第3話 剣士ビューティーと魔法使いアイラ

 テレビとコクーンを接続した柏木と国枝は、テレビのモニターをつけ、真壁がどんなことをしているのか確かめることにした。


 二人は真壁綺麗が自分で作ったであろうキャラクター『剣士ビューティー』の物語を鑑賞するのであった。




 ◇



「このスライムは俺に任せてくれ!。アイラたんは後ろから援護を頼む!!」


「え〜、怖いわ真壁さん。私戦うとか無理〜」


「俺の名前はビューティーだ!……しょうがないなアイラたんは〜。よし、全部俺が倒してやる!。見ててね、アイラた〜ん」


 剣士ビューティーと魔法使いアイラは1匹のスライムと対峙していた。


 二人で協力して戦おうと提案するビューティーだったがアイラは戦いを拒否。全部やって欲しいと言うアイラの言葉をビューティーは受け入れるのであった。


「行くぞスライムよ。俺の技は龍をも両断する一撃。喰らえ!、『エクスカリバー』!」


 スライムを相手に奥義を繰り出すビューティー。剣は光をまとい、神々しく光始める。エクスカリバーと叫ぶその一撃は確かに凄まじい威力。光り輝くその剣は衝撃波を繰り出し、スライムを地面ごと両断してしまうのだった。


〝なぁ柏木〟


〝なんだよ国枝〟


〝スライムって弱いんじゃなかったっけか?。コイツ今スゲー本気で技叫んでたぞ〟


〝言ってやるな国枝よ。多分あのアイラたんにカッコいいとこを見せたかったんだろう〟


 モニターを見ながら柏木と国枝は会話をする。


 確かスライムは最初の村とかの周りで出てくるザコモンスターのはず。それに向かって「エクスカリバー!」だって。確かに国枝の言う通り、ビューティー本気出し過ぎ。アイラって子にカッコいい自分を見せたかったのだろうか。


 しかしコイツ、初心者とかじゃ無いだろ。やり込んでやがるな?。ゲームあんま知らないけど、最初からエクスカリバーなんてすごい技出せるわけない。

 多分アイラって子にいいとこ見せたいから先にレベルとか上げといて、アイラって子がやり始めた時にカッコよく見せるって策略だろ。


 いい歳して何がビューティーだよコイツ。名前のセンス無いな。綺麗だからビューティーって。


 柏木は画面の中の真壁を見ながら、歳なのに馬鹿やってるなと思ってしまった。


 ビューティーは柏木と国枝に見られているとも知らず、アイラにドヤ顔で近づいて行く。


 ビューティーはアイラに向かって自分はどうだったかと聞く。それに対してアイラはカッコよかったとビューティーを持ち上げる。この言葉で気持ちよくなったのだろうか、ビューティーは次のモンスターを意気揚々と探し出したのだ。


〝俺らも本気出したらカッコいいとか言われるのかな?〟


〝俺らが本気出して喜ぶのは国のお偉いさんだけ〟


〝……ならいいや〟


 カッコいいとか言われるなら頑張るのも悪くないと思う柏木だったが、国枝の一言でやっぱり頑張らなくてもいいやと思ってしまう。


 国のお偉いさんっておじさん、おばさんばっかりだろうし。俺もこのアイラって子に褒められてたい。………でもこのアイラって子は誰なのだろう?。真壁と仲良さそうに話しているけど……ゲーム仲間か?。


 柏木がアイラについて考えていると、ビューティーとアイラは次のモンスターに遭遇していた。


 二人の目の前に現れたのは岩の塊が何個も連なってできた巨大なゴーレムであった。巨大ゴーレムはビューティーの2、3倍はあるだろうか。さっきまでのスライムとは違い、今度のモンスターはかなり強力に見えた。


