聖女の規格外べいびー
あの事件から三週間…そう、今日は待ちに待った私の子供が膜から出てくる日!
…と、言ってもリュカが今日か明日って言ってるだけだから、もしかしたら明日かもしれないしまだ先かもしれないんだけどね。
(でも、なんだか今日膜の中から出てくる気がする…親の勘ってやつ!?)
そういえば、転移前に友達が『出産予定日が待ちきれなくて毎日ソワソワしてる』って話してたことをふと思い出す。
「あ~、あの子は今どうしてるんだろうなぁ~。私が異世界で出産したって言ったらどういった反応するんだろうか?」
「いきなりなんの話よ」
「いや、この世界に来る直前に出産日がもうすぐだって言ってた子のこと思い出してたの。あの子の子供は可愛いかっただろうなぁーどうせならその子を見てからこの世界にきたかったなぁ」
「あら、そうなのね。というかあんた…この世界に来る事は変えないのね」
「うん、色々あったけどリュカとか皆に会えたからね!結果よければ全てよし?かな?」
子を眺めながらつい言葉に出た転移前の話、なんだか少しだけ前の世界での事を思い出し切ない気持ちになってしまった。
少し違うけど、ホームシックみたいなものかな?
(まぁ、来たんだからしょうがない!気持ち変えてこー)
そう、私達はこの日のためにレイやヴェルやティルと子供の名前を考えたし、育児に必要なものはリュカと相談して何が必要か話合って決めたし、必要な物はレイがリスト化してくれておじさまが手配してくれたから準備は万端なのだ!
「あんたソワソワしすぎ。膜から出て来たって1ヶ月経たないと目も見えないし、もちろん喋ることも歩くこともできないんだからね?今この時間は本来ならゆっくり寝てるべきなのよ!ほ、ん、と、な、ら!」
「でも、でも、気になって無理だよ~寝れないよぉ~」
リュカから何度も『寝てなさい』と言われるのだが、全然寝れる気がしない。
いや、これにはちゃんとした理由があるのだ。
確かに初産という事でのソワソワもあるのだが…子供の成長具合が地球とは全く違うからなのである。
この世界での子供は体や脳が成長するのがとてつもなく速く、1ヶ月は両親と過ごしそれが過ぎれば登校制の幼学園へ行かせるというのだ。
『そんな早くに!?』とびっくりしたのだが、1ヶ月経つと地球でいう所の幼稚園に行ける程度には成長するというのだ。
ちなみに私の子供は貴族では無いのだが法的な関係で幼学園にこの子を行かせないといけないらしい。
私的にはもっと子供との時間が欲しい所だけれど『聖女の子供だからちゃんとした教育を受けさせないと』とリュカから何度も早期教育の大切さをこんこんと説かれ『子供の為になるのなら』と半泣きで申請書類をきちんと書いてレイに渡した。
適切な時に申請書類を持って行ってくれるらしいのでレイに任せた、私はきっと忙しいだろうしね。
それから私は夫達とこの三週間みっちりこの世界での育児について学んだので皆昨日から『いつ出てきても大丈夫だよ』『早く大きくなぁれ』と、朝から膜の中ですやすや寝ている子に対して声をかけ続けた。
子が膜から出てくるのを皆が今か今かと待ってる状態である。
「…はぁ。」
部屋の中で私や夫達がソワソワとしてるのを見たリュカは、もう何度目になるか分からないため息をついた。
幸せが逃げるぞ?
そんな時、ノックの後にトリンが部屋に入ってきた。
もう、トリンとは何度も会って話をしてるので皆違和感なく招き入れるし、私も気にならなくなった。
初めの頃は色々と複雑な気持ちもあったし、頭で大丈夫と思っていても体が震えた日もあった。
今は一緒にお菓子食べたりもするし遊んだりもする、いい友達になれたと思う。
そんなトリンは部屋の中をキョロキョロとし、ティルの所へとビクビクしながら向かいいつものように伝言をいう。
トリンを見てるとなんか既視感があると思ったんだけど、この間わかった。
トリンは何かに怖がってる状態の犬のパピオンに似ているのだ。
潤んだ大きな瞳にクリーム色の髪、サラサラストレートなのに何故か毛先だけ外はねしていて私基準で言うと…あれだ、年下の守ってあげたくなる系の女の子みたいでかわゆい。
きっとトリンが女の子なら小さくて巨乳だっただろう、きっとそうだ。
そんな馬鹿らしい事を考えてる私の事など梅雨知らず、トリンは何故かティルに話しかけ始めた。
「え?えっと、えっと、王様から言伝です~『探し人発見、新情報あり、ティル来い』だそうです』
「トリン~いつもありがと!ティル、いつでもいっていいからね~」
「えぇ~?今はやだよ、こんな時に呼ぶなよぉ~…」
「…行くときは俺も一緒に行ってもいいっすか?まぁ、子が膜から出て一度抱っこした後になるんすけど」
「え…えっと、えっと?王様からはティルだけにしてくれと僕は言われましたので…」
「私も聞きたいけどティルから聞くので我慢しようよヴェル、今は子を見守ろ?」
「優里がそういうんなら仕方ないっすけど…俺ずっとモヤモヤしてるんすよね」
どうやらおじさまがセリナさんのことを見つけたらしい。
だが、なんでヴェルじゃなくてティルなんだろうか?
