暗闇の中聖女は慟哭する
「ん…ここは?」
ズキズキと痛む頭を抑えつつ、硬く冷たい床から起き上がる。
痛みのせいで狭まっている視界の中、自分が今置かれている状況を把握するため眼球を動かし辺りを見回す。
部屋の中はとても暗く、先の方は自分が動かないと見る事はできなさそうだ。
ズキズキと痛み続ける頭は怪我をしたのだろうか、髪の毛が束になり固まっていた。
きっと、血が出た後に固まったのだろう。
そう考えると、私は少なくない時間気を失っていたのだろうか?固まっている髪の毛の具合からそう思った。
私は自分に対して『再生』の力を使い、怪我をしただろう後ろ頭に対して治療を試みた。
自分自身に力を使うことは初めてだったので、少しの不安はあったが無事成功したようだ。
頭の痛みがなくなった私は改めて辺りを見回すが、この場所がどこなのか皆目見当もつかない。
「う~ん…」
ひとまず部屋の中を一周回ってみたが特に何もなく、私の頭を悩ませた。
ここから逃げようにもドアも窓も無いのだ。
上の方に小指ほどの穴が無数にあるようで、そこから空気と微量の光が入ってくるだけなのである。
漫画やアニメなどでは監禁されたら鉄格子がはまった部屋だったり、自分の四肢が縛ってあったりするのだが…私の場合はどちらかというとあれだ。
あの有名なホラー映画のやつ、テレビから髪の長い女性が出てくるやつだ。
あの人も深い井戸の底に落とされ、上から蓋をされていた記憶がある…それとほぼ同じようなものじゃ無いだろうか?
きっと私の場合はこのままご飯も出ないのだろう。
話し合いだとか黒幕が主人公に対して謎の自白?をしてきたりもなさそうだ。
…もしかしたら私は今、絶体絶命なんじゃないだろうか?
レイやヴェル達が私を見つけてくれることを願って待っていてもいいのだが、多分そうしたら私は子供とこのままここでお陀仏コースだろう。
あぁ、アニメの主人公ならばここで何かの力が発現したりするのだろうが…私に関しては全くそんな兆しはない。
私はただ、緑色に発光し『再生』の力が使えるだけの聖女なのだ。
そういえば聖女って一生独身で清らかな身のままのイメージだったんだけど、私の場合沢山子供産んでって…これは聖女を名乗っていいのか?
…そういえば、人間って何も食べなかったら何日生きれるんだっけな?いやむしろ真っ暗な部屋にずっといたら精神的に良くない気もする。
だめだ、焦って変なことばかり考えてしまう。
とりあえず、隠し扉がないか探してみよう。
コンコン…コンコン…
私は履いていた靴の踵を使いひたすら丁寧に壁や床を叩いてゆく。
何分、何十分そうしていただろうか?最後の一か所を叩き終えた私は改めて絶望していた。
「だめだ、本当にどこも開きそうにない…」
一筋の希望も失ってしまった。
グスグスと止まらない涙を流しながら膝を抱えて顔を埋める。
泣いたらダメだと思っていても涙は止まらない。
ここで私は呆気なく死んでしまうのか、素敵な夫や友達…あと数日で子供も生まれるはずだったのに。
なんでこんな目に遭わなきゃいけないのか。
神様女神様は私が幸せになることが気に食わないのだろうか?
あぁ、だめだ。
真っ暗な部屋の効果だろうか?思考回路がどんどん良くない方向へと流れてゆく。
…。
泣き疲れて少し寝ていたようだ。
気づけば私は寝ていたらしく、外も夜になってしまったのだろうか…漏れていた明かりも薄らぼんやりしたものになっていた。
「なんだか腹が立ってきた」
恐怖心を誤魔化すために思ったことを声に出した私はふと考えた。
「少し隙間があるってことは私の声が外に聞こえる可能性があるってことよね?」
誰に対してでもないけれど、独言る。
そうだ、小指ほどでも親指ほどでも穴があるのならば叫んでみたらいい。
そうして消して短くない時間私は叫び続けた。
遠くまで聞こえるよう口笛を吹いてみたり、手をリズムに合わせて叩いてみたり、歌を歌ってみたりと私は必死に頑張り続けた。
穴から漏れる光がだんだんと明るくなってゆくのを見つめながらひたすら頑張った。
…けれど、喉が渇き咳き込んだり疲れてお腹が空いたりしただけだった。
「誰か…誰か助けてよお!レイ!ヴェル!リュカ!ティル!ミミちゃん!おじさま!王妃様!セリナさん!うわーん!」
もう恥もへったくれも無くなった私は知ってる人の名前をひたすら何度も慟哭した。
その時、無数にある穴の一つから声が聞こえた。
「やっとみつけた!」
その声を聞いた私はびっくりし過ぎて後ろの壁に頭を打ちつけた。
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