煩悶
======= この物語はあくまでもフィクションです =========
============== 主な登場人物 ================
物部満百合(まゆり)・・・物部一朗太と栞(しおり)の娘。
久保田健太郎・・・久保田誠とあつこの息子。
大文字おさむ・・・大文字伝子と学の息子。
福本めぐみ・・・福本英二と祥子の娘。
依田悦子・・・依田俊介と慶子の娘。
服部千香乃(ちかの)・・・服部源一郎とコウの娘。
南原未玖(みく)・・・南原龍之介と文子(ふみこ)の娘。
山城みどり・・・山城順と蘭の娘。
愛宕悦司・・・愛宕寛治とみちるの息子。
物部一朗太・・・満百合の父。モールの喫茶店アテロゴのマスター。
物部栞・・・満百合の母。
大文字(高遠)学・・・おさむの父。
久保田あつこ・・・警視庁警視正。健太郎の母。元EITO副隊長。
服部源一郎・・・千香乃の父。シンガーソングライター。自宅で音楽教室を開いている。
服部コウ・・・千香乃の母。
佐藤先生・・・町内鼓笛隊指導の小学校音楽教師。
==============================
==ミラクル9とは、大文字伝子達の子供達が作った、サークルのことである。==
==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==
午後1時半。喫茶店アテロゴ。
「辞める?何で?」満百合は、泣きながら、鞄を置いて飛び出して行った。
物部は、EITOに電話をして、満百合を追跡して貰った。
どうやら、モール外れの、小さな公園にいるようだ。
物部達は、自分達も誘拐されたり危ない目に遭ったりしているので、自分達の子供達にもEITOの追跡装置で追えるDDバッジを持たせている。
「やれやれ。」物部は、『ミラクル9』のリーダーである健太郎に電話をした。
モール外れの公園。
「満百合。鼓笛隊辞めるって?何で?張り切ってたじゃないか。」
「健太郎。私ね、私・・・明菜ちゃんに誘われて鼓笛隊に入ったの。」
「それで?」「先生がね、町内パレードにメンバー選んだの。その中に私、入っているの。」「うん。」「でもね、明菜ちゃんは選ばれなかった。鼓笛隊出来た時から入っていたのに。それで、私を誘ってくれたのに。先生はね。私の方が上手いし、太鼓は一個しかないからって言うの。」
「満百合が辞めなくても、いいと思うけど。」と、」みどりが言った。
「そうだわ。先生が選んだんだから、満百合がやればいい。」と、めぐみは言った。
「私もそう思う。」「私も。」未玖と悦子は、口々に言った。
「何かいい方法はないの?」と悦司が言うと、おさむは言った。
「千香乃のウチは、音楽教室だったよね。」
「そうか。千香乃。お父さんかお母さんに頼んでくれないか?」と、健太郎は言った。
千香乃は、スマホを取りだして、電話した。
「お父さんがね。任せなさい、って。」千香乃は笑顔で言った。
午後2時半。小学校。職員室。
鼓笛隊指導の、佐藤先生と服部夫妻が対峙している。
「先生。『参加することに意義がある』って言葉、ご存じですよね。」と、服部が切り出した。
「クーベルタン伯爵の、オリンピック憲章ですよね。」と、佐藤は答えた。
「パレードに出ることは、何かのコンクールですか?どこかに審査員が待っていて点数を付けるとか。」「いいえ。そんなことはありません。」
「音楽に秀でた者のお披露目ではないのなら、希望者全員に参加させればいいのでは?」「でも、太鼓は・・・。」
「太鼓は、用意させます。使用後は、ウチの音楽教室で流用します。」と、2人の横からコウが言った。
「それは・・・でも、満百合ちゃんは辞めると・・・。」
「満百合ちゃんはね、明菜ちゃんに譲りたかったんです。自分を犠牲にして。確かに、音楽的優劣なら、先生の採点通りかも知れない。でも、一生残るんです。先生にとっては、たった一日のイベントかも知れないが。私の知り合いの話をしましょう。ある、音楽好きな子がいました。中学の、暫定的なコーラス部に入りました。彼は毎日熱心に通いました。文化祭になりました。演目は、『筑〇山麓男性合唱団』でした。当時の男声コーラスグループ4人の歌として有名でした。男の子の部員は6人でした。6人の内、熱心に通っていたのは、彼1人でした。文化祭に参加出来たのは、彼を除く5人でした。彼は、音楽を志すのを止めました。それほど大きかったのです。ショックが。元々の男声構成は4人です。何故5人参加したのでしょう。指導音楽教師は、彼の疑問に答えることはありませんでした。その音楽教師の家に遊びに行くほど親しかったのに。コーラス部を勧めたのは、その音楽教師だったのに。随分後で彼は真実を知りました。5人の内の1人の親が、教師を脅してメンバーに入れさせたということを。高校になり、またショックなことがありました。彼は先輩の誘いでまたコーラス部に入りました。男子部員は、彼1人でした文化祭当日、幕が開く前に、部長に参加しないでくれと言われました。部長は、練習だけだと思っていた、と言い、男声が混じると声が濁る、と言ったそうです。方法は、幾らでもあった筈です。今で言えば、『口パク』も一つの方法です。男子部員もいるんだ、と観客に見せれば、部員勧誘の一助になったかも知れません。彼を誘って入部させた先輩は、顧問の先生に頼んで、他の発表会の時に、指揮者として登場させました。交流会の幹事もさせました。でも、その出来事は頭から離れませんでした。時間は残酷です。2度と戻って来ません。彼は、音楽を捨てました。満百合ちゃんも明菜ちゃんも参加する方法は、幾らでもある筈です。彼女達に、『十字架を背負った人生』を歩ませたいですか?コウ、手配してくれ。」
翌日。母の日。
モールをパレードした満百合と明菜の2台の太鼓と笛担当生徒達は、誇らしげに演奏していた。
「良かったな、おさむ。これで、先輩に大目玉を食らわずに済む。健太郎、頼もしいリーダーだ。」
そう言って、服部は、おさむと健太郎の肩を叩いた。
―完―
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます