6 陰の者

アークとの模擬戦を終えた俺は次の仲間を探しに向かうことにした。


 「それじゃあ、次行くか、テナはどうする?」

 「もちろん、ご同行します!」

 満面の笑みで即答するテナ。


「こう言うのもなんだが、他の仕事もあるだろうから、無理しなくてもいいんだぞ?」

「いえ、現場の確認、各長の様子を伺うことは私の仕事でもありますので……」(建前)

 

「ならいいんだが。それと、次、会いに行くのは”カゲロウ”にしようと思う。この世界の身の回りの情報も集めたいし、諜報が得意なあいつを近くに置いておきたい」

「それがいいと思います。カゲロウなら情報収集で右に出る者はおりませんし」

 元々やりこんで熟知したゲームの世界とはいえ、やっていない時期のアップデートや、環境の変化があるかもしれない。この世界に俺自身が転移した以上、細心の注意を払いたい。

 

 「じゃあアーク、そろそろ行くわ。いつでも戦えるように鍛えておけよ」

 「おう、そのつもりだ! 何かあったらすぐ呼んでくれ! かけつけるぜ!」

 「あぁ、期待している」


 シュガーはアークと別れ、カゲロウに会いに行くため忍の里に向かう。バイクをアイテムインベントリから取り出し、テナと二人でまたがる。この漆黒のバイク”ナイトブレード”はゲーム時代にガチャから入手したもので、加速や最高速、耐久性など、一般に手に入るものより飛びぬけて秀でており、排出率1%の激レアアイテムである。そして、何回か回したら必ず当たるような天井が設けられていなかった為、何人もの諭吉が犠牲になった。良くも悪くも思い入れのあるアイテムである。


「やっぱ、これかっこいいよな、速いし!」

「はい! とても素敵です!」

 

 バイク以外にも騎乗アイテムは複数所持しているのだが、まあテナもこう言ってるし、2人ならこれでいいだろう。バイクのセルを回し、エンジンをスタートさせる。エンジンの心地いい音が鼓動と共に体に伝わる。


「カゲロウ、元気してるかな」

 カゲロウは仕事を淡々とこなす忍びだ。口数こそ少ないが、テナやアークと同じくらいに慕われていた。気がする……。


「私の持っている情報だと、シュガー様が不在の間、忍びたるもの仕える主が居なくなってしまったのが原因か、忍の里に引きこもり音沙汰が途絶えました……」


「おい、大丈夫か、それ……」

 カゲロウ、アークやテナと比べても少し暗かったところあるしな……、まあ俺の不在が原因なんだけど。

 里まではアークの駐在している陸地第1訓練部隊の訓練場から割と近いところにあるため、ナイトブレードだと一瞬で着いた。割と近いとはいえ、数十キロ離れており、馬車だと3、4時間はかかるのだが。

 

 街につき、正門の入り口から少し歩く。忍の里は名前から連想されるような静かな小さい集落ではなく、小規模ではあるが普通の街である。だが、忍びが多く暮らしている街でもあるため、一歩街の中に入ると、いたるところに隠し通路や仕掛けが施されており、街中を歩く人々はいたって普通の人に見える。


 「テナ、カゲロウが居そうなところわかるか?」

 カゲロウのような忍びを探すとなると、かなり骨が折れる。ある程度情報を持つテナに聞いた方が早い。

 

 「あ、はい! シュガー様が街に入った時から、少し後ろにずっと控えてます!」

 「え? まじ?」

 全然気づかなかった……。

 俺が後ろを振り返ると、確かに少し後ろの物陰から、半身でこちらの様子を伺ってる怪しい人物がいる。こえーよ。


「……!」

 (……あ……主!里に入った瞬間、気配で察することはできたが、でも……、なんて声をかければいいのか……。拙者のことを遠ざけてたりはしないだろうか……)



 しばらく目線が交差する時間が続いたが、ずっとこうしておくわけにもいかない。

 「えーっと、……久しいな! カゲロウ! 元気だったか? そこに居ないでこっちこいよ!」

 

「……っ!」

(……主から声をかけていただいた!)

 

 カゲロウに声をかけた瞬間、物陰から様子を伺っていた人物は、その場所から音を置き去りに、一瞬で俺の前に控えた。忍びの低姿勢で前に控える彼は、紺色のマスクをしており、黒髪を一本で後ろに縛っている。表情こそ判別できないものの、目は爛々と輝いており、そこには喜びと興奮が満ちていた。

 

「悪いな、しばらく留守にしていて」

「……っと、とんでもない……!」

(やばい、急に大声出ちゃったし、少し声が裏返っちゃったかも。)

 

「カゲロウ、いきなりで悪いが、しばらく俺を手伝って欲しいんだ。一緒に来れるか?」

「……承知……」

(また拙者を頼ってくれる、感激で泣きそうだ。もう拙者はいらない子かと思ってた……)


「テナ、カゲロウに会えたし、来て早々だが一度帰る。ここからだと最初にいた別荘のログハウスより、ゼクスの街、西側の家に帰ろうと思う、問題ないか?」

「はい! 別荘は街はずれですし、そちらの方がいいと思います! シュガー様の邸宅に勤める執事、メイド達も会いたいはずです!」


「じゃあ決まりだな。カゲロウは俺の陰に入って移動してくれ。」


 (……コクっ)

 カゲロウはシュガーの言葉に頷き、影と消えた。

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