第7話 二人だけの秘密のはずなのに

 コウキさんの秘密を知った次の日。

 今日も鬼ラーメンは大盛況。次々お客さんが来るけど、私は接客の最中も、ついついコウキさんに目がいっちゃってる。


 だって昨日まであった角がキツネの耳に見えて、お尻からは尻尾が生えているんだもん。


 実は昨夜から、コウキさんのことが鬼には見えてないの。

 本人に相談してみたんだけど、コウキさんいわく。


『お前は真実を知ってしまったからな。術で騙そうとしても、真実に近いものが見えるんだろう。前に、常識や思い込みに捕らわれて真実に気づけないって話をしただろう。アレの逆で、真実を知ったら術で誤魔化せなくなるんだよ』


 とのこと。

 その理屈だと、真実を知らないお客さん達はコウキさんの耳も尻尾も見えてないってことになるけど、私はバッチリ見えちゃってるから、つい気になって目で追っちゃうの。


 でもでも、こんな風にジロジロ見てたらコウキさんも気になるだろうし、お客さんだって不思議がるかもしれない。

 気を取り直して、接客を続けよう。


 というわけで、今日も食べに来ていたコリンさんに、ラーメンを運んでいく。


「はいコリンさん、お待ちどう様です」

「ありがとね。ところでサオリちゃん、さっきからコウキくんのことばかり見てるみたいだけど」

「ギク! そ、そんなことないですよー」

「そうかい? あたしゃてっきり、コウキくんが鬼じゃなくてキツネだって、気づいたのかなーって思ったよ」

「え? な、ななななっ!?」


 何でそれを!? コウキさんがキツネだって、知ってるんですかー!?


 思わず叫びそうになったけど……いけない。

 コウキさんには、秘密にするよう言われてたんだもん。

 慌てて自分の口を塞ぐ。


「その様子だと、口止めされているのかな? なら、ここから先はあたしの一人言だ。実はね、常連客のほとんどは、コウキくんの正体に気づいているんだよ」


 ええーっ!?

 コリンさんだけじゃなくて、他の皆さんもー!?


「最初はわからなかったけど、何度も通ってるうちになんとなくね。大方、キツネが鬼ラーメンを名乗るのを気にしてるんだろうけど、そんなの悩まなくてもいいのにね。けどあんまり必死で隠してるもんだから、面白くてね。常連客の間では気づいてても言わないのが、暗黙の了解になっているんだよ」


 そんな、まさかそこまでバレバレだったなんて。

 ということは、コリンさん達にもあの耳と尻尾が見えてるってことなのかな。

 コウキさんが知ったら、どんな顔するだろう?


「コウキくんは、バレてることにちっとも気づいてないけど。面倒なことや都合の悪いことからは無意識に目を反らして、真実に気づけないもんだからねえ」


 またそれかあ。

 それにしても、バレバレだってことに気づかないで必死に隠してるつもりになってるなんて。

 ぷぷっ、コウキさんかわいい。


「コウキくん、しっかりしてるようで案外抜けてるとこあるから。サオリちゃん、しっかり支えてあげてね」

「はい、頑張ります」


 成り行きで始まった共同生活だけど、今は一緒に暮らしているんです。

 力になれることがあったら、なんだってやりますよ。

 ……って、思ったんだけど。


 カウンターの奥に戻るとコウキさん、どうやら電話が掛かってきたみたいで、スマホで通話し始めてる。


「はい……はい……本当ですか?」


 何を話しているのかはわからないけど、何やら真剣な表情。

 そして通話を切ると、私に向き直る。


「サオリ、今役所から電話があった。お前、元の世界に帰ることができるみたいだ」

「ええっ!?」


 飛び出してきた言葉は、完全に予想外。

 まさに寝耳に水、晴天の霹靂!

 帰るには数ヶ月から数年かかるかもって思っていたのに、なぜ?


「元の世界に帰れる? それ、本当ですかー!?」

「ああ。詳しいことは、店が終わった後話すでいいか?」

「は、はい!」


 コクコクと頷いたけど、話す声が大きかったのかな。

 カウンターを挟んだ先にいたお客さん達が。


「え、サオリちゃん帰っちゃうの?」

「そんな、早いよー」


 どうやらバッチリ聞こえちゃってたみたい。

 まあ、ナイショにしなきゃいけないわけじゃないから、それはいいんだけど……。


 元の世界に帰れる。

 それはとても嬉しいことのはずなのに、素直に喜べないのはどうしてだろう?


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