第4話 再就職先は、妖怪のラーメン屋さん?

 コリンさんと一緒に買い物に行って、生活に必要なものを色々買い揃えて。それは本当にありがたかったんだけど。

 それは同時に、ここでの生活が長期戦になることを物語っている。


 買い物を終えてコウキさんの家に戻った後、コリンさんも交えた3人で話し合いが始まった。


「あたし昨夜あれから、役所に勤めてる友達に電話で相談したんだけどね。サオリちゃんのように事故みたいな感じで帰れなくなった場合は、あそこまでお金を払わなくても何とかなるかもしれないんだって」

「本当ですか!?」

「ただし、詳しく調べてみないとわからないし、帰る方法があるにしても手続きに相当時間がかかるみたいだから、やっぱり当分はこっちにいなきゃダメみたいね」

「そんな……ちなみにどれくらい掛かるか、分かりますか?」

「うーん。数ヵ月か、それとも数年か……」


 数年か月から数年って。振り幅が大きすぎて、全然参考にならない。

 確かなのは、やっぱりそう簡単に帰れないってことかあ。

 すると黙っていたコウキさんが、口を開く。


「アンタには本当に、悪いことをした。ここでの生活は、オレが責任持って保証する。住む場所も飯も、必要な金もオレが工面するよ」

「え……でもさすがにそれは悪いんじゃ……」


 コウキさんに責任があるのは事実だし、こう言ってくれるのは非常にありがたいんだけど、生活に必要なものを全部用意してもらうのはさすがに……。

 見知らぬ世界から帰れなくなったとはいえ、元々無職になってどうしようかと思ってたところに、生活の保証がされたんだから、ある意味幸運。

 けど私にだってプライドや良識はあるもの。ただ与えてもらうだけっていうのは、違う気がする。


 すると……。


「そういえば、ちょっと思ったんだけどね。コウキくん、アンタお店の従業員として、サオリちゃんを雇ってあげたらどうかな?」

「え、お店って、あのラーメン屋ですか?」

「おい、いきなりそんな……いや、案外いいアイディアか?」


 私はビックリしたけど、コウキさんは何やら考えてる。


「この前まで雇ってた子が田舎に帰っちゃって、てんてこ舞いだったろ。丁度人手が足りなかったんだから、この子に手伝ってもらえばいいじゃないか」

「まあ、確かに」

「そもそも一人で店を回そうって方が、無茶だったんだよ。昨日この子が人間だって気づけなかったのも、余裕がなかったからじゃないのかい。日々の忙しさに捕らわれたら、真実に気づけないもんだよ」


 コウキさん、昨日のコウキさんと全く同じこと言ってる。

 私が最初、コウキさん達を妖怪だって見抜けなかったのが、まさに同じ理由なんだっけ。

 けどコウキさんも私が人間だってすぐに気づけなかったってことは、あの言葉はブーメランだったってこと。

 ぷぷっ、コウキさん、バツの悪そうな顔してるや。


「分かったよ……サオリ、アンタはそれでいいか? 接客はできるか?」

「はい。昔ファミレスで、バイトしたことあるので」

「大丈夫だろうな。くれぐれも鬼ラーメンの評判を落とすようなことを、するんじゃないぞ」

「はい……って、鬼ラーメン?」

「うちの店の名前だ! これから働く店の名前くらい覚えとけ」


 怒られてしまったけど、しょうがないじゃないですかー!

 働くって決まったの、今の今だし。名前を知るチャンスなんて、昨日お店に入ったときくらい。

 けどあのときは心身ともにボロボロで、名前なんて見てなかったんだもん。


「しっかりしてくれよ。うちは師匠から味を受け継いで、暖簾分けを許された由緒正しい店なんだからな」

「そうなんですか? あのラーメン美味しかったですけど、コウキさんのお師匠さんって、そんなにスゴい人なんですか?」

「そりゃあ鬼丸師匠は、ラーメン界隈では知らない人なんていない……って、人間のアンタは知らないか」


 残念ながら、妖怪の世界の有名人のことなんて全然知りません。

 すると、コリンさんが教えてくれる。


「コウキくんの師匠の鬼丸はね、妖界にラーメン文化を広めた料理の達人なんだよ。元々は鬼の貴族だったけど、ラーメン道を志すって言って家を出て、今では伝説の麺職人さ」

「妖怪の事情はよくわかりませんけど、すごそうな人ですね。分かりました、私も評判を落とさないよう、頑張ります」


 それにしても、会社が潰れたときはどうなるかと思ったけど、まさかこんな形で次の仕事が見つかるなんて。

 こうなるまでの経緯はいいもんじゃないし、元の世界に帰れないのはやっぱり悲しいけど、当面の生活の保証はできたわけだし。

 世の中何がどう転ぶか、本当にわからないや。


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