第3話 監視生活
それからしばらくの間、毎日スマホもチェックしていたがこれといった動きはなかった。そもそもLINЁからはケイスケなる人物は消えていたし、電話番号も登録されていなかった。
嫁は潔白を証明しようとパートも辞めてしまった。
「なにもそこまでしなくても」と俺は言ったが、嫁が「あなたが信用してくれるまでは、疑われる可能性のある事はしたくないの。パートはあなたが許してくれたらまた探せばいいし」と言った。
「念のためGPSの追跡アプリも入れていい」と嫁が言ったので日中の動きも分かる。俺も仕事があるのでずっとは監視できないが、怪しい行動は特になかった。
大抵は家にいるか、後は買い物と保育園の送り迎えくらいだ。
「もしもし?何してる?」
「そろそろ夕飯準備しようと思ってたとこ。今日はかつ丼だよー早く帰ってきてね」
たまにこうやって電話を掛けるときちんと家にいるようだった。
ここまで来ると嫁は本当に悔い改めたのかもしれない。
確かに浮気に発展するようなLINЁのやり取りをしていたのは許せないが、結婚前から数えるともうユウコとは10年以上の付き合いだ。
一度の過ちくらいは目をつぶろうと俺も思い始めた。
なによりも嫁にこうやって疑いの眼差しを向けながら生活を送る事が疲れてしまった。あれから3ヵ月ほど経ったが、日に日に自己嫌悪が強くなっていく。まだ最後の一線は越えていなかった嫁を許せないとは、なんて器が小っちゃい奴だ、俺は……
◆ ◆ ◆ ◆
そろそろ嫁を許して監視生活を終わらせようかと思っていた頃、珍しく仕事が午前中で終わる事になった。
嫁のスマホのGPSを見ると位置情報はちゃんと自宅になっている。
俺は嫁に連絡を入れずに家へと向かった。
「こっそり帰って驚かせてみよう」という悪戯心ではなく「これでちゃんと家にいれば、それで全てを水に流そう」と俺は決心した。
「まさか間男が家にいて、ドアを開けるなり嫁の喘ぎ声が聞こえたりしないだろうか?」と多少の不安はあったが、ここは嫁を信じる事にした。
改札を出て家まで歩いていると段々と緊張が高まってきた。
一度気持ちを落ち着けようと嫁にLINЁを送る。
『もう昼飯食べた?』
『うん。食べたよー』
返事が来たということは間違いなく家にいるのだろう。
そしていよいよ我が家が見えてきた。
カーテンは閉まってないだろうか?窓際で変な事していないだろうか?
そんな事を考えながら少し離れた場所から自宅を覗いたりもした。
ようやくドアの前までたどり着くと、俺は一度深呼吸をした。
心臓はかなりドキドキしている。
そっと鍵を差し込みゆっくりとドアノブを回した。
家の中はしんと静まり返っていた。
もしかしたら昼寝でもしているのかと思いながら、俺はそろりそろりとリビングへと向かった。
ソファーに嫁の姿はなかった。
「……ただいま」と小さな声で呼びかけて見たが反応はない。
そしてトイレや寝室にも嫁はいなかった。
俺は慌てて嫁のスマホの位置情報を確認した。
するとやっぱり現在地は自宅を示している。
「どういう事だ……?」
俺は首を傾げながらとりあえず嫁に電話を掛けた。
するとキッチンでスマホの着信音が鳴り響いた。
スマホを耳に当てながら俺はキッチンへと向かった。
するとテーブルの上で嫁のスマホがピカピカと光っている。
もちろんスマホの画面には俺の名前が表示されていた。
するとしばらくしてから俺のスマホから嫁の声が聞こえた。
「もしもし?どうしたの?」
それは間違いなく嫁の声だった。
しかも今目の前にあるスマホの着信音は、嫁の声が聞こえると同時に止まった。
そして画面には「転送中」の文字が表示されている。
「もしもし?ねぇ、どうしたの?」
ユウコの声がはっきりと聞こえていたが、俺はそれに返す言葉が出てこなかった。
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