人の話を聞かない女騎士と動揺する聖女
「あんたが聖女!?あんたのせいで…あんたのせいで!」
ドアを開け飛ばしたのは私基準で綺麗な女性だった。
燃えるような赤い髪の毛、それと同じ色の瞳からは怒りの色が滲み出ている。
騎士服を着ているその女性は大振りな歩でこちらへと向かってくる。
その姿は凛々しくて場違いにも私は少し、見惚れてしまった。
ちなみに私はまだ果物を咀嚼している。
「私はセリナ!あんたのせいで私の騎士生命は…もう終わりよ!」
私の前まできた女性…セリナは、頭を手で挟みながら振っている。
綺麗にまとめられたポニーテールが私の目の前でぶんぶんと激しく振られているのを眺めていると、壊れた扉の下敷きになっていたヴェルが這い出してきた。
「いてて…咄嗟に防御したけど扉重過ぎんだろ」
体についた埃などを払いながら私の方を見たヴェルは、未だぶんぶんと髪の毛を振っているセリナを見て固まった。
かなり重そうな扉の下敷きになった筈なのに傷一つないヴェルに私は感心しつつ、二人は知り合いなのかと眺めていた。
何が何だかわからないので、私はひたすら空気に徹することに。
「え、えええ…なんでいるんだよセリナ!…つーか扉ぶっ飛ばしたのお前かこのゴリラ女!」
「ゴリラじゃない!ちょっと身体強化がやめられないだけだ!」
「お前は剣を振る前に魔力制御を覚えろよ!」
どうやらセリナとヴェルは知り合いのようだ。
そして「あの華奢な身体でよくあの重そうな扉を壊したな」と思っていたが、どうやら魔法が原因だったようだ。
「それよりもお前!お前のせいだ!お前のせいで!」
「あぁん?何が俺のせいなんだよ!」
「お前のせいで私は騎士であり続けることができなくなったんだぁああ!」
どんどんヒートアップする二人を眺めてると、壊れた扉のからリュカとレイと使用人達が入ってきた。
壊れた扉を見てギョッとする皆。
『一体何が起こっているんだ』と言いたげな表情で私を見るリュカに対し私は『知らない』という様に首を振る。
「なんの騒ぎですか?これはどういった状況なんですか?」
不機嫌そうにレイが問うがヴェルは『いや、俺が聞きたいっす…』と疲れた顔をしながら答えたのだった。
それから壊れた扉は使用人達が片付けてくれた、扉は無いままなので見晴らしがいい。
ギャンギャンと押し問答を繰り返してる二人を見たリュカが『一先ず落ち着いてはなしたらどうかしら』と言う一声により、座って話をする事に。
気が利く専属メイドのミミちゃんは何も言わずとも全員分のお茶とお菓子を用意してくれた。
さすがミミちゃん、今日も可愛い。
「さて、順番に話してちょうだい」
なぜかリュカがこの場をまとめているのだが、誰もツッコミを入れずに話し合いは進んだ。
セリナも大分落ち着いたらしく、どうして怒っているのかなどを説明してくれた。
セリナの話をまとめると…至ってシンプルだった。
『自分の旦那様になる予定のヴェルが聖女と結婚したので騎士を続けることができなくなった』と、言うことだった。
…すみません、完全に私が原因です。
「いやいやいや!俺はお前と結婚するつもりはなかったから!」
「いや、結婚してもらう予定だった!」
「なかった!」
「あった!」
罪悪感に押しつぶされそうになっている私の目の前で二人は仲良さげに言い合いを続けている。
この二人の幸せを私が無理矢理奪ってしまったのかと考えれば考えるほど気持ちは沈んでゆく。
そんな私を見たリュカがため息を一つついた後に私を小突く。
「何沈んでんのよ、ヴェルがああ言ってんだから少しは信じてあげないと可哀想じゃない?」
リュカが私の耳元で言った言葉に私はハッとした。
確かにヴェルはずっとセリナの言葉を否定してるのに、私はそれを信じていなかったのだ。
こういった修羅場のような場面に遭遇した経験のなさがそうさせた様だ。
リュカの言葉で少し落ち着いた私はふと、何故それが騎士を続けることと関係があるのか気になった。
レイも同じだった様で、セリナに聞いてくれたんだけど…お家事情だった。
セリナは騎士家系の一人娘で、結婚し跡取りになる子供を最低一人産む事が騎士をつづける条件だったそうだ。
本来なら婿探しに時間を割かないといけない所を騎士業に当てる為、絶対結婚しないだろうヴェルを勝手に婿にすると決めていた様だ。
ヴェルは何度かセリナに『婿になれ』と言われていたのだが、結婚に必要性を感じていなかったヴェルは毎度断っていたそう。
そんな時私と出会い、恋に落ちて結婚する事に。
セリナの事は完全に頭に無かったようだ。
父親にそろそろ婚姻しろと言われたセリナがヴェルを探すも、ヴェルは私と疫病の旅へと出ていたので見つからず。
しかも聖女と婚姻を結んだと聞かされたセリナは私達が旅から帰ってくるのを待っていたそうだ。
そして今日、旅から帰って来た話を聞いて飛んできたらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます