第4話 集合、VRMMO対策課
真壁綺麗の会社を一時撤退した次の日。新宿のとある高級レストランに上司から呼び出された柏木と国枝。集合予定より1時間早く店に到着し、上司が来るのを待つため、先に予約された席へと向かうのであった。
「あ、お前ら。何やってんだよ、失敗しやがって!」
「いやそれ、俺らのセリフ。お前らこそ昨日なんかしたか?」
二人が予約されてる席に案内されるとそこにはもう二人先に席に着いていたのだ。
二人の名前は
原島からの発言には驚いてしまった。
何やってんのはこっちが言おうとしてたのに、何故か先に言われてしまった。
俺たちは確かに真壁の思考を読む前に撤退してしまったが、そもそもコイツらは何処にいたんだ。
画面で見えてたのはビューティーとアイラだけ。遠くにいて見えなかったのだろうか?
柏木は原島と尾上が昨日ゲーム内で得た情報を聞くことにするのだが…
「……は?、真壁が何処にいたか分からなかった!?」
聞き出すも何も、二人はゲーム内で真壁と会うことすら出来ていなかったのだ。
「お前それでよく何してんだとか言えたな?」
「しょうがないだろ、俺らゲームなんてやらないし」
「ならなんでお前らがゲームやってんだよ」
「俺らビルの潜入とかもっと無理だから。まだゲームする方がマシ」
「………」
原島の言い訳には呆れて何も言えない。
そんなこと言い出したら俺だって潜入のプロじゃねーよ(国枝は適任過ぎるぐらいだが)。
高いところは清掃員時代のビル窓拭きとかで慣れてるけど。
ゲームやるだけでいいなら俺だって直の潜入よりゲームしてーよ!
柏木は心の中で原島と尾上に対して役職変われと言い続けていた。
「結局原島と尾上は何してたんだ?」
「……」
「なんもしてないのね、はぁ」
二人がゲーム内で何もしてないことを確認したところでため息が出る。自分は仕事をしっかりこなしているのに別動隊がこれではダメだなと思う国枝であった。
そんな国枝に原島と尾上は「お前はどうなんだ!」と口を揃えて言ってくる。仕方がないので国枝は自分が仕事をしたという証拠である社長室で見つけた探索物を三人の前に提示する。
「「「…………」」」
国枝の仕事ぶりには原島、尾上、そして昨日行動を共にしていた柏木も、その物を黙って見つめるしかなくなっていた。
「何でお前も驚いてんだよ」
柏木が驚いていることに対して国枝も驚く。見てなかったのかと国枝は柏木に言うが、柏木は国枝が探索してることを今思い出したのだ。
………俺が真壁に怒った時は止めに来てたけど。そういえばコイツ、なんか社長室でガサゴソやってたな。めちゃくちゃ仕事してるじゃん。
目の前の物を見て国枝の仕事ぶりに柏木は関心する。
三人の目の前に置かれたのは1個のデジタルカメラ。データを確認してみるとそこには真壁綺麗の業務記録や手帳の内容がびっしり入っていた。
国枝の仕事は主に潜入と探索。一緒になってテレビ見てるなとは思っていたが、もう仕事終わってたのか。……すげー出来るやつだよな国枝って。
こんなに仕事スキルの高い国枝が俺と同じ清掃会社で働いていたことには不思議でしか無かった。
それに今この席にいる三人と同僚というのも謎といえば謎。捕まって声を掛けられた俺だけど他の三人に比べると俺はキャラが弱過ぎる。
原島幸雄。
ゲームなんかやったこと無いとかさっきは言っていたが、その言葉は半分間違っているのだ。実際はゲームなんか面白いと思ってやったこと無いというのが正しい表現なのだ。
原島の元々の仕事は主にゲームアカウントの転売業。しかも普通の転売ではなく、チートによってアプリ内キャラを最強にしてから、売り捌いて儲けてたのだ。
ゲームを金儲けの道具にしか思って無い原島は真面目にゲームをした事などなかったのだろう。だからチートの使えないVRMMOに対しては全く無知なのかもしれない。
原島は違法転売の罪で捕まり、俺のようにVR MMO対策課に来ることになったらしいが、俺と違って原島は有能なスキル持ちではある。
コイツは犯罪者でもあるが、超有能なゲームエンジニアでもあるのだ。
