元社畜、王都へ行く

「(何とか丸く収まってよかった~)」


流れゆく景色を見ながらシンは安堵していた。


シンの正体とルリの封印が解けたことをディセウム達に説明した後、シンは王家の馬車に乗り込み、王都に向かっていた。


一時は異世界からの使者についてや昨日使った魔法について質問攻めにあったが何とか捌くことができた。


シン自身、異世界からの使者については殆ど知らないため、答えられなかったが、魔法についてはルリに教えてもらっていると答えた。


精霊魔法については話さず、治癒魔法の原理についてもルリの力を借りたからという理由で納得してもらった。本当のことを話せばさらに話が大きくなると思ったからである。


また、シンの素性とルリの存在についてはディセウムが決して国民に口外しないことを約束してくれた。昨日の出来事は全てあの場にいた者達と王家の者の胸の内に秘めてくれるそうである。


ルリの封印についても一切を公表しない事とした。元々あの森には王家以外入ることが許されていないため、一般人にに事実が漏れる心配は極めて低いとのこと。


その他の細かい事はディセウムが何とかしてくれるそうなので、ひとまずシンの心配事は無くなった。


あとは王都に行くだけだと安心したシンは今現在、馬車から見える外の風景をぼーっと眺めているのである。


するとルリが独り言のように話しかけてきた。


「やはり、1000年経つと変化もあるのぉ~」


「どういうこと?」


シンが聞き返す。


「お主が昨日倒した緑竜のことじゃよ。」


「あの緑竜が何か変だったの?」


シンは緑竜を昨日初めて見たため、おかしな点があったのかはわからないがルリには何か気付いたことがあるらしい。


「うむ、我が知る緑竜はもう少し小柄だったはずじゃ」


向かいに座るディセウムの表情がルリの話を聞いて少し曇ったように見えた。


「ディセウムさん、どうかしましたか?顔色が悪いように見えますが。」


心配するシンにディセウムは答える。


「いや大丈夫だよ、ただ先程のルリ様の言葉に少々心当たりがあってね、、」


「実は…」とディセウムが切り出した。


「ここ数か月で記録より大型の魔物が発見されることが何件か報告されていてね。」


特にそれらによる被害が出た訳ではないし、問題視はしていなかったらしいが、昨日シンが倒した緑竜は少し異常だったという。


本来、緑竜は好戦的な種ではなく、外敵から身を守るための防衛手段として攻撃することはあっても、自分から襲ってくることは無いのだという。しかし、昨日の緑竜は馬車を見つけると一目散に突っ込んできたというのである。


王都に戻った際にこの件については各所に報告して調査をするつもりらしい。


「まぁまぁ、暗い話はこれくらいにしよう!王都に着いたら精一杯歓迎させてもらうよ!」


明るい調子を取り戻したディセウムが場を和ませた。


そうですわ!と隣に座るアリシアも同調する。


深く事情を知るわけではないシンもこれ以上考えるのはやめようと、気分を切り替えた。


ルリだけが少し気がかりな様子だったが、程なくしていつもの調子にもどった。


そうして数日間の馬車の旅を終えてようやくシン達一行はイスタリア王国の王都

「ルーパス」に到着した。


ルーパスは街の周囲を塀で囲まれている。これは魔物の侵入を阻むための対策といういかにも異世界らしいといった感じである。街の地面は石畳で舗装され馬車も快適に走ることができる。


街に王都ということもあってか人々の往来も活発で大きな賑わいを見せていた。至る所で露店が開かれ、明るいこえで溢れている。


この世界の生活水準がどのようなものか知らないシンでもこの国は豊かであると直感した。


門を抜けてそのまま王城に向かうと道中の人々が皆笑顔で馬車に手を振っていた。これだけでディセウムは国民から慕われているのだと感じた。


ルリは王都に入る前に姿を消し、部外者であるシンも一応窓から外を覗かないようにした。


王城に到着するとそのまま玉座の間に行くようだ。レベッカだけが足早に城内へと入っていったが、ディセウムやシン達は共に城へと入城した。


玉座の間に着き扉を開けると、扉の先でとても美しい女性が出迎えてくれた。長く伸びた金髪と柔らかい雰囲気を纏った女性。どことなくアリシアに雰囲気が似ている。


「あなたおかえりなさい、アリシアもご苦労様」


口ぶりからして王妃様で間違いないだろう。とても年頃の娘がいるとは思えない程若々しく見えた。


「ただいまエルザ、遅くなってすまなかったな」


「ただいま!お母様!」


二人と挨拶を交わすエルザとシンの目が合う。


シンはとっさに頭を下げて挨拶をした。


「はじめまして王妃様。私はシンと申します。お会いできて光栄です。」


「あら、ご丁寧にどうも、イスタリア王国王妃エルザ=イスタリアと申します。レベッカからお話は伺っているわ、よく来てくださいましたシンさん。」


どうやらここに来るまでにレベッカが事前にシンのことを伝えてくれていたらしい。なんともありがたい。


エルザにだけはシンの素性とルリのことを伝えた。ディセウムとアリシアが知っているのに同じ王族のエルザが知らないのは不公平だと感じたためである。


今この場には王族しかいないため、ルリも姿を現した。


ルリを見たエルザは感動していた。


「まさか、この目で賢狼様を見る日が来ようとは思いもしませんでしたわ。」


しばらくルリに見惚れていたエルザはこほんと咳払いをしてシンに向き直った。


「シンさん。改めましてこの度は夫と娘を救っていただきありがとうございます。感謝してもしきれない思いですわ。」


エルザはシンに深々とお辞儀をした。


この世界にきてから人から感謝される事ばかりのシンだが、まだ慣れない様子だった。


「頭を上げてください!お礼はディセウムさんとアリシアさんから言っていただきましたから!」


「いえ、これは私個人として、家族の命を救っていただいたことへの感謝です、受け取ってください。」


エルザは王妃である前に夫を持つ妻であり、母なんだとをシンは感じた。


「わかりました。ではしっかり受け取らせていただきます。」


そうして挨拶も程ほどにディセウムがシンへの謝礼の話を始めようとしたとき、扉が開いた。

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