第7話 戦闘準備


 嫁と間男の後ろ姿を笑顔で見送った後、俺は自宅ではなく保育園へと向かった。

おそらく嫁は一旦家に帰るだろう。

少々力技になってしまうが、まずは子供を実家に連れて行くことにした。



 保育園に向かいながら実家へ一度連絡を入れる。

まだ詳細は伝えなかったが、子供をしばらく預けると言うと母は大喜びしていた。

離婚はすでに決定事項だが、やはり問題は子供の親権を取れるかどうかだ。

子育てに関しては嫁はよくやっていてくれたとは思うが、それと浮気とは別問題。

あんなに頭がお花畑の嫁には子供を任せたくはない。



◆ ◆ 



 保育園に着くと、早速園長先生と話をした。

理由は伏せながら家庭の事情でしばらく休園させる事を伝えると、園長先生が小声で俺にこう言った。


「差し支えなければお聞きしたいのですが……もしかして離婚されるおつもりでしょうか?」


 この園長さんは前々から話が分かる人だと思っていたので俺は素直に頷いた。

すると彼女は更に声を潜めて「実は……」と話し始めた。


 どうやら嫁と間男は保育園でも少し噂になっていたらしい。

ママ友であるジュンコさんが迎えに来る時は、嫁が一緒に来る事などない。

だがなぜか間男が迎えに来る時は嫁も車に同乗しており、そのまま子供を連れて一緒に帰っていくらしい。


 嫁と間男が高校の同級生だという話は聞いてはいたが、それでも少しおかしいと保育士さん達は思っていたそうだ。ちなみにまだジュンコさんは知らないのではないか、と園長先生は言っていた。いずれは向こうの奥さんにも伝えるつもりだったので、俺は嫁と間男の不倫の事をある程度話した。


「まぁ……!」


 園長先生は驚きながらも興味津々といった感じで話を聞いていた。

これで俺が何もせずともジュンコさんにはいずれ伝わるだろう。

一応口止めはしておいたが、人の口に戸は立てられぬと言うからな。

そして俺は休園届を出し、娘を連れて実家へと向かった。

 


◆ ◆



 娘は単純にじぃじとばぁばに会えるのを喜んでいた。

実家に着くと早速お菓子がたくさん並んでいた。

俺の両親にとって娘は初孫だ。そりゃ可愛くて仕方がないだろう。

ただ今後、実家で子育てに協力してもらう場合は少し抑えてもらわないとな。


 その事も含め、俺は今回離婚を決意した嫁の浮気の件を全て二人に話した。

やはり最初は信じられないと二人共驚いていた。

これまで嫁と両親の関係は良好だったと言える。

俺にはもったいない嫁だと常々言っていたくらいだ。

だが証拠の一部を見せると唖然としていた。


 今後に関しては俺の好きにしろと言ってくれた。 

「ただ慰謝料請求や親権を取りにいくなら弁護士を雇った方がいい」と父が知り合いの弁護士を紹介してくれる事になった。

すぐに連絡を入れ、早速明日にでも事務所に行って話をする事になった。



◆ ◆



 娘を実家に預け、俺は自宅へと向かった。

あれからずっと嫁からの電話とLINЁはひっきりなしだ。

だが留守電やチャットでは未だに浮気を認めようとしていない。

また前回のように誤魔化し通す気なのだろうか?

俺が証拠を掴んでいる事は、少し頭を働かせれば分かるだろうに……



 家に着くと俺はこっそりドアを開けて中に入った。

嫁は誰かと電話をしているらしく俺が帰ってきたことに気付いてなかった。


「うんそう。だからあんたもうまく誤魔化してよね。バレたら大変なのはこっちもよ!」


 嫁はこちらに背を向けて電話をしている。

俺は足を忍ばせながら嫁の背後まで近づいた。


「うまく逃げ出せたのか?」


「ひぃっ!!」


 俺が声を掛けると、嫁は腰を抜かしそうな勢いで振り返った。


「監禁されてたんじゃないのか?ケイスケくんに」


 俺は笑いを必死に堪えながら真面目な顔でそう尋ねた。


「そ、そうなの!怖かったの!」


 そう言って嫁が俺に抱きついてきた。

その瞬間、ついに俺は笑いを堪えきれず思わず吹き出してしまった。



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