第5話 僅かな希望の光 1

………。

……。

…。


レッドウルフを倒した俺は、素材を回収してから街へと戻る。素材の回収中にヒナルは「うげぇ~」なんて変な声を出していた。ヒナルの足は震えてはいるけど、さっきからみれば大分、落ち着きを取り戻しているようにも見える。

 ギルドについてから、早速ギルドの受付のサラに事の事情を話す。迷人の事、そして緑骨団との接触、そしてレッドウルフと遭遇して撃破した事。一時的にだけど、スキルが使えた事…。


「…って具合さ」


 サラは「えー!」なんて言いながら驚くが、レッドウルフ数頭の回収した素材を見て頷く。


「たしかに、レッドウルフね」

「俺もびっくりしたよ…」

「私も驚きましたよ。鑑定の結果、たしかにレッドウルフですね。でもルイスさんがスキルをねぇ…」


 そう…、スキルを使えたけど、今は一番最初にイメージできたヒールすらも脳裏でイメージが浮かばない…。あれはなんだったのだろうか?


「まぁ、スキルは使えたわけだし、徐々に使えるようになるんじゃないんですかね…?」

「そうだと嬉しいけど…」

「それにしても… まさか迷い人ねぇ…」


 サラはヒナルの方を真剣な眼差しで見つめる。ヒナルもサラ… いや、エルフを見るのが初めてらしく少し顔を強張らせている。緊張しているんだろう。


「迷人ねぇ…」

「えっと…、何が何だか…」

「まぁ、緊張しないで?ここは安全だから。ルイスに襲われないかぎりね~」

「はぃ~?!」


 いきなりのサラの発言に俺は変な声をあげてしまった。


「た、多分、お兄さんはそんな人じゃない…はず…です…?」

「そこは真っ向から否定してくれ!」


 ヒナルの表情が少し緩くなり口元が少し笑みを浮かべたように見えた。


「まぁ、冗談だけど、ルイスさんはそんな野蛮人じゃないから安心して!少し朴念仁なだけだから」

「はぁ…、お兄さんは朴念仁だったんですね」

「おい!ちょまてー!」


 そんなやり取りをして場の和ませ方が上手いのがサラだ。やっぱりいくつものチームを受け持つ女性だ。見た目はロリだけど…。


「ん?なんか思いました?」


 はっ!と見ると、サラはジト目でこっちを見る。


「い、いえ、なんでもありません…」


 サラは後ろの棚から何かを取り出して、ヒナルに渡す。


「これ203号室の鍵だから。自由に使って!お風呂入りたいなら1階。あそこの奥の右側が女性用だから」


 このギルドは一応、冒険者用の宿泊施設にもなっている。ヒナルが近場で転移してきて良かった。でなければ、モンスターの餌食になったり、先ほどの盗賊に身ぐるみ剥がされたり奴隷市場に売られていただろうから…。


「じゃあ、ヒナルちゃん。明日詳しくお話聞かせてね?悪いようにはしないし守ってあげるから!なんたって私はお姉さんだからね!」

「は、はい!」

「そうそう!お姉さんだからね!」

「ヒナルが困ってるだろ!二度も言うなw」

「そこは大事な事ですから!」


 サラはキリッとした目で俺を見る。いわゆるドヤ顔だ。しらない人が見たらただの幼い少女がドヤ顔しているようにしか見えない。威厳もなにもないぞ!


「正式な鑑定結果が出るのは明日になります。なので、報酬も明日になるから、また明日来てください」

「ああ、それでも構わない」


 そのセリフの後にサラは…。


「実はこのレッドウルフ討伐、依頼対象で… アレックスさんにお願いしていたんですけどね…」

「えっ!?」

「まぁ、ギルドとしては誰が倒してくれてもありがたいのですが… ルイスさんが追放されて戻って来る前に、アレックスさん方が依頼受けられていたのですが…。アレックスさん達… 何をしていたんですかねぇ…」

「あいつら…」


 俺は少し前の事を思い出し、無意識のうちに唇を噛む。唇からじわりと少し血がでたのがわかり、口の中で血の味がした。


(討伐依頼受けてあんなことをしていたのか… 何をやってんだよ… あいつら…)


「ルイスさんも今日は色々あって疲れたでしょ?今日は帰って休んじゃってください」


 サラはニコニコした表情でそう言った。


「ヒナルちゃんが可愛いからって、覗きに来たら駄目ですからね!衛兵に取っ捕まえてもらいますからねー」

「たしかに… 危ないですね!」

「なんでだよ!」


 ヒナルが俺を見て笑う。不安な表情はなくなったけど、少し寂しそうだった。


(…こんな場所にワケわからず来てしまったんだもんな…。ヒナルは強いよ…)



そんなやり取りをして俺はギルドを後にした。


(…にしても、あのスキルは一体なんだったんだ?それにあの声… 俺が勇者だって…?そんなバカな事あるわけないだろ…)


 ギルドからの帰り道、俺はキラキラと光る星で埋め尽くされた真っ暗な空を見上げた。暗闇の中にある無数の小さな光…。まるで今の俺のように…。彷徨う暗闇の中を何かに期待して見つけたかすかな希望に不安な反面、何か嬉しさを込み上げた。もしかしたら…、ありえないくらいの強い何かの力が俺にあるんじゃないかと…。


 今はまだこの時…、その力がやがて世界を救い…、色々な人を助ける大きな力となる事を俺は知らなかった…。



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