第7話ファーストキス♡

目の前には、俺をすごい顔で睨む女子高生と、ニコニコ笑顔で見てくる女子高生2人がいる。


つぶらなんで、この女がいるのよ!」


不良女子高生のあやが今にも俺に掴みかかりそうなイキオイで、テーブルを挟んで俺の前に座る。


「いいじゃん別に。えみかさんでしたっけ。大学生?ほんとにカワイイ。メイク道具、何使ってますか?美容室もどこ行ってるのか知りたいです。」

うらら!」


紋は麗を睨む。


「あのぅ・・・今日はなんで、あたしは、ここにいるんでしょうか。」


俺は恐る恐る聞いてみる。

俺はカフェのテーブル席に、金髪長身塩顔イケメン、不良女子高生その1の紋、その2の麗に囲まれて座っている。

しかも逃げられないようにか、金髪長身塩顔イケメンは、しっかりと俺の手を握っている。

夕方、学校帰りのカフェで、まさか集団で暴行してくる事は無いと思うが、俺は不安で仕方なかった。


「もうすぐ、巳月みづきが来るから、ちょっと待って。」


金髪長身塩顔イケメンは言う。

う・・・男だというのに、いつもと違う優しい顔のコイツは、ほんとにイケメンだ。

ドキドキしてしまう。


「あ、きたきた。」

「なんだよ、サワ。話って。誰?このキレイな人。」


制服姿の、いつもの不良その3が、麗の隣に座った。コイツの名前は、巳月か・・・

イマドキの名前は、みんなシャレてるな。

男なのに、つぶら、みづき。

俺なんか和男だぞ。

フリガナなんて必要ない名前だぞ。


「紹介しようと思って。俺の彼女の新庄えみかさん。大学生。」

「かのじょ―――?」


紋がデカい声を出し、周りの客が、一斉にこっちを見る。

やっやめてくれ!


「こっちこいや、このヤロウ!」


ヒィィィ

紋は俺の服を引っ張る。


「やめろって!」

「紋、やめなよ!」


みんなが俺を助ける。

なんなんだ、この女は!

それと、彼女って、ついつい怖くてオッケーしちゃっただけで、俺はコイツを好きじゃない!


「あたしは許さないからね!」


そういうと、紋は店から出て行った。


「ごめんな。えみかさん。」

「紋さ、悪い子じゃないの。よく知ればいい子だから、ごめんね。」


おまえらが全員、「いい子」じゃない事を、俺はよく知ってる。

おれはアイスキャラメルラテを飲んだ。

はぁ~これはホントに美味くて癒やされる味だわ。

俺の子供の頃は、こんな美味いものが無くて、大人になって初めて飲んだ時は感動して、冷蔵庫に保管しながら3日間かけて少しづつ飲んだ。

2日目からは氷でかなり薄まったが、それでも良かった。


俺は涙が浮かんできた。


「え、えみかさん、ごめん。紋にはキツく言っとくから!」


金髪長身塩顔イケメンが心配そうに、俺の顔を除き込む。


違う、いいんだ。

紋の事で泣いてるんじゃない。俺はアイスキャラメルラテの美味さに感動して泣いてるんだ。


バイトに行く時間になり、俺達は解散した。


帰り道が一緒で、俺と金髪長身塩顔イケメンは手を繋いで歩く。

離してほしい・・・

そう思うが、怖くて言えない。


「さ、サワ君、今日はシフト入ってないよね。」


俺は確認した。


「うん。入ってないよ。テスト近いから、力入れようと思って。」


良かった。


「俺がいないと寂しい?」


そんな訳がない。久々に生きた心地がしそうだ。


「はい。少し。」


とりあえず社交辞令を言ってみる。


「ほんとに?」


ヤツは嬉しそうに笑う。

う・・・悔しいがイケメンだ。


アパート近くの小さな公園についた。


「じゃあ、あたし、この近くなんで。」

「え?家まで送るよ。」

「大丈夫です。」


家を知られて万が一、押し入ってこられたら、たまったもんじゃない。


「わかった。」


ヤツは少し寂しそうな顔をした。

そして、急にニヤッとしたかと思うと、俺の顔に近づき・・・


チュッ☆


え?

なに?

え?


俺の唇に・・・ヤツの唇が・・・重なってる。

俺は、ヤツを押し離れた。


「まだ早かった?」


ヤツは目をクリクリさせながら言う。

俺は・・・何も言わず、唇を押さえ、走って逃げた。

アパートの階段を上がり、部屋のドアを閉めると。


「う・・・う・・・・うわ―――――――!!!!」


思いっきり叫んだ。

堀田和男、54歳。

素人とは童貞。

彼女歴、54年。


初めて付き合ったのは高校生のイケメン不良男子。

ファーストキスは・・・・高校生のイケメン不良男子なになってしまった。


俺は敷きっぱなしの布団の上で泣いた。

こんな事ってあるのか、そりゃ諦めてたキスがこの歳で、できた事には感謝する。

しかも高校生って。世の中のオッサンは喜ぶだろう。

けど、けど、男って。まさか、男って!!!


俺は、恐ろしい事に気がついてしまった・・|


まさか・・・


このままじゃ・・・


俺の素人初体験は・・・


男になってしまう!?


「うお――――――――――――!!!」


本日2回目の雄叫びがアパート周りに響いた。


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