第2話 口悪イケボのイケメン妖怪と、同居するってどういうこと!?
妖怪のラーメン屋さんに行ったら、帰れなくなった。
このあり得ない事態に頭を抱えたけど、そひたら猫のおばあちゃん……コリンさんって言うんだけど、そのコリンさんが色んなことを教えてくれたの。
「そう悲観することないよ。何も帰る方法がないわけじゃないから。役所にお金さえ払えば、帰してもらえるよ」
「え、そういうシステムなんですか? でも私、あんまりお金持ってなくて……ちなみにいくらくらいするんですか?」
「えーと、ちょっと待っててね」
そう言ってコリンさんが取り出したのは、なんとスマホ。
え、妖怪もスマホ使うんだ!
そして妖怪用のホームページでもあるのか、ポチポチやって調べてくれたけど……。
「ほら、これが値段さ」
「えーと……一、十、百、千、万……ひ、ひぃ~! 無理です無理です! とても払えませーん!」
こんな大金、例え無職になってなかったとしてもキツいですって!
「そうか無理か。しかしそれじゃあどうするかねえ。帰らなかったら、アンタの家族も心配するだろうしねえ」
「あ、それは大丈夫です。私、親も兄弟も親戚もいませんから」
両親は私が成人する前に亡くなっていて、天涯孤独なのだ。
そして社会に出てからは学校に通っていた頃の友達とも連絡を取ってなくて、今は親しい友人なんていない。
「ん? それじゃあ仕事は?」
「それが、今日ちょうど会社が潰れちゃって、無職なんです」
「なるほど。それじゃあアンタが帰らなかったところで、心配する人も困る人もいないってことか。運が良かったのか悪かったのか」
いや、それはそれは完全無欠の不運ですって。
「お嬢ちゃんの事情はわかったよ。とりあえずコウキくん。アンタ責任もって、この子の面倒を見てやりなさい」
「待て、何でオレが?」
「何言ってるんだい。人間を見分けるのも、店を持つ者のつとめだよ。なのにうっかりラーメンを食べさせて帰れなくさせちゃったんだ。責任を取るのがスジってもんじゃないのかい?」
「それは……分かったよ。面倒見ればいいんだろ。おい女」
「はい……って、『女』じゃなくて、名前で呼んでください」
そんな呼ばれ方、高圧的で好きじゃない。
コウキさんイケメンなのに、好感度がどんどん下がっていってるよ。
「……わかったよ。アンタ、名前は?」
「高村サオリです」
「サオリか。よし、とりあえずこれを見ろ」
下の名前呼び!?
しかも結構なイケボだからついドキッとしちゃったけど、そう簡単にほだされないんだから。
するとコウキさん、さっき私が開けようとして開かなかった戸を、アッサリと開けた。
え、ひょっとしてこれで帰れるの?
けど、世の中そう甘くはなかった。
来る時に入ってきた戸の先には、まるで時代劇に出てくるような和風の町が広がっていたの。
「ど、どこここ!?」
「オレらの世界だ。この店の戸は、オレ達妖怪の世界とアンタの住んでた人間の世界、両方と繋がっている。もっともアンタは人間の世界には、行けなくなってるけどな。けどオレがさっき術をかけたから、店から妖怪の世界に行き来できるようになった」
「術って、そんなのいつ掛けたんですか」
「柏手を打っただろう。あれはアンタみたいな鈍感なやつに、見えないものを見させる術だ。あの術を掛けたから、オレ達が妖怪だって分かるようになったんだ」
そういえば。コウキさんに角が生えたり、コリンさんが猫に見えるようになったのは、そのタイミングだったっけ。
「本当はあんな術を使わなくても、分かるはずなんだがな。けどお前たち人間は常識や日々の忙しさに捕らわれて、真実に気づけないでいる。面倒なことや都合の悪いことは、見ようとしてない」
「そんな言い方……毎日忙しかったのは認めますけど」
「別に悪いとは言ってねーよ。それも身を守る術だからな。……で、悪いけどアンタには、しばらくこの妖怪の世界で暮らしてもらう」
「そんな……けど、仕方ないんですよね」
本当ならすぐに帰してほしいけど、さっき見せてもらったお金を用意してもらうのも難しいだろうし。
「サオリちゃん、元気出しなよ。ここでの暮らしはコウキくんが責任もって保証するから。住む場所だって、コウキくんの家に泊めてもらうといいよ」
「そうですね……って、ふえ? 泊めてもらうって、コウキさんの家に?」
慌ててコウキさんを見たけど、ため息をつく姿からも感じる美しさ。
こ、この人の家に泊まる? しかも今の話だと、1日泊まるだけじゃなくて、事態が解決するまでお世話になるってことじゃないの?
