第6話ヤツは強かった

「明日、仕事始まる前に少し時間ありますか?」


金髪長身塩顔イケメンに誘われて、俺は今カフェでヤツを待ってる。

なんでこんな事になったんだ。

人生初のデートは男と?

いやいや、これはデートじゃない。だた何か話があるだけだ。それだけだ。


「お待たせしました。」


ヤツは学校帰りで制服姿だ。

こうしてみると金髪を除けば普通のあどけなさの残る高校生だ。


「あの、用って何ですか?桜沢君。」

「『サワ』でいいですよ。みんなそう呼びます。新庄さんは、なんて呼ばれてますか?」

「え?俺・・・あ、あたし?あたしは・・・えみかで・・・」

「じゃあ、えみかさん。えみかさんの家は、どんな家ですか?」

「は・・・どんな家って・・・」


母ちゃんはクソブスで、イケメンのとうちゃんは女と出て行った・・・とは言えない。


「普通の・・・」

「そうですよね。だいたいそうですよね。

俺の家は、今時珍しい財閥で、俺は跡継ぎで、小さい頃から、ずっと勉強と、習い事と、作法と、遊ぶ時間は無いくらい親から厳しく教育されてきました。」


俺はアイスキャラメルラテをすする。

うめ〜これ、すげーうめ〜。


「小さい時は、親に従うしかなかったから、言う事聞いてたけど、やっぱり、だんだんイヤになってきて、反発して、髪染めて、夜遊んで、そうやってストレス発散してたんです。」

「はぁ、そうですか。」


そんな話、俺はあまり興味ない。


「でもやっぱり、このまま遊んでても良くないし、俺、これからはやっぱり大学受験に向けて頑張ろうかなと。」

「はい。それは良い事だと思います。頑張ってください。」


アイスキャラメルラテを一口、

はぁ〜。甘くてうまい!


「えみかさん、付き合ってください!」


グホッ

グヘッ

ゴホッゴホッ


へ、変なとこ入った!


「大丈夫ですか?すみません、急に。でも、俺、えみかさんの事、好きです。」


ゴホッゴホッ


歳を取ると、一旦むせると、なかなか治らない。


「そ、そんな、付き合うなんて。」

「彼氏、いるんですか?」

「い、いません!」

「好きな人は?」

「いません!」

「俺の事、嫌いですか?」

「はい!嫌いです!」

「・・・・・」


2人、見つめ合ったままの沈黙。


「どこがですか?」

「どこって。」


俺を見るなり殴っただろ。 

殴る蹴るの暴行しただろ。

トイレ掃除させただろ。


「どうして、堀田さんをイジメるんですか?」

「堀田?誰?堀田って。」

「堀田和男さんです。あんな良い人を、どうしてイジメるんですか?」

「ああ、和男?」


なんだ、なんだ和男って!

和男さんだろ!


金髪長身塩顔イケメンは、アイズココアを飲んだ。


「イラつくだけです。」

「は?」

「イラつくんです。あんなふうに、いい歳して、コンビニでのんびりバイトしてて。」

「のんびりって・・・」

「俺には、あんな自由はないから・・・将来は親の会社継いで、適当な女と結婚して、会社の存続だけを考えて生きて行くだけだから、あんなふうに自分の好きなように生きてる大人が、羨ましいんです。正直。」


・・・・・・


「羨ましいのが逆に、イラついて、強くあたっちゃうんです。」

「・・・あの人を・・・イジメないでください。」


上目遣いで睨んだ俺は、自分では気が付かなかったが、おそらく世界で一番かわいいだろう。


「付き合ってくれたら、もうイジメません。」

「そんな事は、できません!」

「どうしてですか?』

「あなたの事が嫌いだからです!」

「和男をイジメるから嫌いなんでしょ?じゃあイジメなければ嫌いじゃないでしょ?」

「そうじゃなくて!」


らちが明かない。

俺は席を立とうとした。


「ねえねえ、お姉さん。彼氏とケンカ?じゃあ、俺らと仲良くしようよ。」


金髪長身塩顔イケメンとは違う高校生3人組が声をかけてきた。


なんなんだよ、もう!

勘弁してくれよ!


「なんだよ。お前。」


金髪長身塩顔イケメンが立ち上がる。


「や、やめとけって・・・」


俺はやんやりと金髪長身塩顔イケメンを止める。


「ほらほら、お姉さん怖がってるよ~。ねえ、お姉さん、俺らと遊ぼ。」


高校生が俺を引っ張る。

ヒィィィ助けてくれ!


「おもて出ろ。」


金髪長身塩顔イケメンが高校生を外に連れ出す。

俺は逃げようとしたが、一緒に連れて行かれた。

外に出てからのヤツは、強いなんてもんじゃなかった。

あっという間に高校生3人組は逃げて行った。

俺は、呆気にとられて立ち尽くす。


「いいだろ?えみかさん。付き合ってよ。」

「は、はい。」


俺は恐怖で返事をしてしまった。

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