ep.24 エピローグ
どうやら森を抜けたみたいですよ。
偵察から戻って来たシシィがそういった。
俺と美弥は顔を見合わせ、
「本当か!?」
二人でシシィに詰め寄る。
「森が途切れていたのは事実ですよ」
「含みのある言い方だな」
「んー、いってもいいですけど……先輩、怒りません? ネタバレだって」
あー、うん、怒るかも。
俺が口ごもっていると、美弥がしたり顔でいう。
「ん。三間坂は理不尽」
「ですよね」
「サンドイッチ事件でも思った」
「ああ、好きなの食べていいよっていっておきながら、後になって照り焼きチキン食べたかったってグチグチいってた、あれ」
「そう。しばらく三間坂から怨めしげな目で見られてた」
「でしたねぇ」
「シシィも。おにぎり事件」
「わたしは楽しかったですけど……理不尽だったかも知れませんね」
きゃいきゃい盛り上がる二人を、俺は小さくなってやり過ごす。
女三人寄ればかしましいというけどさ。二人でも十分……。
あれは……四日前だったか。昼食でサンドイッチが出て来た。レディーファーストで、俺は先に選んでもらった。後日、美弥が食べていた照り焼きチキン味を、俺も食べたいとシシィにいったところ、もうありませんといわれてしまった。ただそれだけの話だ。
ああ、睨んださ。美弥を。でも、仕方ないじゃん。
森ん中じゃメシ食うぐらいしか楽しみないんだから。
立場が逆だったら、間違いなく美弥は俺をネチネチといびったはずだ。
続くおにぎり事件。
これもまたしょうもない話で。
というか、暇すぎて大したコトでなくても、事件にされてしまうんだろうな。
まぁ、いいや。俺はサンドイッチ事件を踏まえ、食べたいおにぎりの具を宣言した。
料理研究部の手作りだってのを忘れていたのだ。コンビニのおにぎりの感覚で、パッケージで分かるだろって。だから、理由をいってくれれば、俺も引き下がったのである。
しかし、学校を離れ。
外聞を憚らなくなったシシィは……浮かれていた。
お世話したいモードに入っていたのだ。
そりゃもう嬉々としておにぎりを割り始め。
悪乗りした美弥は俺を亭主関白と詰った。そんな事件。
「今日で森に入って何日だったっけ?」
「う~んと」シシィは指を折り。「ちょうど一週間ですね」
生徒会の調査通り、森は魔物はおろか、動物もいなかった。
おかげでひたすら歩くだけの毎日。
日付の感覚も曖昧になり……でも、そうか。一週間しか経ってないのか。
「決闘したのも遥か昔のように感じる」
「そんなこともありましたね」
「美弥の仇討だぞ。忘れてやるなよ」
俺は恐る恐る美弥の顔色を窺う。
美弥は呆れたように肩を竦め、
「三間坂は繊細」
「それ、褒めてないよな。悪口だよな」
「んっ!」
よくできました、と美弥が微笑む。随分表情が豊かになった気がする。あるいは美弥の微妙な表情の変化を、俺が感じ取れるようになったのか。
シシィが苦笑いしながら、補足する。
「他人行儀だっていいたいんですよ、美弥先輩は」
「親しき仲にも礼儀ありっていうだろ」
「必要ですか? 心が繋がってるわたしたちに」
ああ、確かに……って。
「そりゃ俺とお前たちはそうだろう。でも、シシィと美弥の間は違うだろ。シシィが美弥に無遠慮だって話だよ」
シシィと美弥は顔を見合わせ、溜息を吐く。
奇麗にシンクロしており……練習でもしてたのか。腹立つな。
「いいですか、先輩。ご主人様はでん、と構えてればいいんです」
「今の三間坂は小間使い」
「虎居を倒した時は見事なご主人様っぷりだったのに」
「シシィ。三間坂は中途半端に時間があると、考えすぎて身動き取れなくなるタイプ」
「あー、それです美弥先輩、よく見てますね」
「要は、リーダーの自覚を持つべき」
「そう。着いて来てくれるかなって、チラチラ後ろ振り向くような、そんな真似して欲しくないんです。わたしたちは絶対について行くんですから」
「ん、シシィ、いいこといった」
はー、そうですねぇ。いいことはいってる……のかも知れませんね。
でもさ、こういうのって誰がいったかが大事で。
「お前らだけにゃ、いわれたくねーよ!」
本当に俺の人形なの? ってレベルで自由じゃねーか。
そのくせ俺の生命線なんだよ。見放されたら一巻の終わり。
でも、そこは疑うなっていってんだよな。面倒くせぇ。お前らのご主人様像を押し付けるなよ。俺にあれこれいう前に、お前らの態度改めたら?
「ほら、くっちゃべってねーで、行くぞ」
「それですよ、先輩」
シシィを無視して歩き出す。
確かに無意識に下手に出ていたかも知れない。
二人はついて来るといっているのだ。
もう少し好き勝手振舞っても構わないだろう。
「楽しみですね」
右を見ればシシィが。
「んっ」
左を見れば美弥が。
三人で並んで歩く。
正面から見たら、山の字になっているだろう。
まったくロリロリしいことこの上ない。
「街。あるといいな」
「ん、言葉通じるか、心配」
「そこは女神を信じようぜ」
俺は翻訳スキルができる子だって信じている。
ダメだったら……。
「最悪、ボディーランゲージだな。バイト先に海外旅行が趣味の人がいたんだけど、案外言葉通じなくても身振り手振りでなんとかなるらしい」
「どうしてもダメだったら、わたしがスキル取ってなんとかしますよ」
「……シシィならできそーで怖えーよ」
「お任せください」
異世界に来てから、色々あった。本当に。だが、足踏みしていただけ。
「そこで森は終わりです。一緒に行きましょう」
ようやく本当の意味で異世界へ踏み出した。そんな気がした。
「行く。一緒」
二人と手を繋ぎ、小走りで駆ける。
前方から光が射していた。
俺たちの前途を祝福しているように思えた。
――――――――――――――――
これにて完結です。ここまで読んでいただきありがとうございます。
ロリは人形に入りますか? 光喜 @mitsuki1192
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