第7話 ギルド長アドバン

 部屋に入るなり。ギルド長のアドバンがいた。


「よ~、ルイス君。それと迷人の嬢ちゃん。こっちに座ってくれ」


 アドバンに応接室に案内される。アドバンは体格が良く、スキンヘッドのちょび髭を生やした強面の男性だ。一瞬見ればただの盗賊頭に見えなくもない。


「まずは、レッドウルフ6頭の討伐報酬だ。受け取ってくれ」

「ありがとう」


 中身を確認すると60000ディルはある。一般人が一ヶ月間、普通に仕事をして貰える金額は大体14000~24000ディルくらい。一般人の数倍の金額だった。


「こんなに?!」

「おうよ!それだけの事してくれたんだ。素直に受け取れ」

「ありがとう!」


 俺は懐に金をしまう。


「それで本題だが…。まずはルイス。スキルを使えたんだってな?」

「ああ。でも… あれっきりまた使えなくなったみたいだ。」

「んで、そこの嬢ちゃん… んっと…ヒナルちゃんだったな?」

「はい」


 ヒナルの顔が少しひきつってる。アドバンの顔を見れば初対面の人だとビビるだろう。


「ヒナルちゃんがそれを目撃したんだな?」

「はい。狼にお兄さんが噛まれてケガをしたのを治したり、狼を魔法で倒したのを見ました」


 アドバンは数秒沈黙してから、天井を見上げて目を瞑る…。


「回復魔法と攻撃魔法…、ンなの聞いたことねぇなぁ~…」


 また数秒沈黙してから…。


「ルイス。ちょっと傷を見せてみろ」

「わかった」


 アドバンに昨日、レッドウルフにかまれた傷跡を見せる。


「あぁ、確かに治癒魔法の痕跡あるな…」


 それからまた数秒…。


「スキルは確かに使えたのに、また使えなくなった?それも聞いた事がねぇ…」


 アドバンはテーブルに置いてあるタバコに火をつけて一口ふかす…。


「…ふぅ~…。それはおいおい考えるとして、今度は嬢ちゃん… あんたは異世界から来たって事だよな?」


 ヒナルは、転移前の状況を話す。学校で毎日酷いいじめにあって、学校を休んでいた時にたまたまいじめっ子どもに会い金銭を要求されそうになり、払えないなら体を売れと言われたり…。その時、空が光り、気付いたらこの世界に来ていたという事だった。一つ、俺は疑問になった事があった。


「まてよ?なら俺が殺してしまったやつも緑骨団ではなく迷人だったんか?!」

「はい…。黙っていてごめんなさい…。あんなヤツラ死ねばいいと思って…」

「それは嬢ちゃんが悪いわけでも、ルイスが悪いわけでもねぇ~」


 アドバンはヒナルと俺の方を見て答える。


「それはこの世界じゃー立派な犯罪だ。嬢ちゃんの世界じゃーそれが許されるんだろうがよ。この世界は甘くねぇ…。やってることが盗賊となんらかわりねぇ。だから安心しろ。二人とも罪には問わん。むしろ、仕方無い事だ。」


 俺は、アドバンの心に救われた気がした。ヒナルも少しほっとしたような表情を見せる。


「それに、仮にヤツラがこの世界に来てお行儀よくしてられるか? まずは無理だろ。そんなヤツラはこっちが願い下げだ」

「あ、ありがとうございます!」

「ところで、嬢ちゃん…。迷人だと広めない方がいいだろうな。迷人はこの世界の人よりも強いスキルを持てる。それに目を眩んだやつらが利用しようとしてくる」


 たしかに帝国に知られれば、前線に送り込まれる事もよくある話だ。アレックスなんかもまさにいい例だ。


「それでルイスと嬢ちゃんが嫌じゃないなら、二人で一緒に過ごすってのはどうよ?」

「えっ?!」


 アドバンの話に俺は驚き、変な声をあげてしまった。

 

「私は構いませんが…。お兄さんは悪さしてくる人に見えないので!」


 ヒナルの発言にもビックリだ。俺は一応、男づぞ!?狼になってしまうときもあるんだぞ!?


「んっ?ルイス~。お前、変な事かんがえてるんじゃねぇだろうな?」

「あはは、まさかー…」


 なんて、アドバンは笑いながら言う。しばらく雑談をしてから…。


「ルイス。お前、魔術学院にいってもう一度適性検査うけてこい。ギルドがバックアップしてやるからよ」

「えっ?」

「いつまでも分からんかったら、仕事も困るだろ?なんせお前は良いやつだからよ。それにヒナルの件もある。ヒナルも一応、適性検査受けた方がいい。」

「魔術学院…ですか?」


 ヒナルは困惑しながらも答えるが、アドバンの表情はにこやかだ。また一口タバコを吸ってから…


「おう。ヒナルちゃんもいつまでもこの世界に居たくないだろ?もしかしたら帰る術も見つかるかもしれないしなっ。それと、勇者パーティーによるダンジョン置き去りの件」

「あぁ…」

「本当なら処罰の対処なんだが… 勇者という事で俺達から何もできねぇんだ…」

「その件は仕方ないさ…」

「本当に申し訳ない…」


 アドバンは立ち上がり深々と頭を下げた…。そしてまた、俺達を見て…。


「魔術学院の件はしっかり対応させてもらう…。せめてものギルドからの罪滅ぼし思ってくれ…。」


………。

……。

…。


 ギルドを出て、とりあえず俺の家へとヒナルを案内する事になった。魔術学院に招待状を送って返答待ってから出発する事になった。それまで数日間、ヒナルと一緒に生活する事になった。ヒナルの生活用品もないため、討伐で貰った金で服や日用品を買いに出掛けることになった。


「それじゃあ、お兄さん… 行きますか?暫くの間宜しくお願いします!」

「ああ、もし俺が悪さしようとしたら怒鳴ってくれ」

「いや、その時は通報しまーす」


 ヒナルはにこにこしながら、俺より先に歩き出す…。

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