第3話:功を奏した安物イヤリング。

「亜斗夢、今度の定休日、在庫処分しようと思ってるんだけど店をオープン

するから、おまえ出てくれないか?」


「あ〜・・・いやいや、じいちゃんが亡くなる予定なんで、ちょうど今度の休み

の日葬式になると思うんです・・・で、実家に帰る予定なんで悪いですけど

店番は無理です」


「そうか・・・じゃ〜しょうがないな・・・って?」

「おまえ、じいちゃんが亡くなる予定ってなんだよ?」


「予定は予定です・・・とにかく無理ですから・・・」


(店番なんかしてられるかっつう〜の)


「僕は右欄うらんちゃんに会いに行かなくちゃいけないんだから・・・そっちの

ほうが最優先事項だよ」


亜斗夢は玲ちゃんが右欄ちゃんを紹介してくれたおかげで、右欄ちゃんと

仲良くなっていた。

右欄ちゃんを見て彼女としゃべってるだけで亜斗夢はトキメキっぱなしだった。


基本的にミルクシェイクのメイドさんは、ほとんど店にいることのほうが多い。

週一で休みはあるから、デートに誘うことだってできるわけで、

右欄ちゃん目当ての野郎ども「ライバル」が彼女を誘いに店にやってくる。


だから亜斗夢も負けじとミルクシェイクに日参しているのだ。

だけど右欄ちゃんは、おいそれとは男どもには従わない。


ガイノイドは生まれた時点で国に登録され製造元のエイミー・トムソンの

籍に入るからエイミーの許可がないかぎり、勝手なことは許されないが

かと言って束縛されてるわけじゃない。


恋愛に関しては個人を尊重して自由。

禁止という訳じゃないから好きな人ができたらそこは自由を与えてもらえる

ようになっている。


だから亜斗夢がもし、右欄ちゃんの心を射止めたら亜斗夢の夢も理想も

叶う可能性は大きくなる。

問題は右欄ちゃんの気持ち次第・・・だけどこれが一番の問題なんだな。


亜斗夢は人間の女性には感情があって付き合うのは難しいって思ってるよう

だけどガイノイドだって感情がないわけじゃない。


ガイノイドはただの人形じゃないんだから、そのあたり勘違いしちゃいけない。

まあ、人間の女性より男性に対して寛容で優しく作られているのは確かだけど

とくにメイドさんはそう言う職業だから。


まあ、そんな細かいことなど亜斗夢が考えるわけがないので、彼はひたすら

右欄ちゃんをなんとか彼女にすることしか考えてなかった。


それが偶然にも成功したのは、ある出来事があったからだった。


ミルクシェイクに来る客の男どもはなんとか右欄ちゃんをゲットしようと

高級ブランドをプレゼントに持ってくる。

バカだから高級なプレゼンを贈ったら女はすぐに、ヘコヘコついて来るって

思ってるんだ。

それに他の男に負けたくない虚栄心見え見えだし・・・。

格好つけたって、そんなことでついてくるような女はそれだけの値打ちの女。


貞操感の強い右欄ちゃんにそんな手は通用しない。

亜斗夢もとうぜん休みの時、右欄ちゃんをデートに誘ってるんだけど、なかなか

いい返事がもらえない。


「ねえ、僕とじゃイヤなの?右欄ちゃん」


「イヤじゃないけど?」


「僕さ、真剣なんだよ・・・真面目に君と付き合いたいって思ってるんだ」

「とっても切実なんだ・・・君のことで頭がいっぱいだもん」

「だからさ、これ出店で買ったイヤリングなんだけど・・・可愛いなって思って、

安物だけど受け取ってくれる?」

「そりゃさ、俺は他の客みたいに高級なプレゼントなんか君に贈れないけど・・・」


「いくらだったの?」


「え?」


「だから・・・このイヤリング」


「え〜と・・・その〜300円」


つづく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る