第13話告白―前編―

はあ〜

全身筋肉痛の上に、打ったケツがいてぇ。

アイドルになるって、やっぱりスゲェ事なんだな。しかも、あんな美少女揃いなのに、あの中でものスゴイバトルがあるんだな、きっと。

俺はケツをさすりながら帰り道を歩く。

夏が終り、少しずつ日が暮れるのが早くなってきたせいか、辺りはもう暗くなっていた。

アパートの近くに来ると、階段の辺りに人がいた。


うららだ・・・


俺は足を止めた。

何やってるんだ。こんな時間まで。

おれは、しはらく様子をみた。

遠目でもわかる、寂しそうな顔の麗を、今すぐに抱きしめたかった。

・・・でも・・・それは、できない。

俺はいいさ別に。

今更もう失くすものなんて無いから。

でも、麗は違う。

こんなオッサンと付き合って時間をムダにするより、いっぱい友達と遊んで、勉強もして、同年代のヤツと恋をする方が、彼女は幸せになれる。

俺は、来た道を戻り、麗が居なくなるのを待った。


帰宅してからは、麗の事が心配になり、眠れなかった。

――もしも帰り道に麗に何かあったら、俺のせいだ。

俺は布団を頭から被った。

こんなにも頭の中が麗でいっぱいだ。

頼むから、これ以上、俺の中に入ってこないでくれ・・・。


レッスンの後は夜からいつもどおりバイトだ。

サワと俺はゴミの分別をする。


「和男が、ずっと家に戻ってないみたいですね。」


ドキッ


「なんか、忙しいみたいですね。あたしも、あまりわかんないけど・・・」

「麗が毎日会いに行ってるみたいだけど、全然会えないって、元気なくて。」

「・・・そうなんだ・・・」

アイツ和男の事好きなんスよ。」


俺はゴミの分別を続ける。


「それは無いでしょ。麗ちゃんと和男じゃ、歳が離れすぎてる。麗ちゃんが好きなわけないよ。」

「アイツは、そういうの気にしないっスよ。

アイツ、あんなチャラい感じにみえるけど、人を見た目とか、年齢とか、そういうので決めなくて、その人の性格とか、ちゃんと見て仲良くなったり、好きになったりするタイプですよ。」

「・・・・」

「和男はどうなのかなぁ?和男アイツ女なんか居なさそうだけど・・・」


俺は手を止めた。


「もし、和男と麗ちゃんが付き合ったら、サワはどう思う?」

「いいんじゃないですか?別に。」


即答するサワに、俺はビビった。


「好き合ってるんなら、それでいいでしょ。」


俺は複雑な気持ちだった。


◇◇◇◇◇◇


サワと約束していた音楽イベントの帰り道。

サワは楽しそうにイベントの話しをしてるが、悪いが俺は考えていた。

サワは、えみかが好きだ。

だけどそれは、えみかだけど、中身は54歳のオッサンだ。このままこの関係を続ければ、間違いなく、俺はサワも傷つける。

イキオイで付き合ってしまったが、コイツらの純粋な部分を知るたびに、だんだん心が痛くなってきた。

ここは、ハッキリさせた方が、サワの為だ。

2〜3発殴られて、終わりにしよう。


「サワ君、あの、別れよう。」

「え?」


サワは少し驚いた顔をしたが


「そうだね。別れよう。」

「え?」


今度は俺が驚いた。


「えみかさん、俺の事好きじゃないのに、このまま付き合うの、正直、俺もキツかったから、別れよう。」

「サワ君・・・」

「ゴメンな。嫌な事言わせて。俺から言わないとダメだよな、こういうのは。

だけどさ、せっかく知り合えたんだし、友達でいてもいいかな。バイトも、辞めたくないし。」


サワは爽やかに笑った。

やっぱりイケメンだな。


「うん。」


俺も笑顔で頷いた。

こうして、俺とサワは、呆気なく別れる事ができた。


◇◇◇◇◇


アパートに着くと、こんな時でも麗が待っていた。


「麗ちゃん。」


俺は迷ったが、声をかけた。


「えみかさん、和男ちゃんは、まだ戻れないんですか?」


俺は少し考えた。


「今度、出掛けようって和男が言ってた。」

「え?」

「日にちはまた連絡するから、麗ちゃんが行きたいとこ行こうって伝えてくれって、頼まれた。」

「え、ほんとに?和男ちゃんと一緒にですか?」


麗は、とても嬉しそうだ。

ほんとにいいのか?

俺で。

そして、俺の判断は、間違ってないのか?

わからない、わからないが・・・

俺は麗といたい。


後日、俺は元の姿に戻ってから、麗に連絡をした。

カレンダーで満月の確認をしてから、デートの約束をした。

大丈夫、この日なら、えみかに変わることは無い。


麗がデートに選んだ場所は、みんなで来た遊園地だっ。


「ここね、じつはサワの家が経営してる遊園地なんだよ。すごいでしょ。サワの家、親戚みんな、お金持ちなんだよ。」


まじか!?


半端ないお坊ちゃんなんだな!アイツ。

しかし、日曜の昼間というに、あまり客がいないな。

不思議に思い、辺りを見回す俺に気付いた麗は言う。


「じつはね、今日の事サワに話したら、貸し切りにしてくれたの。」

「か、か、貸し切り!?」


この某大手遊園地並みの広さの遊園地を貸し切り!?

あまりのスケールに、俺は泡を吹きそうになったが、なんとかこらえた。


「だからね、思いっきり遊ぼ!」


麗は、俺の腕を組み、嬉しそうだ。

カ、カワイイ・・・♡

そして、俺の腕に麗の柔らかいモノが当たる。

はぁ、なんて幸せなんだ。


俺は麗に付き合い、ジェットコースターなどを、これでもかという程乗った。


「はぁ、疲れた・・・」


日が暮れかかり、俺はさすがにグッタリした。


「じゃあ、あれに乗って休憩しよ。」


麗は巨大観覧車を指さした。


俺と麗は観覧車に乗り込む。


「わぁー夜景が綺麗・・・」


この時期は、日が暮れだすと、一気に日は落ち、あたりは暗くなり、街の夜景が幻想的に浮かび上がる。

麗は、俺の隣に座り直す。


「和男ちゃん、今日はとっても楽しかった。

ありがとね。

和男ちゃんは?楽しかった?」

「うん。楽しかった。」


麗は空を見上げた。


「あたし・・・和男ちゃんが好きです。

あたしと、付き合ってほしいです。

この観覧車が、頂上に上がった時に・・・

返事をください。」


そういうと、彼女は目を閉じて、俺に軽く唇を突き出した。

え!!

こ、これって・・・

3度目のナントカ・・・

い、いいのか、いいんだな。

彼女は、俺の事好きと言ったし、邪魔するヤツは誰も居ないし・・・

俺は、彼女の両腕を、そっとつかんだ。

いいんだな、ほんとに。

人生初の(男としての)キス、していいんだな。

俺はゴンドラが頂上に着くのを確認する為に、外を見る。あと少し、あと少し、もうスグ・・・

いまだ・・・!!

頂上に達した時、俺の目に映ったのは、大きな満月だった。


はあ!?


ゴンドラのガラスに映る俺は、みるみる、えみかに変わっていく。


待ってくれ!

どういう事だ!

ちゃんと確認したハズなのに!


俺はハッとした。

カレンダー・・・俺は先月のままだった。

俺は1ケ月前のカレンダーを見てたんだ!!


「和男ちゃん?」


麗がそっと目を開ける。

どうしよう!!

絶対絶命だ!!




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