1章 最強のジョブを持った者

第6話 ギルドと勇者アレックスと…


………。

……。

…。


ジリジリジリジリジリジリ!!


 大きな鐘がついた目覚まし時計がなる。頭に響き渡り、一気に目が覚める。沈んでいる気分も叩き打ちのめされるかのような音に聞こえる。清々しい朝だ! なんて気分にもなれない。


「…朝か…、ん~~~ッ!」


 五月蝿く鳴る目覚まし時計を止めて、木のベッドからゆっくり起き上がる。立ち上がり背筋を伸ばす。数秒ほどぼーっと窓を眺めると朝日が眩しい。窓を通し日の照りが暖かい。ほんわかとした気分になる。それでも昨日1日で色々ありすぎた気分が癒される事もない。


(うん、いい天気だな…。)


 洗面所に向かい、顔を冷たい水で洗う。うん、つめてぇ~っ!! 歯をシャカシャカ磨き、服を着替える。今日は依頼を受けるつもりはないので私服を着る。黒い服が好きだから、全身黒ずくめになる。これからギルドに向かうとこだ。


 昨日の事もあるから、ヒナルの事やレッドウルフを討伐した事とスキルが使えた事、色々と話さなければならない。本当なら追放されたから、色々と片付けをして、しばらく気分転換に旅にでる支度をしたかったのだが…


………。

……。

…。



 家を出てからすぐ、ギルドに向かう。朝9時を回ったとこらしく、あちらこちらで店が開き始める。ここはギルドがある街だからそれなりに活気も良く、売店のおばちゃんが挨拶してくれたりする。俺の家から歩いて20分くらいの場所にギルドがある。夜のギルドとは違い、人の出入りも多い。


「おはようございます~」

「ルイスさん~! おはようございます!」


ギルドのドアを開けるとギルドのチームのほとんどの人達が俺を見て、ヒソヒソと話をしているのが目につく。きっと追放された事がわかったんだろう。そんな矢先。


「ルイス~、やっぱスキル無しは使えねぇんだな~!」


 …と、大柄な男が俺の前に立ちふさがり話かけてくる。背中に大きな斧を持った熊みたいなおっさんだ。


「…ガッシュ、悪い。サラに用があるんだ。どいてくれ。」

「スキル無しの無能が来る場所じゃーねぇんだ!さっさと帰れよ!」


 一斉に笑い声があちらこちらから聞こえてくる。全くもって不快だ。サラが言いふらすような事はしないはずだ。やっぱりアレックスか…?


「おはよう。ルイス」


その時、後ろの方から聞き慣れた…、聞きたくない声が聞こえてきた。そこには見たくもない4人の冒険者の姿が見える。勇者パーティーだ。


「アレックス… なんだよ…」


俺を見てニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべている。後ろにいるクリステルやエアロ、シューも笑っている。どいつもこいつもむかつく表情だ。


「兄貴~、昨日は寝れたか!?」

「あら~、ルイスさんではないですか~、おはようございます~」

「お兄様、おはようございます~」


 昨日のあの淫らな姿が嘘のように振る舞いやがる。吐き気がしてくる。これ以上、気分を害したくないから俺は無視してサラの場所に移動する。


「兄貴のやつ感じ悪ぅ」

「一度は惚れましたが~…、ただのチキンだったようですね~」

「勇者様、あんなやつほっておいていきましょうよ~」

「ああ!アイツが居なくなってパーティーは頼もしくなったしな!」


 更に、周りから「無能を世話してやって、勇者様は大変だなぁー!ぎゃははは!」なんて笑い声等が聞こえる。


………。

……。

…。


「ルイスさん…、申し訳ありませんね…。場所を変えるべきでしたね…」

「いいさ、気にすんな」


 サラは困った表情をして俺を見る。


「それより、ヒナルは?」

「中で待ってますよ~」


 その時、受付の隣の部屋からヒナルが出てきた。少し緊張した表情でギルドのメンバーがいる場所まで来て…。


「お兄さんは、無能じゃないですよ!!貴方達は知らないだけ!私の命の恩人だし、昨日は狼から助けてくれたんですから!」


 と、怒鳴り声をあげる。いや、すげー勇気いるぞこれ。


「狼から!?っつーか、普通の狼だろ!?」

「無能にはお似合いだな!なぁ~?」

「それより、あんた誰だ!?」

「幼さ残るけど可愛い~」


 なんて話し声も聞こえてくる。

 その後、すぐ側にいたサラが…。


「いえ、ルイスさんがレッドウルフ討伐をしたのは間違いないでしょう。証人は、この子です」


 サラはヒナルの方を向く。ヒナルは冒険者達を見たままだ。


「最近、冒険者を襲って死者も出たレッドウルフ6頭でした。私が確認しました」

「「「は!?」」」


 冒険者達は、一斉に驚く。勇者パーティーの寝取られた女達も驚きの表情を見せた。


「ちょっと待て!」


 アレックスが俺達の前にでてくる。真剣な表情で俺達を睨む。


「ルイスがレッドウルフを討伐したってどういう事だよ。普通の冒険者でも討伐が難しいだろ?それにそれは俺が討伐するはずだったんだぞ!?」

 アレックスは睨みつけるようにサラの方を見る。

「ギルドとしては、誰が対処してくれても良いのですが、今回はたまたまルイスさんが倒してくれました」

「ルイスが?!この無能のこいつが?!は?!」


 横にいたヒナルは握りこぶしを作り、震えている。


「嘘じゃないし!お兄さんは、魔法を使って倒しましたよ!傷もうけてましたが、自分で治しました!」

「ふ~ん。ただのまぐれだろ?」


周りもざわつく。ルイスが?!ありえない!なんて声もちらほら聞こえてくる。


「ふん。まぁ、いい。どうせまぐれに決まっている。それより君…」

「はい?なんでしょうか?」

「日本人みたいで可愛いね…」


アレックスはヒナルの目を見つめる。数秒… アレックスの口元がにやける…。


「不愉快なのでやめてもらえませんか?私、そうう人嫌いなので…」


 アレックスの発言にヒナルはそう答える。アレックスは何故か一瞬、戸惑った表情を見せてすぐ…。


「ぐっ、僕は勇者だぞ!! ま、まぁ…、いいさ。おい、皆いくぞ。オーガー討伐だ」

「はい、アレックス様~」

「まっかせとけー!」

「待ってください~!勇者様~!」


 アレックスはギルドから出ていく。ギルド内はまだざわついている。サラはため息をついて、すぐに「こちらへ」と部屋に案内してくる。周りが同様している中をサラとヒナルと一緒に部屋に入る…。


………。

……。

…。


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