第6話 プチざまぁから始めよう


 翌日、俺はいつものように会社に行く準備をした。

さすがに二日続けて朝食を食べない訳にもいかないので無理やり腹に押し込んだ。

昨日あれだけ嫁達の動画を見た所為か、逆になにか吹っ切れたようだ。

全く味はしなかったが。



 家を出てからいつものネカフェで待機する。

チャットのやり取りから待ち合わせは11時。場所はここから二つ隣の駅。

尾行をすると気付かれてしまう可能性があったので、俺は少し早めに待ち合わせ場所に移動した。



 11時少し前になって嫁がやってくる。

保育園の迎えがあるからか、嫁はそれほど派手な格好はしていなかった。

それから少し遅れて間男がやってきた。

チャットのやり取りから、どうやら間男は営業職のようで、外回りの時間を巧く利用して嫁と会っているようだ。

有給などを使う事もあるようで、一昨日などはまさに仕事を休んでまで嫁と浮気に励んでいたようだ。



◆ ◆



 笑いながらやってきた間男はスーツ姿だった。

買ったばかりのカメラで遠めからその様子を写真に収める。

こんな給料泥棒を雇っているなんて、いずれは会社の報告してあげないとな。


 

 二人は人目を気にする事もなく腕を組んで歩き出した。

そして駅裏のホテル街へと向かうと、慣れた様子でラブホテルへと入っていった。

その様子を今度は動画で撮影。

ここまで気付かれないとは、と俺は半ば呆れて逆に手を振ってしまいそうになった。



 二人が出てくるのを待つのも馬鹿馬鹿しくなり、俺は1時間ほどしてから嫁に電話を掛けた。


「ハァハァ……もしもし?どうしたの?」


 電話に出た嫁の声は多少息遣いが荒かった。

どうやらタイミングはばっちりだったようだ。


「特に用事じゃないんだけど、弁当が美味しかったから伝えようと思ってね」


「んっ……えっ!ごめん、お弁当がどうしたの?」


「だから美味しかったからそのお礼をね」


「……そんな……お礼とかいいのよ……!」


 嫁の声が揺れていた。

どうやら間男も調子に乗ってきているようだ。

これはお灸を据えておかないとな。



 俺は一度通話を切ってから今度はビデオ通話で掛け直した。

案の定、嫁は気付くことなくそのまま通話をオンにする。

するとそこには嫁と間男の姿がばっちりと映っていた。

顔を枕に埋める嫁と、その背後で腰を振っている間男。

 

 どうやら二人はまだビデオ通話に気付いていない様子。

 せっかくなので俺はその画面をカメラで撮影した。


 先に気が付いたのは間男の方だった。

慌てて嫁から離れるとカメラからフレームアウト。


「えっ!なに!?」


 次に嫁が後を一瞬振り返ってからタブレットの画面を見た。

そこには俺がカメラを回している様子が映っているだろう。

嫁の顔がさーっと血の気が引いたように青褪め、そしてすぐに通話を切った。


「ぷっ!ざまぁ!」


 俺は堪えきれずに、思わずその場で腹を抱えて笑った。

道行く人に怪訝な顔で見られてしまったが、そんなの気にしない。

ようやくあいつらに反撃が出来たことで、俺の心は爽快そのものだった。



◆ ◆



 おそらく二人は相当パニクったのだろう。

嫁からの電話が鳴ったのはそれから10分程してからだった。

何度も何度も掛かってきたが、もちろん俺はそれを全て無視。

すると今度はLINЁで言い訳タイムが始まる。


『お願いだから電話に出てください』


『あれは違うの。説明させてください』


『知らない人に脅されてホテルに監禁されています。助けにきて』


 なかなか見応えのあるチャットが次々に送られて来る。

ついついその設定に乗っかってやろうかとさえ思ってしまった。



 それからしばらくして、焦った様子の二人がホテルから出てきた。

なにやら激しく言い争いをしながら駅の方へと走っていく。


「だからやめてって言ったのに!どうすんのよっ!!」


「俺に言うなよ!おまえだってノリノリだったじゃんよ!」


 静かなホテル街に二人の怒声が響き渡る。

もちろん俺はそれもしっかりとカメラで撮影した。



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