そ、そんなの困るよー!
せめて心の準備くらいさせてー!
◇◆◇◆
……心の準備なんて、させてもらえませんでした。
それどころかコウキさんはすでに来ていたお客さんが食べ終わるとお店を臨時休業にしちゃったの。
ただでさえろくにない気持ちの整理をつける時間を、ますます削ってくれちゃって。
そうして連れていかれたのは、カウンターの奥のさらに奥。
聞けばラーメン屋と住居が一体化していて、お店の奥はコウキさんのお家になっているんだって。
そしてさっき外を覗いた時に見た時代劇で出てくるような町並みから、てっきり夜はあんどんの灯で生活するような家を想像していたけど。
家の中は現代日本とそう変わらなくて、部屋は和室ではあるものの天井には蛍光灯があり、テレビも置かれていた。
「意外。家の中は普通なんですね」
「当たり前だろ。妖怪だって、日々の暮らしをアップデートしてる。パソコンもスマホも、普通に使うしな」
「それじゃあ、さっき見た外の景色は?」
「景観を損なわないために、外見だけ古きよき日本に寄せてるんだ。京都だってそうだろ」
そんな理由ですか。
そして話をしながら通された部屋は、畳のしかれた和室だった。
「普段は客間として使ってる部屋だ。後で布団を用意するから、とりあえず今夜はここで寝ろ」
「は、はい……」
急に決まったことだから、当然コウキさんも泊める準備なんてできていない。
どんな部屋でも、寒さをしのげる場所を与えてもらったのはありがたい。
まあもっとも、こうなったのもコウキさんのせいなんだけどね。
けど今さらだけど、泊まるで決定なんだよね。
今日会ったばかりの、男の人の家に……。
「とりあえず、分からないことがあったら聞け。あと風呂わかしておくから、今日はさっさと入ってからさっさと寝ろ」
「え、お風呂ですか?」
「ああ……って、なに警戒してる。心配しなくても、お前みたいな色気の無い女、手なんて出さねえよ」
「──なっ!?」
なんですってー!?
この人口悪すぎだよ。そういえば元カレにも、同じこと言われたっけ。
ううっ、みんなして酷い……。
「着替えも用意しておくから……って、なに泣いてんだ!?」
「な、泣きたくもなりますよ! 会社が潰れてただでさえメンタルボロボロだったのに、いきなりワケのわからないことになって、その上暴言まで吐かれて……サイテーです!」
「待て。わかった、悪かったって。お前はちゃんと魅力ある。美人すぎて、今にも襲いたいくらいだ」
「……その言い方もどうかと思いますけど。さっきから思ってましたけど、コウキさんって、顔はいいのに中身は残念ですよね。この顔だけイケメン! 口悪イケボ!」
「なんだと! ……いや待て。悪口言ってるのに微妙に誉めるのはやめろ。反応に困る」
そんなこと言われても……。
とにかく私達、相性はよくなさそう。
なのにそんなコウキさんに頼るしかないなんて、まるで悪夢だよ。こんなんで、この先大丈夫なのかなあ。
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