元社畜、戦いに向かう
王城に到着したシンは騎士にディセウムに話したいことがあると伝えると、すぐに中に入れてもらうことができた。
玉座の間に到着して中に入ると、ディセウムの他にガリアとレベッカの姿もあった。
「やぁシン君、よく来てくれたね。」
「シン殿!また会えて良かった。」
ディセウムとレベッカがシンに挨拶しガリアは笑顔で会釈をして迎えてくれた。
「突然お邪魔してすみません。今日はどうしても伝えておくべきことがあって来ました。」
シンの真剣な様子を感じ取ったディセウムは笑顔を切り替えて真面目な顔になった。
「話は聞いている。おそらく私達が危惧していることと関係があるはずだ。聞かせてほしい。」
3人の顔に緊張が走る中、シンはあることを先に済ませなければならなかった。
「話をする前に。…ガリアさん。」
「…?なんだね?シン殿」
キョトンとした顔のガリアにシンは説明する。
「これから本題について話す前にガリアさんに紹介したい人?がいます。ディセウムさんとレベッカさんは面識がありますが、話はその人にしてもらいます。」
シンの言葉にピンときたディセウムとレベッカは少し驚いた様子だった。
「良いのかい、シン君?」
ディセウムの問いにうなずいたシンはその人物を呼んだ。
「ルリ、頼むよ。」
シンの呼びかけに応えて、ルリは姿を現した。
ルリの登場にガリアは目を見開いて驚いた。
「これは…!?」
「紹介します。この狼はルリといいます。僕の旅の相棒でこの国では…」
「守護神様…」
すぐにルリの正体に気付いたガリアは納得したように言った。
「シン殿と初めて会った際に感じた殺気。あれは貴方のものだったのですね守護神様。」
シンがガリアに斬りかかられたあの時にルリが放った殺気をガリアは感じ取っていた。そして今初めて見たルリがその殺気の正体だと見抜いたのだ。やはりガリアの実力は凄まじいとシンは改めて思った。
「その通りじゃ小僧。貴様は我が見てきた人族の中でもマシな方のようじゃな。」
「ありがとうございます。身に余る光栄です。」
ルリの評価にガリアは嬉しそうな様子だった。
「それにしてもよくルリが王国の守護神だと分かりましたね。」
シンの言葉にガリアは答えた。
「すぐに分かったよ。白銀の毛並みと青い瞳、私が震えるほどの存在感。何度も陛下から聞かされた伝承に出てくる守護神様の情報と一致していたからね。」
ルリの紹介も済んだところで、シンは早速ルリに今回の魔物の問題と魔族に関する情報について話してもらった。
「…と、言うわけじゃな。」
「…なるほど。まさか本当に魔族が関わっているとは…」
ルリの話を聞き終えた一同は事態の大きさに黙り込んでしまった。
「陛下!我々も冒険者ギルドと同様に魔物を討伐して調査を進めるべきです!」
レベッカの進言にディセウムが答える。
「もちろんそれも大事なことだが、魔族が本当に関わっているならば私達は別の角度から調べるのも良いのかもしれない。」
「別の角度?」
ディセウムは自身の考えを口にする。
「我々が聖域で襲われたあの緑竜。あれもおそらく今回のアングリーベアと同様の個体だろう。それが生息域から離れたあの場所に出現した。もしこれが偶然の遭遇ではないのだとしたら…」
「まさか!?魔族がわざとあの場所に緑竜を差し向けて来たというのですか?」
レベッカが驚く中、ディセウムはさらに続けた。
「分からん。あくまで可能性の話だ。しかし、もし本当だとすれば敵は私達があの日にあの場所を通ることを把握していたことになる。つまり魔族は…既に王都に潜んでいる可能性がある…!」
確かにディセウムの話は想像の域を出ない。しかし辻褄も合っている。シンも自分の中で一連の出来事を整理していると一つの仮説が思い浮かんだ。
「あの、実は今回のアングリーベアを討伐したのは僕なんですが…さっきのディセウムさんの話に合わせて考えてみると、もしかしたら僕が奴に出くわしたのも偶然じゃないような気がして…」
「つまり魔族は君が緑竜を倒すのを目撃していて、冒険者として街を出た君にわざとアングリーベアをけしかけたと考えているんだね?」
ディセウムの問いかけに首肯して答えた。
「するとシン殿は陛下の殺害を阻止したために魔族に狙われたということに…」
シンの仮説もあくまで想像だ。決定的な証拠があるわけではない。しかし、魔族というこれまで遭遇してこなかった存在に皆一様に不安を煽られているのは間違いなかった。
「とにかく手がかりがない以上、陛下の仰る通り我々は冒険者ギルドとは違う手段で調べるべきだ。」
ガリアはディセウムの提案に賛同した。レベッカも頷いた。
「では騎士団は王都内の巡回の強化、ガリアは城内で不穏な動きをしている者がいないか警戒に当たってくれ。私も目を光らせておこう。」
「「御意。」」
とりあえずの方針が固まったところで各々が動こうとした時、玉座の間の扉が開かれた。
「ご報告致します!たった今王都北側に多数の魔物の姿が確認されました!」
「何だと!?」
急な報せに動揺する一同に騎士は続けて報告する。
「群れの中にはオークやゴブリンなどの王国に分布していない魔物も複数目撃されており、真っ直ぐ王都に向けて進行中とのこと。このままの速度ではあと半日程で王都北門に到着する見込みであります。」
「オークにゴブリン!?魔族領に棲む魔物ではないか!それに王都に向かっているとなると偶然やってきたとは考えられん。明らかに意図的な行動だ。」
これから魔族について調査を始めるところに急な敵襲。完全に敵はシン達の先を行っている。
「とにかく迎撃だ!騎士団は王都北門に集結。冒険者ギルドにも救援要請を出すのだ!」
しかし、魔族の目的が分からない。王家を殺すこと?王都を陥落させて国を滅ぼすつもりなのか?
「陛下。魔族の具体的な目的が分からない以上、全戦力を向かわせるのは危険だと私は考えます。」
ガリアの考えにディセウムも同意した。
「そうだな。ガリアは王城の守護を頼む。騎士団の一部は王都各門と街中の警戒に当たってくれ。迎撃部隊の指揮はレベッカに任せる。」
「このガリア、何人たりとも陛下に近づけさせませぬ。」
「前回の聖域での失態、此度の成果にて返上させて頂きます。」
シンも冒険者として魔物の迎撃に向かうことを決意した。
「シン君、君の力を疑うわけではないが決して無理をしてはいけないよ。危険を感じたらいつでも撤退してくれて構わない。」
「ご心配ありがとうございます。できる限り頑張ろうと思います。」
レベッカは騎士団に指示を出して部隊の編成をすぐに行った。シンは騎士団と共に王都北門に向かった。
道中にレベッカが話しかけてきた。
「シン殿、前回は貴方に助けられてばかりだった。だが今回は私達が貴方を支えようと思う。万が一の時は私の後ろに来てくれ。全力で貴方を守り、受けた恩に報いよう。」
レベッカの瞳には確固たる意志を感じた。
「わかりました。もしもの時はお願いします。でもレベッカさんが危ない時は遠慮なく僕を頼ってくださいね!必ず守りますから。」
「わ、わかった…///」
シンの言葉を聞いたレベッカの頬がその綺麗な赤髪よりも少しだけ赤くなったことにシンは気付いていなかった。
少しだけ言葉を交わしたのち、シンとレベッカ達は北門へと到着し、魔物の襲来に備えるのだった。
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