第2話:新人メイドさんの名前は「右欄ちゃん」

僕はいつものようにカウンター席に陣取った。

カウンターの中に、メイドさんが二人いて僕に愛想を振りました。

ひとりは僕をフった玲ちゃん・・・もうひとりは杏ちゃん。


「お帰り亜斗夢」


先にそう言ったのは玲ちゃん。


「おっはよ、玲ちゃん」

「杏ちゃんも、おはよう、相変わらず可愛いね」


「誰彼なしに可愛い、可愛いって言ってたらウソっぽいよ亜斗夢」

「それに玲ちゃんはともかく私を口説いてもダメだからね」


「なにも言ってないだろ?」


早くもダメだしされた。

他のメイドさんたちはそれぞれ客からオーダーを取りに右往左往していた。


カフェがオープンしてしばらくして店の奥からオーナーが出てきた。

その後ろに、ちらっとメイドさんが見えた。


「おっ、ついに新人さんお披露目か?」


そしてオーナーが新人メイドさんを自分に前にいざなった。


「はい、前に出て・・・」


で、その瞬間だった。

オーナーが新人さんを紹介する前に僕はそのメイドさんを見て固まった。

僕の周りの風景が、空気が、時間が止まっていた。

このストップモーションをなんて表現すればいいんだろ?


と思ったら心臓はバクバク、アドレナリンのドーパミン大量放出。

僕の目の前に現れたメイドさん・・・まさに僕の理想の女性だったんだ。

内面はどうあれ、見た目だけで言うなら、もうこの子しかいない。

この子しかもう見えない。

僕のためだけに現れた天使・・・思い込みでも勘違いでもいい。


茶髪に最強のツインテールに髪飾り。

整った顔立ち・・・めちゃ可愛い、キュート、ピュア、ビューティフル

プリティ、スイート、チャーミング、そしてセクシー。美に関する言葉を

全部並べも足りないくらい。

真っ白なメイド服がよく似合っていて眩しかった。


そう僕は新人メイドさんに瞬殺で恋しちゃったんだ。

青天の霹靂的出会い。


ショックのあまりオーナーが彼女を紹介したことも彼女が自分のことを自己紹介

したことも頭が異次元に飛んで放心容態だった僕はなにも耳に入ってなかった。


しまった彼女の名前を聞き逃した。


だから僕はすぐにカウンターの中にいた玲ちゃんに問いただした。


「ごめん、玲ちゃん・・・あの新人さんの名前なんて言うの?」


「なに?聞いてなかったの?」

「あの子の名前は「右欄うらんちゃん」・・・・う・ら・ん」

「右って文字に橋の欄干らんかんのらんって書いて「右欄うらん」」


「右欄ちゃんか・・・」


「亜斗夢・・・鼻の下がびろ〜んて伸びて顎が床についてるよ」

「まさか亜斗夢、右欄ちゃんを口説くつもりじゃないでしょうね?」


オーナーは右欄ちゃんを連れて奥へ引っ込んでいった。


「え?口説いちゃダメなのか?」


「今から言っておいてあげるけどライバルだらけだよ」

「右欄ちゃん目当てに鼻の下伸ばしたお坊ちゃん達がカフェにやってくる

の目に見えてるもん」


「そうか、そのこと考えてなかった」

「前途多難だな・・・もし右欄ちゃんが客の中の誰かを気に入っちゃったら

右欄ちゃんを僕の彼女にって思惑は危くなるな」


「それよりもまずは右欄ちゃんと仲良くならなきゃ」

「それがまず先決だろ」


「あのさ、玲ちゃん今日はもう右欄ちゃんは店には出て来ないのかな?」


「今日は紹介だけだと思うけど・・・本格的にお店に出るのは明日からだね」


「玲ちゃん・・・僕、明日も店に来るからさ、右欄ちゃん紹介してくれない?」


「いいけど・・・もう私には興味ないの?」


「悪い・・・もう右欄ちゃんのことしか頭にない」

「カフェの子はみんな可愛い子ばかりだけど僕はもう右欄ちゃんだけに

全集中」


「ひどい!!」


「もう僕にしつこく付きまとわれなくてホッとしてるんじゃないの?」


「あはは、よく分かってるね亜斗夢」

「店に来るたびに口説かれてたらウザいから亜斗夢の気持ちが右欄ちゃんに

向いててくれたほうがいいわ」


「なんだよ、結局いくら必死で口説いても無駄なんじゃないかよ」

「まあいいわ、目指すターゲントを方向転換したから・・・」


「まあ、せいぜい頑張ってね・・・もし右欄ちゃんを口説き落とすことに

成功したら、お店をあげてお祝いしてあげるから」

「ヒマラヤに完全登頂するくらい難しいと思うけど・・・」


「お〜っと、せめて富士山くらいにしてほしいな」


たしかに右欄ちゃんは僕にとって高値の花かもしれない。

だけど、そうだからって諦めたら僕は一生後悔する。

右欄ちゃんは僕の理想の彼女になってもらいたいんだ・・・だから奮闘努力する。


明日から右欄ちゃんゲットのための僕の生活がはじまった。

でも、右欄ちゃんは、あれよ、あれよと言う間にミルクシェイクのナンバーワン

になっていった。


まじで富士山どころかヒマラヤ登頂を目指す羽目になってしまった。


つづく。

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