野次馬精神旺盛な聖女は殴られる
「あの…ヴェルはもう結婚してしまったので、他の方を探してみてはどうでしょう?」
ギャンギャンと言い合いを続け、話がまとまらないのでレイが二人の間に口を挟む。
ヴェルはレイの言葉を聞いて『うんうん』と首を上下に振り、セリナは『ぎりり』と歯を食いしばる。
私から見てとても綺麗な女性という事は、この世界では相手を探す事は困難なのだろう。
けれど、私から見たセリナの表情はどこかそれだけが理由じゃ無さそうに見えた。
レイの言葉により話は進むかと思ったのだが、セリナの「だが」「だって」「そうじゃない」「違う」の否定文によって話は進まず…。
そんな中リュカはずっと目を瞑って何かを考えているようなそぶりをしていたが、急に目をあけ話し始めた。
「セリナさんは代わりの婿を探しているんですよね?では、神殿の方で声をかけてみましょうか?犯罪歴などのない常識的な方なら誰でもいいんですよね?」
「そ…れは。そうだが…」
リュカが代替案を出してくれたが、セリナの表情は浮かないまま…何かに怒っているようにも見えるその表情に私は少し違和感を感じた。
久方ぶりのセリナの否定以外の言葉だが、それに引っ掛かりを覚えた私はつい口を挟んでしまった。
「あのぉ…セリナさんは、ヴェルがいいんですか?ヴェルにこだわる理由とかってあるんですか?」
「別にこだわってなんかいない!」
私の言葉に気分を害したと言うように顔を真っ赤にし、大声で否定をしながら席を立つセリナ。
そのまま『話にならん!』と怒りながら大足で部屋を出て行ってしまった。
「…単純に好きなんじゃないですか?ヴェル様の事」
私たちがセリナの後ろ姿を無言で見つめている時、後ろで立っていたミミちゃんがボソッとそう言った。
ヴェルはその言葉を聞いて『んなこた絶対ないっすよ』と鼻で笑っていたが、私は案外あっているんじゃないかと思ったのだった。
「あれ~?なんで扉なくなっちゃってるの~?」
そんな微妙な空気の中、部屋の入り口の方から間の抜けた声が聞こえた。
皆が一斉にそちらに目をやると、すごく楽しそうな表情をしてるティルがいた。
レイと私は一つため息をついた後、ティルに今あったことを説明した。
その話を聞いたティルは笑い転げ、笑い過ぎて涙まで流していた。
重かった空気がティルのお陰で吹き飛んだ事には感謝してもいいかもしれないが…それにしてもティルはよく笑う。
多分、フォークが転がっても笑ってる気がする。
そんな事を考えた私は『ティルが話し合いの時にいなくてよかった…』と、心から思うのだった。
何も解決しないままに終わった話し合い。
また近々セリナさんがやってくるかもしれないと思った私はあれから扉を開けたまま生活するようになっていた。
(直してもらったのにすぐ壊したとなればおじさまに詳しい理由を聞かれそうだし…今回のことで聖女に害をなしたとか言われてセリナさんが処分を受けたら後味悪いしね…)
今回のことは完全なる色恋沙汰で、私には関係…あるのかな?妻だしある?
とても微妙なラインだと私は思っているので、あの時にいた人達以外にはこの話は言っていない。
前の世界で色恋沙汰に関しては、第三者が介入して良くなった試しがないと皆が言っていたからだ。
今回のことに関して私は、聖女としての身分を使って解決することはしたくないと思っている。
人の気持ちは周りが押し付けたところで我慢出来るものでも、諦める事が出来るわけでもないと思っているからだ。
それから数日経ったけれどセリナさんが来ることもなく平和に毎日が過ぎていった。
数日間はワクワクした様子で部屋にいたティルももう諦めたのか部屋には居ないし、レイはセリナさんのことを調べると言ってここ数日間はあまり一緒に居てくれないし、ヴェルは少し考えたいことがあるとか言ってここ数日顔を合わせていない。
なのでここ最近はリュカとミミちゃんと三人で過ごしていたのだが、今日は『神殿に結婚したい人が居ないか一応確認だけしてくるわ』といい行ってしまったのでリュカも居ない。
完全にミミちゃんと二人、暇を持て余した私は散歩することにした。
部屋でゴロゴロし続けていた私のお腹の肉に危機感をいだいたからだ。
行き先は王妃様が大絶賛したという『聖女の庭』だ。
一つ言っておくけど、私は何もしてないし昨日話を聞いたばかりだ。どうやらおじさまが『聖女には花が似合う!』と言って、庭師に新しく作らせた庭らしい。
その庭には珍しい花が咲き乱れていて圧巻されるというのだ。
(王妃様の庭より素敵だとかなんとか…いや、おじさま…そこは少しランク下げようよ…胃が痛くなっちゃうよ)
別にそこまで花が好きなわけではないが、暇だし一度見に行ってみようと軽い気持ちで足を運んだ。
『聖女の庭』に着くと、先客がちらほらと花を見ながら談笑していた。
色とりどりの花々と色とりどりのドレスを着た令嬢や婦人が視界に入る。
快晴の空と瑞々しい芝生の間に広がる色とりどりの花やドレス。
まるで絵画の様だなと私は感じた。
この世界にSNSがあれば、私は色々な角度から写真を撮りアップロードしていただろう。
確かに圧巻と言われる事はあるなと思いつつミミちゃんと歩いてゆくと、奥の方が何やら騒がしいことに気づいた。
なんだろうと思い、野次馬精神旺盛な私がそちらに行こうと足を踏み出そうとした瞬間…私の頭に強い衝撃が走る。
『ゴン』と鈍い音が自分の内側から聞こえた瞬間に視界はぼやけ遠くなってゆき、私の体は地面に叩きつけられた。
自分の体が自分のものじゃないかの様に動かす事ができない。
地面に叩きつけられた感覚も今の私には無かった。
何が起きたのかわからないまま薄れてゆく意識の中、どこか遠くでミミちゃんの泣き叫ぶようなくぐもった声が聞こえた気がした。
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