〝なぁ柏木。コイツ絶対強いだろ。社長勝てるかな?〟


〝…………〟


〝えっ?、そんな集中して見るもん?〟


 横で国枝が何か言っているのは分かっていたが……この展開、結構面白そうなんだよな。


 国枝の言葉を聞き流し、柏木はビューティーがどう戦うか、そしてアイラはどうするのかを集中して見物することにした。


 ビューティーとアイラの前に立ち塞がる岩の化身、ゴーレム。ゴーレムは雄叫びを上げて二人に襲い掛かるのであった。


「アイラたんは距離を取って。まだアイラたんじゃこのモンスターは無理だ。クソ、レアモンスターに出くわすなんて。俺は大丈夫だから離れて!……ぐぅぅ」


 襲いかかるゴーレムが振り下ろす右手の一撃は、画面越しに見ていた柏木達にも伝わるほどの威力であった。


 その一撃を受け止めたビューティーだが、地面はひび割れ、ビューティーの体はどんどん沈んでいく。

 そしてビューティーは片膝をついてもなおゴーレムの拳を受け止め続けているのだ。


「………」


 しかしそんな状況になっても微動だにせず、その様子を黙って見つめるアイラ。これには流石の柏木も怒りを表す。


〝何やってんのアイラ!。お前魔法使いだろ!?。ビューティー助けろよ、魔法でバーンと。おい、下見てんなよ!。魔法出してやれよー!!!〟


〝大声出すなよ……お前意外と楽しんでるな〟


 真壁の会社に忍び込んでいることなど忘れ、柏木は剣士ビューティーを精一杯応援し始める。


〝こんだけ騒いでも真壁は気づかないんだ。……やっぱVRMMO、恐ろしいな〟


 柏木が騒ぐ横で冷静に見ていた国枝は、どれだけ音を立ててもゲーム中は現実世界とリンクしてないことを再度確認し、VRMMOとは恐ろしいゲームだとコクーンを見つめながら思うのであった。


〝あ、やばいぞ、ビューティー!〟


 柏木の叫びでピンチを知る国枝はテレビに視線を戻す。


 ゴーレムの攻撃を防ぎ続けるビューティーだが、とうとう両膝を地面に付けて絶体絶命の大ピンチ。


「ア、アイラ、たん……魔法を」


 ビューティーはアイラの方に顔を向け、アイラに魔法で攻撃して欲しいと頼む。


 そう、今はビューティーが完全にゴーレムを引きつけてくれている。アイラが魔法で攻撃してやれば流石のゴーレムも怯むだろう。行けアイラ、今ならいけるぞ!


 柏木は画面の向こうにいる誰とも知らない魔法使いを全力で応援していた。

 そして柏木の願いが届いたかのように魔法使いアイラは動きを見せるのであった。


 目の前に緑色のパネルの様なものを出現させるアイラ。パネルを操作し始めて何かを考えている様子。


 よし、やっと動いた。技なんてなんでもいい。とにかくビューティーを援護する一撃を出せ、アイラ!


 俺は画面を凝視し、手に汗を握る。

 アイラの行動がこの局面を変えてくれると信じていたのだ。


 しかしアイラから出た言葉は予想外のもの。ビューティー、そして画面の前の柏木と国枝はアイラの発言に度肝を抜かれることになった。


「あ、真壁さ〜ん」


「アイラたん……早く魔法を」


「アフターの時間過ぎちゃったんで〜、私ゲーム辞めますね〜。私明日友達と旅行入ってるんで早く寝ないと」


「え、アイラたん?」


 …………………はい?


 ピンチであるビューティーを目の前にしてゲームを落ちると言い出したアイラ。これはあまりにも予想外の展開。アイラはビューティーに手を振りながら現実世界へと帰って行くのであった。


「アイラたん、待って、アイラたぐふ」


 気が抜けてしまったのか、アイラが消えた途端ビューティーはゴーレムの右拳に押し潰されてしまったのだった。


〝……おい、おいおいおい。嘘だろそりゃねーよアイラ。何アフターって、おい!〟


〝待て柏木。これ社長も現実に帰ってくるぞ。やばい、逃げるぞ〟


 画面にしがみついてアイラに怒りをぶつける柏木を国枝は引き剥がして、そのコクーンのある社長室から脱出させる。


 国の業務とはいえ不法侵入はバレたら厄介。国が知らんぷりすれば今度は確実に刑務所だと思う国枝であった。


「クソみたいなバトル見せやがって!。今度また変な戦いするだけだったら許さなからなーーー」


 社長室を連れ出される柏木。次もここに来るのを前提で、聞こえていないであろう画面の向こうにいるアイラに罵声を浴びせるのであった。

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