02,経緯
時間を少し
「面白いように勝つな、
「いや、貴族は理由にならない。現に、先ほどの相手は子爵の三男坊だった」
アルヴィスは、試合が終わる度に渡される各組の戦歴結果に目を通していた。
「じゃあ、オマエが特別だからか?」
「特別は言い過ぎだが、準備だけなら公爵令嬢も含め、今回の受験者の中で1番だと自負している」
「それって、全ての試合を別々の方法で勝っている事も関係していますか?」
「ああ、今回の試験。自分にとってはとても優しいシステムだ。同じ組内の戦歴を教えてくれる」
そう言って、エヴァの質問に回答するアルヴィスは、手に持っている紙をわざと揺らした。
「その代わり、こっちの戦闘も相手にもろバレしているけどな」
「ヴォルト。バレている事はマイナスな事ばかりではないよ」
「マイナスだろ?だって同じ手を使えないのだから」
「それは余裕があるヤツの
渋々自身の紙を目に通す。すると、その内容の殆どが同じような内容と結果だった。唖然とするヴォルトの顔を見たアルヴィスは、持っていた紙を
「緊張と普段慣れない
「じゃあ、アルヴィス様は何故?」
エヴァが申し訳なさそうに、小さく挙手をする。
「アルで言いと言っているのに――」
「慣れるまで待っていただけると――」
「名前なんてどうでもいい。なら、何故オマエはこんな芸当が出来る?」
話に割り込まれ、
「自分は特殊な能力を持っていてね。特殊と言っても異能の
「それは?」
「相手の考えをトレースする事が出来る」
「考えをトレース?」
トレースの意味を理解出来なかったのか、ヴォルトは首を
「簡単に言えば、ある程度の情報さえ入手出来れば、相手が何を考えているのか、何をしたいのかが分かる」
「その能力と今の話に何の関係が?」
「ヴォルトって馬鹿でしょ?」
「何だと!」
むくれたままのエヴァに、小言を言われ反抗するヴォルト。
「アルヴィス様はこう言いたいの。私や貴方だろうが、イリス様だろうが、試験官だろうが、学園長だろうが――全ての考えを真似る事が出来ると――」
「っ!」
ヴォルトは
「つまり、最初に
「最初に言った通り?」
アルヴィスはエヴァの発言で、ヴォルトに視線を移す。
「き、気にしないでくれ。じゃあ、マイナスでない理由は?」
慌てて別の話題にされ
「それは公爵令嬢に向けたメッセージだ」
「メッセージ?相手は天才だろ?こちらを意識しているとは思えないが?」
「だったら、その天才は小物だった事になる」
アルヴィスの発言で、2名は秘密を告げられた時と同様に、顔面蒼白になり背筋も凍りつく。
「
「「何故ならば?」」
「“油断”こそ、最強の武器だからだ」
◆
第四試合を終えたチームAでは、イリス以外の2名が歓喜していた。
「これで試験に合格だ!」
「流石、イリス様です」
「いいえ、2人の協力あっての事です」
2人と同じく笑うイリスという人物は、会話を終えると、事前に用意された木造の椅子に向かう。しかし、その時には、彼女の表情から笑みは消えていた。
道中、試合で乱れた透き通る銀髪を整える。その髪は肩までの長さの為、然程時間を取られる事はなく、整った事を確認した後、用意された木製の椅子に腰かける。
未だ喜んでいる2人を
(最後の相手になるチームGは、今回も別の方法で勝利している)
イリスはメンバー三名の名前を黙読した。
(最初の試合。私は速攻をかけ、相手の陣地を奇襲し、一番で戦闘を終わらせた――つもりだった。しかし実際は、このチームが
「どうかされましたか、イリス様?顔色が優れていないようですが――」
イリスの表情が険しくなっている事に気付いた二人は、彼女へ歩み寄り話しかける。
「いいえ、何でもないわ。心配してくれてありがとう」
「ならよかったです」
作り笑顔で応対するイリスは、2人に次の試合の準備を頼む。それに対し2人は、元気の良い返事をして、彼女から離れて行った。
(2人は一次試験を上位の成績で突破し、私に
自身は再び戦歴の記載された紙に視線を移す。
(なのに、このチームは最初こそ無謀な攻めだったが、2試合目は私たちと同じ攻め1と守り2。3試合目は、攻め2と守り1と定石な布陣。かと思えば、3試合目は守りを3名にして勝利している。理由は、相手全員が棄権した為、恐らく、チームGの戦略を模倣したと思われるが、それを相手は察し、返り討ちになったから)
イリスの両手に握られた紙は、クシャと音を立てた。
(チーム全体のレベルが高いのか、メンバーの中に“切れ者”がいるのか。どちらにせよ“油断”出来ない)
◆
第五試合を終えたチームG。
再び、インターバルに入った時、雨音がポツポツと降ってきた。
「雨か、更に都合がいい。雨音で足音をかき消してくれる」
「アル、聞いていいか?」
「勿論」
「もう、オマエに反論するつもりは毛頭ない。だが、次の六試合。イリスが油断せずに、全力で向かってきたらどうする?」
「特に問題ない。その為の準備については、さっきの試合中に話した筈だけど」
「いや、ちゃんと聞いていたし、作戦の内容も理解している。しているが――」
「“アレ”では公爵令嬢を止める事は出来ないと?」
ヴォルトは小さく
「確かに、普通ならそう思う」
「だが、これは入学試験であり、彼女の性格を踏まえると問題ない」
「性格?」
「第一試験の時、1人の受験生が倒れた事は覚えているか?」
「ああ、長身で黒髪の女が倒れそうになって、公爵令嬢がそれを助け――ちょっと待てよ、まさか!」
ヴォルトの表情にアルヴィスは、「ククククク」と笑いを堪えていた。
「この短期間で察しが良くなったじゃないか。そう、彼女はこちら側の人間だ」
「彼女はジパ族出身で、言わば異民族。貴族の総意だとは思わないが、上位貴族であればある程、己が一族を
「それが、隙だと?」
エヴァの言葉に拍手するアルヴィス。
「やはり、君たちを調べて正解だったよ」
「おいおい、まさか――」
「いや、君が思ったように、2次試験のメンバーを操作していないよ。ランダムではないと思うが、これは偶然だ」
相手よりも先に、自身の言いたい事を言われ、ヴォルトはその場で
「どうした急に?」
何かを決心した表情で、ヴォルトはアルヴィスに視線を向けた。
「頼む。いや、頼みます。俺をアンタの弟子にして下さい!俺は強くなって将来将軍になりたい!その能力を少しでもいい、俺に教えてくれないか?」
「別にいいよ」
「いや、分かっている。ただじゃ――え?」
「だから、別にいいよ」
「ホントか?」
「なら始めの教えだ」
雨音が増す中、アルヴィスは人差し指を空に向け、高らかに告げた。
「『バレる嘘は、死んでも付くな。嘘を付くなら墓場まで』はい復唱」
「バっ「「バレる嘘は、死んでも付くな。嘘を付くなら墓場まで」」
ヴォルトは戸惑いつつも、アルヴィスの言葉を復唱する。もう一人も一緒に――。
「って、おい!何でエヴァまで――」
「私も教えを
彼女はヴォルトと同様に、
「いいけど、君には条件が一つ」
「何でしょう?」
「自分に対し、敬称と敬語禁止で」
一斉に発せられた3名の笑い声は、一瞬ではあるものの、雨音に勝っていたという――。
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