セリナさんが見つかった事で一瞬部屋の空気が緊張したものに変わったけれど、近々子が産まれることを思い出したのか皆直ぐに雰囲気を柔らかいものに変えてくれた。
セリナさんに対して私が怒りなどの負の感情を今はまだ持っていない事を皆に伝えているからかもしれない。
(あ、本人が捕まってるからってことかな?でも、ヴェルがダメっていう意味がわからないな?)
新情報の裏を取りたいのか?他にもティルが必要な何かあるのか?おじさまが聞けばティルはいらないんじゃないのか?
私がうんうん唸りながら考えてると、ふとリュカの様子がおかしいことに気づいた。
「リュカ、どしたの?」
「え、いや…ちょっと…膜の中を見てみなさいな」
「ん?んー?」
「膜の中の魔力が膨れ上がってきてるからそれを抑え込もうとしてるのだけれど…私の力を跳ね除けて来てるのよ」
「ん?ん?んんんん?あれ?なんか…おっきい?」
さっきトリンが来た時には3キロ程の至って普通サイズの赤ん坊だったのだが…なんだか今は生後半年は確実に過ぎてるような気がする。
膜の大きさも明らかに肥大化していて、瞬きするたびに子が大きくなってる?…見間違えじゃない!
「リュ、リュカ…膜の中でこんなに成長するの?て、てか…こんなに急成長してもいいの?!」
「さ、さっきから必死に押さえ込んでるのよ!でも、私よりも魔力が大きいからどうにも抑えきれないの…こんな事今まで起きた事ないから私にもわかんない…の、よ!」
基本的に膜守りとは、魔力が少なくなる事で破れてしまう膜を守る事が仕事なのだと聞いていたが、この状態は全く違う。
完全に魔力が多くなる事で異常成長して居る様にしか見えないのだ。
(この場合魔力を吸い出さないといけない?いや、その方法が出来るならリュカならきっとやってる…膜を破ったほうがいい?!)
膜へ掌を付け必死に魔力を落ち着かせようとしてるリュカは右手でひたすら錠剤を口へと入れている。
その額からは汗が滲み顔は苦しそうに歪んでいる…錠剤をあれだけ口に入れてるのだからそうなるのだろう。
「リュカ!私も魔力抑えるの手伝う!」
「や…めなさい、下手なことすれば子に影響するわ、よ!」
考えてもわからない私はリュカを手伝おうとしたのだが、そう言われ私は口を噛む。
(私に何かできることは無いんだろうか?)
私がそう思った矢先…膜の魔力が一瞬で膨れ上がり、リュカとその後ろでサポートして居たレイが一緒に部屋の壁まで吹き飛ばされる。
『え?』と、リュカとレイに視線を向けた瞬間、私の背後が光った。
後ろを向いていてもわかるほどの光だ。
(今の光…なんか見覚えがあるような?)
そう思った私が前を向き直そうとした瞬間…私の腰へとなにか小さいものが抱き着いてきた。
力を入れていなかった私の体はバランスを崩し
よろめく。
横にいたヴェルが支えてくれたことで倒れることはなかったのだが…私の腰には3.4歳ほどの裸の女の子が私にぎゅうぎゅうと抱きついていて驚く事を口にしたのだ。
「まま!」
鈴の転がるような澄んだ声でままと私を呼ぶ女の子…。
膜に入っている子を置いていたクッションの上には何も無い…。
この状況でこの子が我が子じゃないとは思わないが…。
「なんか勉強したのと全く違う?!」
「ふえっ?!」
私が両手で頭を抱え、叫んだことに女の子はとても驚いて更にキツく私へと抱きつく。
「聖女の子は凄い…ね?」
「いや、ティル。…あれはまた、ちがうんじゃないんすかね?」
「えっと、えっと…王様へ僕は報告しに行ってきます…ね?」
「わ、私は子供服を、服を、入らない…ですね、えっと、た、たおる?た、たおるをもってきますぅう!」
ティル、ヴェル、トリン、ミミちゃんはそれぞれ私同様困惑していた。
「いたいわね…って!ちょっと!なんでそんな事になってるのよ!あぁあ!あんた規格外にも程があるわよ!どうすればこんな事になるのよ!」
「…僕の上から退いてくれませんかリュカ…」
「あらやだ、ごめんなさいね」
リュカとレイも異常事態に気がついたようだ。
…さて、これは……。
もう成長したから幼学園にすぐに行かせないといけないってことか?!
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