ゲームを作るよりチートで転売する方が儲かるという理由で犯罪に手を染めたらしいが、そもそもはゲームを一人で作れるほど、ゲームの造形に詳しく、ゲームエンジニアとしての技能は特化しているのだ。
今回作戦に失敗した原島だが、VRMMO対策課にとって原島幸雄という男はかなりの人材なのである。
そしてもう一人の男、尾上宏樹。
コイツは正直かなりやばい。
国枝とか原島なら、まだ一緒に仕事してるのを受け入れられるが……尾上は俺らの比じゃないぐらいやばい。
「そういや尾上。お前顔隠さなくていいのかよ?。普通に外で歩いてるけど」
「んー、いいんじゃないかな。僕のこと何て覚えてる人いないと思うよ。ほら、外見てみなよ。真面目に働いてるおじさんばっかり。僕とは関係無い人たちしかいないから大丈夫」
国枝が尾上に顔を隠した方がいいと指摘すると、尾上は自分の顔なんて知られてないと言いやがる。
「いや、俺もそれは思った。一緒に来る時チラチラ見られてたぞ」
「え、そう?。僕って真面目なおじさんにも有名だったりする?」
原島も尾上が顔を隠さずに外を歩いたことに対して注意をする。
しかし尾上はそれに対して必要それ?と言い出した。
俺も思う、顔隠せ!って。
外を歩く真面目に仕事してるおじさんなら大丈夫と言っているが逆逆。
その真面目なおじさんたちだからこそ、尾上の顔を見て覚えている可能性が高いのだ。
「有名だろ。だってお前、犯罪者じゃん」
国枝はストレートに尾上を犯罪者呼ばわりする。それに対して尾上は「君たちもじゃん!」とツッコんで来るが、正直一緒の
尾上宏樹、別名はゴッドオノウエ。
ゲームのキャラクターに付けそうな名前をしているが、そうでは無い。
ゴッドオノウエ、この名前は宗教団体『ヤングジェネシス』の教祖と同じ名前である。
つまりゴッドオノウエである尾上宏樹は宗教団体のトップなのである。
そしてこの宗教団体の理念がかなりやばいのだ。
昔俺はコイツの演説を動画で見たことがあるが、その時のコイツの発言は相当ニュースなどで話題になったのだ。
今の若者が高い地位に行けないのは才能が無いからではなく、才能が劣っている大人達が上でふんぞり返っているからである。
そんないらない大人をそのままにしていいのか?。
ただ自分の立場を守ることしか能の無い大人なんて社会に必要無い。
今の社会を作り変えるのは君たちだ!。
立ち上がれ若者たちよ。
この発言をする尾上の動画が流れたのは今から5年前。当時の俺は同い年である尾上を見て、馬鹿なことを言い出す奴が出てきたなと思っていた。
しかしその馬鹿な発言が大事件に変わっていくのだった。
大人たちの粛清。
尾上の言葉に感化された若者が社会を大きく揺るがしたのだ。
各地でヤングジェネシス教の信者達が暴動を起こし、日本経済は大混乱したのであった。
それを受けて日本政府は尾上宏樹を国家テロリストとし、国は尾上に懸賞金までかけて隈なく捜索したのだ。
そして尾上は4年以上の逃亡を経て、今から2ヶ月ほど前に尾上逮捕のニュースがテレビで流れていたのだ。
尾上のニュースは確かに話題にはなった。しかしVRMMOにのめり込んだ者たちの中には未だにそのニュースを知らない者もいるらしいのだ。
「ニュース見てるのってVRMMOやってない真面目なやつの方だから。顔変わってて最初は俺たちもわかんなかったけど、顔変わった方もニュース出てるんだろ?」
原島の指摘は的を得ているのだった。
今の尾上は整形をしており、5年前の顔とは全くの別人だったのだ。外で見かける指名手配書とも顔が違うから確かにわからないやつもいるかもしれない。実際俺たちも言われるまでわかって無かったし。
しかし今外を歩く真面目な人なら捕まった時の尾上のニュースを見ているだろう。その人たちなら整形後の尾上でも気づくと思う。
「まぁ、それはいいとして」
「「「よくねーよ!!!」」」
テロリストに向かって容赦なくツッコむVRMMO対策課であった。
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