第10話 勝手に修羅場
翌日、父から紹介された弁護士事務所を訪れた。
俺が集めた証拠を見せると弁護士さんはかなり驚いた様子だった。
「よく自力でここまで集めましたね?」
「運が良かったんですかね。相手の工作に早く気付けたってのもあるかもしれません」
俺は今回の経緯を最初から弁護士さんに話した。
予想通りではあったが嫁が最初にスマホ、次にタブレットを叩き壊した話をすると彼は苦笑いを浮かべていた。
ホテルの出入りは一回しか押さえてないが、その他の画像や動画、チャットのやり取りで証拠は十分だと弁護士は太鼓判を押してくれた。
それに浮気を認める嫁の証言もばっちりICレコーダーに収めている。
まず間男への制裁から決める事にした。
不倫の期間は短いが、慰謝料は高めに設定して300万。
裁判となればそこまで取れないかもしれないが、俺の目的は金ではない。
人の家庭をめちゃめちゃにした事への復讐だ。
仕事中にホテルに行っている証拠もあるため、今回の件を間男の会社へも報告する。
これは俺の勘でしかないが、タブレットを使ったアリバイ工作などを見るに、間男は他にも余罪があるのではないかと思っている。
チャットでのやり取りもやけに手馴れている感じがした。
叩けばきっと埃が出るだろう。
そして嫁との離婚についてだが、やっぱり親権問題が一番厄介だろうとの事。
今回嫁が有責者とはなるが、向こうが親権を主張してきた場合はやはり母親側が有利になってしまう。
俺の実家の両親に協力してもらうとしても、まだ養育実績がない事が問題になるという。
そこで慰謝料を請求しない代わりに、財産分与なし。
親権を俺に渡す事を条件に養育費も請求しない事にした。
頼る実家もなく、一人で育てなければならない事を考えると嫁もこの条件を飲むだろう。
「なるべく考える時間を与えないよう、一気に攻めて行きましょう」
力強い言葉をもらい、今後は弁護士さんに全て任せる事にした。
その他細かい打ち合わせをした後、俺は弁護士事務所を出て自宅へと向かった。
◆ ◆
忘れ物を取りに行くという名目で俺は家を目指した。
出来れば嫁ともう一度、今後について話し合いたいという希望もあった。
扉の前に立つと、開ける前からなにやら言い争うような声が中から聞こえてきた。
「あんたの所為よ!あんたが誘ってこなきゃこんな事になってないのよっ!」
「おまえだって楽しそうにしてただろ!バレてもまた誤魔化せるよか言ってたじゃねえか!」
パリーンと何かが割れるような音がして、俺は慌てて中へと入った。
リビングへと向かうと、嫁がグラスを振りかぶりながら叫んでいる。
一方の間男は仕事用のバッグを盾にしながら身構えていた。
すでに足元には割れたグラスや皿が散乱していた。
どうしてこいつは物を大切にしないんだ。
今までその性格に気付けなかった情けなさにため息が出そうになる。
「おいっやめろ!」
俺は嫁に近付き、投球モーションに入っている腕を掴んだ。
ようやく俺の存在に気付いたのか、嫁が驚いたような顔で俺を見た。
それと同時に間男も俺の顔を見てハッとしている。
そして次の瞬間、間男は玄関目指して走り出した。
だがこれが因果応報というやつだろうか、間男は床に散らばる割れたガラスを思いっきり踏んだ。
「痛っえええええ!!!」
余程ここから離れたかったのか、足の裏から血を流しながらも間男は片足でぴょんぴょんと跳びながら移動している。
「おいっ!逃げるな!」
俺が追いかけながら間男の腕を掴むと、もの凄い力でそれを振り払った。
そして奴は靴も履かずに玄関を飛び出して行った。
スーツ姿だったし、どう見ても仕事中だろうに一体どうする気なんだろうか?
後先考えない間男の行動に、俺は追いかけるのも馬鹿馬鹿しくなってしまった。
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