしさの増した野次馬たちは、各々が興味のある事について騒ぎ立てる。


「あーもう! 一個ずつ! 面倒ごとは一個ずつでお願いしまぁぁぁぁすっ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る