第12話第2章の始まり
俺は麗から離れ、人気のない場所に隠れる。
しまった!今日は満月だった。うっかりしてた。どうしよう。このままじゃ帰れない。
俺はスマホを取り出し、店長に電話する。
「え!?姿が変わってしまって一緒にかえれない!?ああ、今日は満月か。俺も、うっかりしてたよ。スマン。
みんなには、なんとか言っておくが、和男ちゃん、どうやって帰る?また迎えに来ようか?」
「店長、ありがとうございます。
俺はタクシーで帰るので大丈夫です。
あと、麗の事・・・お願いします。」
「ん?いいけど、なんで麗ちゃん?」
「あ、いや。」
俺は少し動揺した。
「体が変わる寸前に、急に逃げたんで、ビックリしたと思うんで・・・」
「ああ、そうだな。わかった。じゃあ、気をつけて帰ってこいよ。」
「ありがとうございます。」
麗・・・
また俺は麗にキスしようとしてしまった。
そして・・・麗も、俺を受け入れたように感じた・・・いや、気のせいかもしれない。
こんな、何もない中年オヤジに、そんな感情持つわけがない。
余計な考えを起こすのはやめよう・・・
◇◇◇◇◇
「えみかさん、久しぶりですね。テストお疲れ様でした。」
いや、俺は全然、久しぶりじゃないんだけどね、
いつも通り暇なコンビニだ。
「あ、そうだ、俺、えみかさんに会えない間、麗にイベントのチケット渡したんですけど・・・」
「ああ、受け取った。」
「ほんとですか?行けますか?」
若い子達の音楽イベントのチケットだ。
正直、興味が無いので、行きたくないのだが・・・
だんだんコイツの純粋さが伝わってきて、断るのも、申し訳なく感じてきた。
「たぶん・・・」
「やったー!」
サワが抱きついてきた。
「ちょ・・・ちょっと!仕事中!」
「あ!すいません!」
サワは離れた。そして
「これなら、いいですか?」
カウンターの後ろでバレないように、俺の手を握った。
サワは照れたような、はにかんだような顔をしている。コイツは、意外に純情かもしれない。なんだか、親のような気持ちになった。
◇◇◇◇
数日がたち、俺は芸能事務所に契約する為にKFCの事務所に呼ばれた。
初めて入る芸能事務所に、俺は緊張を隠せなかった。
応接室に案内され、出されたお茶を飲んで待っていると、コンビニに来たスカウトマンの男と、もう1人、50代くらいの女性が入ってきた。
「お待たせして、すみませんでした。
改めまして、
俺は、頭を下げる。
「そして、こちらは・・・」
50代くらいの女性は、俺に顔を近づけ、上から下までジロジロ見る。
なんだ、この女は。
「佐渡君、いいコ連れてきたわ〜。こんないいコ、初めて見たわ。」
「ありがとうございます。」
「新庄えみかさんね。わたし、ここの代表やってる増川峰子といいます。」
「はじめまして・・・」
代表という女性は、再び、俺に顔を近づける。
「えみかさん、本気で世界一を目指す?」
はい?
「世界一?」
「そう。世界一。」
せっ、世界一って、俺が?
「あなたがその気になれば世界一のアイドルになれるわ。
私は是非、その手助けをしたい。あなたと一緒にに世界を見たいわ。」
「世界って、あたしなんかが見れるんでしょうか・・・」
代表、増川峰子は頷いた。
「あたし、何十年もこの世界にいるけど、あなたのような人は見た事ない。
容姿だけじゃなくて、なんていうのかしら、生まれもった天性のオーラを感じる。
今までスカウトを受けた事が無いっていうのが信じられないくらい。今までどこにいたの?っていうくらいよ。」
まあ、今までは、いたのか、いなかったのか、わからない存在だっから・・・
「あたし、輝けますか?」
「もちろん、保証するわ。」
俺は、たくさんの書類に目を通し、印鑑を押した。
「さっそく、明日からレッスンを開始したいんだけど、大丈夫かな?」
佐渡君が言う。
俺は明日からの説明を受け、事務所を後にした。
帰り道、アパートの近くで、麗が待っていた。
「えみかさん。」
「麗。」
俺は少し気まずかった。
麗は、俺に寄ってくる。
「和男ちゃん、身内に不幸があって、しばらく親戚の家に行くって聞いたんですけど・・・」
え?
「でも、急すぎますよね。遊園地で遊んで、そのまま急いで行っちゃうって。」
ああ、店長がそう言ってくれたのか。
「あの時は急だったから・・・しばらく忙しくて帰ってこれないけど、そのうち帰って来れるんじゃないな。うん。」
気まず・・・
「早く会いたいな・・・」
「え?」
「和男ちゃんに・・・会いたいって・・・・伝えてください。」
「和男に?」
麗は頬を赤らめ頷いた。
「失礼します。」
麗は走り去った。
え?
俺に会いたい?
麗が?
そう言ったよな?いま。
◇◇◇◇◇
翌日、時間通り、俺はKFCに来た。
事務所内を案内された後、別館のレッスンスタジオに案内された。
廊下から見えるダンススタジオには20人くらいの女の子達がダンスのレッスンに
俺に、ほんとにできるのかな。
一生懸命がんばっている彼女達を目の前にして、俺は急に不安になってきた。
休憩時間になり、ダンスの先生が、俺のもとにきた。
「YUKi(ゆうき)先生、彼女が今日から練習生の新庄えみかです。よろしくお願いします。」
佐渡さんから引き継がれた、若いマネージャーの
「はじめまして!新庄えみかです!よろしくお願いします!」
俺のダンスレッスンが始まった。
ダンスなんて、到底やった事ない俺が大丈夫なのか?と思ったが、えみかには、どうやらそういう能力があるらしく、まるで何年もやっていたかのように、サラッとやっとのけた。
俺のようで、俺では無いようだった。
レッスンが終り、ロッカールームに向かう途中、大柄な男とぶつかり、俺は尻持ちをついた。
「いって〜。」
立ち上がりたくても、すぐに立てない。
そこは54歳のままだ。
「すみません、大丈夫ですか?」
ぶつかった男は手を差し伸べてくれた。
いてて・・・
俺はケツをさすりながら立ち上がった。
この男・・・なんか見た事あるなぁ。
あ、あのCMに出てるイケメンアイドルか!
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