第11話俺と麗

誰もいない真っ暗なコンビニの裏の手洗い場で、俺と麗は、固まったまま動けないでいた。

麗は、顔を赤らめ、目を丸くして俺を見る。

キスしようとしたのがバレたか。

俺は完全アウトか。


「麗〜!もう圓終わるから帰るよ〜!」


ハッ


麗は我に反り、


「う、うん!今行く!」


みんなの元に戻った。


終わった。


俺の人生は完全に終わってしまった。

あと数日で俺のもとに警察が来て、俺は淫行で捕まるんだ。

母ちゃん、ごめん。こんな息子で。

喜んでくれた店長、ごめん。


「じゃ、お先に。」


4人は帰って行ったが、俺は麗の顔をまともに見る事はできなかった。


アパートに戻り、覚悟を決め、身辺整理をして、俺は寝た。


翌日になっても2日過ぎても3日過ぎても、警察が来る事はなかった。

俺は・・・

助かったのか?

許してもらえたのか、もしくは、気づいていなかったのか。

わからない・・・

とにかく俺は、捕まる事は無かった。


◇◇◇◇◇


ピンポーン


アパートのインターホンが鳴り、俺は出た。

外にいたのは麗だった。


「え?なんで?」


麗が目を丸くして驚く。

え!?

俺も驚く。

なんて言い訳しよう。


「まあ、とりあえず入って。」

「お邪魔します。」


幸い身辺整理をした直後だから部屋は綺麗だった。


「え!和男ちゃんと、えみかさん、親戚なの?」

「うん。まあ・・・俺の姉の子供なんだ。」

「ええ〜そうだったんだぁ。もう言ってよ〜。でも、えみかさん前に体調くずした時、和男ちゃんどこにいたの?」


へっ?


「あ、ああ、あの時ね。普段は、えみかは、ここに住んでないんだけど、姉夫婦が旅行に行ってる時に、えみかが熱だして、女の1人暮らしに、いくら叔父でも上がる訳にはいかないから、俺の部屋に連れてきて、それで、えっと・・・汗かいたから、着替えを買いに行ってたんだ。」


くっ苦しすぎる言い訳だ〜!


「へぇ~よくわかんないけど、和男ちゃんも大変なんだね。」


意外に素直で良かった。


「ところで、キミは何しに来たんだ?」

「あ、あたしはね、サワに頼まれて。」


イベントのチケットを出してきた。


「えみかさんに、テスト終わったら一緒に行こうって伝えてほしいって。

なんか、テスト終わるまで会わないし、連絡も取らないって約束してるんだって。それを守ってるみたいだけど、どうしても早く渡したかったみたいで、あたしに頼んできたの。

紋じゃ、ケンカになるからダメだって。」

「ヤツが?」

「もう〜。ヤツとか言わないで、許してあげて。サワも、和男ちゃんに酷い事したの、反省してるよ。」


麗は、唇を突き出すようなカワイイ顔で、甘えるように言ってきた。

カ、カワイイ・・・

そうか。ヤツ・・・いや、サワのヤツも、ちゃんと約束を守る、意外にイイヤツかもしれない。


「じゃあ、あたしは行くから。」

「ああ、ありがとう。」


玄関まで見送る。

そういってもすぐそこだが。


「あ、それと・・・」


まだ何かあるのか!?


「あたしのファーストキス、大切にしてね。」


麗はニコッと笑って帰った。


ファーストキス?

あいつ、あんな派手なくせに、まだキスした事ないのか。

ん?

大切にしてって、どういう事だ?

なんで俺に言うんだ?

女子高生は、訳がわからん。


◇◇◇◇◇◇


今日はコンビニは休み。

基本、年中無休だが、たまに店長の気まぐれで、定休日になる。

その日はたいてい慰安旅行になる。

とはいっても従業員は、俺とパートのおばちゃんと、サワくんしかいないので、紋と、麗と、巳月と、おばちゃんの家族がついてきた。

ワゴン車を一台借りて遊園地に出発した。

天気も良いし、俺はさすがに遊園地で楽しむ年齢じゃないが、おばちゃん家族と、高校生グループは楽しそうだ。

俺と店長は、ベンチに腰掛けビールを飲む。

オッサン達は、こっちのが楽しい。

俺と店長は、のんびり過ごした。

夕方になり、そろそろ帰るかという頃に、紋と麗が、お化け屋敷に入りたいと言ってきた。


「あたし圓と入るから、麗、誰かと入りなよ。」


紋は圓を連れて行く。


「俺、お化け屋敷はパス。」


意外にも巳月はお化け屋敷が苦手らしい。


「え〜、じゃあ和男ちゃん入ろ。」


え?

俺?


麗は、俺の腕をひっぱり、俺は連れて行かれた。


お化け屋敷なんて、何十年ぶりだろう

俺は比較的、こういうのは平気だ。

さっさと進んで、さっさと出よう。


「ちょ、ちょっと待って、和男ちゃん。」


麗が俺の腕にしがみつく。

なんだ、怖いのか?


「キャ――――――!」


オバケが出るたびに、ぎゅっとしがみついて、とてもカワイイ。

悪くない。


人影の無い通路に出た。


「どうしよう・・・和男ちゃん、怖くて進めない・・・」


麗は今にも泣き出しそうな声で言う。


「大丈夫だよ。ゆっくり行こう。」


俺と麗の顔が近づく。

え・・・?

思わず見つめ合う。

な、なんだ、この目は・・・

麗は潤んだ目で、俺を上目遣いで見てる。

だ、だめだ。

俺と、麗の唇が近づく。

もう、どうにでもなれ。


「お―――!和男!麗!おっさき―――!」

「じゃあね――!麗!キャハハ!」


アホな高校生カップルの声で、またしてもバッと離れる。

圓と、紋は、楽しそうに出て行った。


ドキドキ

ドキドキ


なんて言っていいのか、わからない。


「い、行こうか。」


俺は麗の手を握った。


俺達は、手をつないだまま無言で出た。

外はすっかり暗くなって、大きな満月が出ていた。

ん?満月?

ヤバい!


「麗!先に行っててくれ!」

「え?和男ちゃん!?」


俺はダッシュで、その場を離れた。

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