第15話 霊術・能力の訓練 下
それからまた二時間ほど、コントロールの訓練。
最初こそ、先ほどのように強烈な光を発生させてしまっていたが、何度も回数を重ねていくにつれて、徐々にコントロールが上手くなっていき、今なんて、
「……」
手のひらに、淡く光る球がいくつか浮いていた。
「……うん。いいね。それくらいがちょうどいい。もう消していいよ」
「ふぅ……やっと慣れてきたよ~」
蓮太郎の言葉を受け、祈は光を消して一息つく。
「そうは言うけど……普通はかなりの年月を使うからね? 本当なら、ここまで早くこんなに精密にコントロールはできないからね?」
「そうなの?」
「そうだよ。俺だって、昔は苦労したからね。それに、本来であればストックの関係上、こんなにポンポンと使えるわけじゃないから。ただ、それでもこうも早く使えるようになるという事を考えると……祈の才覚が強かった、という事なんだろうね。複雑な気持ちだけど」
ははは、と苦笑い交じりに話す蓮太郎。
自身の修業時代を思い出して、複雑な心境なのだ。
「そうね~。私たちは、祈ちゃんには、家業のことをやってほしくなかったわけだし~……」
「しかし、こうも強い力となると、そうも言っていられないのではないか?」
「そうだね。ある種の切り札とも言える。ただ、まだ訓練の段階だからいいけど、これが実践ともなると、てんぱって危ない状況になるかもしれない。……まぁ、祈の場合は下手に力を使っても……そうだね、二級は一撃で浄化できるし、二級未満はほんの一瞬。四級に至っては最悪、近くに行くだけで浄化する可能性すらある。一級は……まだわからないけど、多分すんなり倒せちゃうかもしれないね。というより、十中八九そうなる」
「そうなる姿が目に浮かぶわ~……」
あらあらと困り笑いでそんな姿を想像する。
想像の中では、祈がやっちゃた、みたいな顔で魔物を浄化する様があった。
なんというか、想像しやすいあたり、実際にやりそうではある。
「これで、コントロールは大丈夫だね。そろそろ時間もいいし、今日はこの辺りにして、夕食でも食べに行こうか」
「わ、もうこんなに真っ暗……」
「祈ちゃん集中してたもの、仕方ないわ~」
ずっと能力をコントロールする力を身に着けることに集中していた祈は、蓮太郎に言われてようやく辺りが真っ暗になっていることに気が付いた。
それに、浄化の力自体、使用すると明るくなるという、ライトのような役割を果たしていたのも原因の一つだろう。
祈が出す浄化の力は、出力を絞っても辺りが明るくなるため、暗くなっていると感じにくかったのだ。
「訓練は終わったのか?」
「うん、終わったよ~」
「そうか。では、妾は先に戻るとしよう」
祈の訓練が終わったのを確認してから、エヴァリアは先に帰宅しようとする。
「おや? 何を言っているんだい?」
そんなエヴァリアを、廉太郎が呼び止める。
「何を、じゃと? いや、さすがに久々の一家団欒の時間を邪魔するのは無粋かと思ってな。じゃから、妾に構わず一家団欒を楽しむとよい」
「あらあら。何を言うの?」
「ん?」
「エヴァリアちゃんは、祈ちゃんにプロポーズしたのよね~?」
「え、あ、あぁ、う、うむ。そう、妾自身がしたことを言われると照れるが……」
雪葉の指摘に、エヴァリアはわずかに頬を紅潮させる。
エヴァリアとしても、初のプロポーズだったため、普通に指摘されると気恥しさを覚えるのだ。
「それなら、エヴァリアちゃんも家族みたいなものよね?」
「ん、ん~? いや、それは少々おかしくない……か?」
「おかしくないわ~。むしろ、プロポーズした以上、エヴァリアちゃんは私たちにとっても娘のような存在。だから、エヴァリアちゃんも一緒にね」
「む、娘」
「あら、嫌だった~?」
「……いや、そのようなことはない。むしろ、娘と呼んでもらえたのが少し嬉しくてな」
雪葉の言葉に、エヴァリアは困ったような笑いを浮かべて、そう話す。
エヴァリアの両親が死んでいるが故の、嬉しいような、申し訳ないような、そんな複雑な言葉だった。
当然、三人は魔王になったことを除けば、どういった生活をしてきたのか知らないのだ。
だが、今の言葉には、間違いなく、喜びの感情が混じっていたことを察した三人は、柔らかく笑んだ。
「それなら、一緒に行きましょ。これから、一緒に暮らすのであれば、慣れてもらわないとね~」
「……うむ。そういうことならば」
雪葉の言葉に、今度は困ったような笑みではなく、普通の少女が浮かべるような綻んだ笑みを浮かべた。
「それじゃあ、何が食べたいんだい?」
「む、妾が決めてもよいのか?」
「もちろん。せっかくだし、今日は歓迎会ということにしよう。昨日までの出張が、なかなかに大きい仕事だったからね。臨時の報酬が出たんだ。今日はそれを使って、美味しいものでも、ね?」
「そうなのか。ふむ、そうじゃな……あぁ、そうじゃ、あれが食べてみたいぞ」
蓮太郎の言葉に、エヴァリアは少し考える素振りを見せてから、アレが食べたいと言った。
「なんだい? 好きな物を言っていいからね」
「うむ。えーと、なんだったか……一昨日、祈とこちらの世界の料理について話していたのじゃが、その中に、生の魚介と米を使った料理がある、という話を聞いてな。妾の国では、生の魚介など食す機会がなかった故、少々気になっておったのじゃ」
エヴァリアの説明に、三人は、『あぁ!』と言葉を漏らして納得した。
「エヴァちゃんが食べたいのは、お寿司だね」
「おぉ、それじゃそれ! なんでも、この国の伝統的料理とか」
「ふふ、伝統かどうかはともかく、昔から食べられている、美味しいものということに変わりはないわね~」
「うんうん。じゃあ、今日はお寿司でも食べに行こうか。たしか、この時間なら人は少なかったはず」
「そうね~。じゃあ、二人とも、行きましょうか」
「うん!」
「うむ」
というわけで、一行は寿司を食べに行くことになった。
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