5-1 アークとの出会い

アークは嘆く。

 「シュガーの親父、どこ行っちまったんだよ……」


 部隊長用の大きな部屋で1人、主人から与えられた太刀を手入れしながら呟く。この太刀は親父から貰った武器であり、お前にはこれが良いと与えられたものだ。


 太刀の名前は【百鬼】

 

 切れ味はもちろんのこと、魔力を込めると、力の増幅・反応速度上昇・生命力上昇と身体強化され、また味方に使用者の1割のステータスを反映、闘争本能を鼓舞し、士気向上するオマケまでついている業物である。


 「こうしてみると、昔を思い出すな」

 アークは昔、鬼人族の族長であった。鬼人族は一番強い奴が族長になり、アークは10歳の頃から長になる戦闘の天才であった。それ以降、自分より強い奴はいなく、その環境に飽きていた20歳の頃にシュガーに出逢ったのだ。


「俺はシュガー、ここで一番強い奴に会いにきた」

「俺がここの族長だ、一番強い」


 アークは一目見た時から勝てないと判断する程に、力量差が開いていることをわかっていた。それでも族長、戦わない訳にはいかない。それと同時に初めて会った強者の存在、高揚感が収まらない。


「俺は俺の組織に加わってくれる人材が欲しい、鬼人族は身体能力に優れていると聞く、お前が負けたら俺の下につけ」

「あぁ? 俺に勝てると思ってんのか、生まれてこの方無敗の俺に、今となってはここら一帯のトップだ」


「それならかなりの人数、俺の下についてくれるという事だな、嬉しい誤算だ」

「減らず口を……さっさとやろうぜ!」


 鬼人族は代表の戦闘時、つまり長が変わる可能性を帯びた闘いの場では、全員で観戦するしきたりがある。


「ボス、さっさと終わらせてくだせぇ」

「そんな冒険者風情のやつ、相手じゃねえよ!」

「うぉぉおお、やっちまえー!」


 代表戦で使用されるサークルに通され戦闘が始まる。


 戦闘は5分も経たずに終わった。


 ただ、戦闘の中身は濃く、剣を交え、魔法を撃ち合い、絶技のスキルが飛び交った。仰向けに倒れるアーク、一瞬の事で理解ができない周りの観衆、沈黙が漂う。


「お前、なかなか強いな。約束通り俺の下についてもらうぞ」

「あぁ、男に二言はねえ、むしろ俺からお願いしたいくらいだ、あんたに惚れたよ、その強さを一生をかけて横で見させてくれ」


 アークはシュガーから回復ポーションをもらい、それを両手でがっちりと受け取る。


「お前らきけぇ! 見ての通り俺は負けた、それも手も足も出ない完敗だ。そして! 鬼人族の規定に従い、シュガーの親父を族長とし、またこれからは親父の傘下に入る! 文句ある奴は出てこい!」


 アークの一声で沈黙が解かれる。


「うぉぉおおお! 新しい族長だぁぁああ!」

「アーク族長が負けるなんて、信じられない!」

「シュガーの親父! 俺達もついていくぜえ!」


 こうしてシュガーはアークと出逢い、数百人の部下まで獲得する事になる。


「そうだ、今の戦闘でお前の大太刀壊しちまったな、代わりといってはなんだがこれを使え、大太刀よりは小ぶりだが、昔俺が使っていたものだ。出逢いの記念の品とでも思ってくれ、剣の質は保証するし、お前にはぴったりだ」


「これは……、すごいな……。大幅な身体能力向上以外に、仲間にまで影響する効果まで付いてるじゃねぇか……」


 その日はアークが初めて負けた日であり、初めて尊敬する人を見つけた忘れられない日になった。

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