第5話実はお坊ちゃまなんです

きまづい。

実にきまづい。

金髪長身塩顔イケメンは、あきらかにイライラしながら、俺の隣に立っている。

てか、なんで俺はイキナリ殴られなきゃいけないんだ。

えみかの時は、あんなに優しかったのに。


「あの、すみません、トイレ掃除・・・」

「やってこいよ。」

「はい。行ってきます。」


俺は、トイレ掃除に向かう。

くそっ!

なんで俺がやらなきゃいけないんだ!

新人のお前がやれよ!

てか、えみかの時はやってたじゃねえか!


シュシュ


トイレに洗剤を吹きかけブラシでゴシゴシする。


「おいっ!」

 

ビクッ!!!


背後からイキナリ怒鳴られる。


「な、なんすか?」

「新庄さんはどうしたんだよ。今日は新庄さんじゃねえのか?」

「し、新庄さんは・・・」


どうしよう。

どうしたらいいんだ。


「お、俺と交代です。1ケ月くらいで。」

「ハッ!なんだそれ。お前が来なくていいから、新庄さんが来ればいいのに。」


俺だって、イロイロあんだよ。

そもそも、俺が先に働いてたのに、お前が後から来たんじゃないか!


トイレ掃除が終わり、手を洗う。


「お前さ、これでいいの?」


はい?


「お前、いくつだよ。いい歳して、このままずっとコンビニのバイトで人生終わらせるつもり?」


ほっといてくれ!

俺だって・・・。

若い時は、何社か面接受けたさ。

だけど、ことごとく落とされて、拾ってくれたのが、ここの店長だったんだ。

俺だって、大手企業のサラリーマンとか憧れたけど、仕方が無いんだ。俺には縁が無かったんだ。


「まあ、俺の人生も、大した事ないけどな。」


金髪長身塩顔イケメンは、外に出てタバコを吸う。


勤務中だぞ、オイ。


「人生って・・・まだ若いじゃないですか・・・」


ギロッと睨む。

ビクッ!!!


金髪長身塩顔イケメンはフーッと煙を吐いた。


「お前みたいな、何も考えてないオッサンに、俺の事なんか、わかんねーんだよ。」


そういうとタバコの火を消した。


仕事が終わり、バックヤードで俺は店長と考える。

俺は一体、どのタイミングで体が変わるのか。

初めて体が女に変わった日の事を、俺は思い出す。あの日、空を見上げると満月だった。

何もかも上手くいかなくて、蹴った石が跳ね返り、頭に当たって意識を失った。

それから1ケ月たって、空を見上げると、満月で、気がつくと、女になっていた。

そしてまた、1ケ月近くたって、男に戻り・・・あの時も・・・満月だった。

満月・・・?


「もしかすると、満月の日に変わってるのかも・・・」


店長は目を開く。


「狼男か。」

「それしか考えられないです。俺、満月を見るたびに変わってるんだと思います。」


店長も、ウンウンと頷く。

そういう事か。それがわかれば少しは気が楽になった。

次に俺がえみかになる日は1ケ月後の満月の日だ。


◇◇◇◇


1ケ月後、思った通り、俺はえみかになった。


「新庄さん、久しぶりです。」


金髪長身塩顔イケメンの扱いもわかってきた。

コイツはえみかに惚れてる。

そうなったら、えみかの間の俺は無敵だ。

コイツの事は全く怖くない。


「桜沢君、トイレ掃除お願いね。」

「桜沢君、ゴミの分別もお願いね。」


俺の指示通りに動く金髪長身塩顔イケメンを見るのは、とても気分がいい。

ざまぁーみろ!!


「いらっしゃいませ~。」


1人のキレイな中年女性が入ってきた。

長身でモデルみたいな女だ。


女性は、俺の前に立つ。


「お忙しいところ、申し訳ありません。桜沢つぶらは、おりますでしょうか。」

「え、はい。」


俺は金髪長身塩顔イケメンを呼びに行く。


「母さん。」

「圓、あなた何やってるの、こんなところで。」


母さん?


「見ればわかるだろ。バイトだよ。用が無いなら、来るなよ。」

「バイトなんて・・・お小遣いならあげてるし、欲しい物は買ってあげるから、バイトなんてしなくていいのよ。あなたがやらないといけない事は塾に行って大学を出て、家を継ぐ事でしよ。」

「こんなとこで・・・そんな話はいいよ。帰ってくれよ。」


な、なんだ、なんだ?


「あなたを連れて帰ります!すみません、連れて帰ってよろしいでしょうか。」


え!?


「おい!何言ってんだよ!」


金髪長身塩顔イケメンのお母さんはヤツの腕を引っ張り連れて行こうとする、


「あの、ちょっと待ってください。」


俺は、思わず止めてしまった。

なんで止めてしまったんだ。このまま帰してしまえば良かったのに。


「なんですか?」

「あの、彼はもう高校生ですし、自分で自分の事は決めれると思うんです。彼は毎日、休まずに真面目に働いてますし、彼がやりたいんだったら、お母さんは少し、見守ってあげても良いんじゃないでしょうか・・・」


なにを言ってるんだ俺は〜!

ほかっとけばいいのに!


「新庄さん・・・」

「圓・・・」


お母さんは金髪長身塩顔イケメンの顔を見る。


「母さん、俺、まだ会社を継ぐとか、それは考えられない。大学には、ちゃんと行くから、高校の間は好きにさせてくれないか。」

「圓・・・わかったわ。」


お母さんは金髪長身塩顔イケメンの腕を離す。


「すみません。どうも、お騒がせしました。圓を・・・よろしくお願いします。」


深々と頭を下げて、お母さんは店を出た。


「すみません、新庄さん。恥ずかしいとこを見せちゃって。」

「いえ・・・あの、桜沢君、実家を継ぐって・・・自営業なの?」

「・・・・・俺の実家・・・・◯◯銀行です。」


は・・・?

◯◯銀行って・・・?

はあ?!

日本には数少ない財閥の息子!?

あの超有名な、◯◯財閥の息子!?

この不良が!?





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