第14話 霊術・能力の訓練 中
まず、能力を使用するには自分の能力の使用条件を満たしているかどうかを確認しなければならない。
しかし、五家の能力はどれも、使用条件を満たしているかどうかを視覚的に確認することができない。
そのため、異戦武家の二代目時代の頃に、視覚的に確認するための道具が創られた。
それが――
「技能視書?」
である。
「あぁ。いいかい? 祈。この技能視書はね? 俺たち異戦武家の人間が、能力の使用条件が達成されているか、そしてどれだけのストックがあるかを確認することができるんだ。他の家が調べると、二つの結果が出て来るけど、俺たち出雲家の場合は両方とも同じ条件だから、結果的に一つ分しかない。とは言っても、幸運の方は効力についてが出るけどね」
「ふむふむ」
「というわけだから、早速使ってみようか」
そう言って、蓮太郎は祈に手の平サイズよりもやや大きめの紙を一枚祈に手渡した。
肌触りとしては、和紙が近く、少しざらざらしているのが特徴だ。
「えっと、どうやって使うの?」
「昔は自分の指を切って、血を滲ませることで使用していたんだけど――」
「切ればいいの? じゃあ……かぷっ」
「今は――って、祈!?」
説明途中だと言うのに、祈は人差し指を自らの歯で噛み切って、出血させた。
指先から出てくる血を、紙に滲ませると、何かが浮かび上がる。
「あれ? どうしたの? お父さん」
「いや、どうしたの? じゃなくて! いきなり自分の指を切るのは怖いからやめてね!? それに、今は自傷行為をしなくても、唾液でも大丈夫なんだよ!」
「あ、そうだったんだ。でも、もう切っちゃった」
「……祈だったら、嫌がるかなと思ったんだけどねぇ……」
「んーと、ぼく一回切られてるから、アレに比べたら~、って思ってて」
あはは~、とにこやかに笑う祈だが、蓮太郎は苦い顔をしていた。
雪葉も雪葉で、少し複雑な顔ではあるものの、なんとなく、
(私の遺伝子、強すぎたかしら……?)
とか思ってる。
そして、エヴァリアの方はと言えば、普通に納得していた。
「あー……まぁ、祈の言い分もわかるな。何せ、聖剣で切られると言うのは、どのような人物であってもかなりの痛みを受けることになる。それこそ、死んだ方がマシと思えるほどにな」
「ちょっ、祈はそんなに危険な攻撃を受けたのかい!?」
改めて知ったとんでもない情報に、動揺を隠しきれない様子でエヴァリアに聞き返していた。
「うむ。まあ、妾がいたからよかったがな。でなければ、最悪魂が消失しておった」
「あ、あらあら……祈ちゃんったら、そんなに危険なことになっていたのね……」
「……これは、本格的に教えないとまずそうだね」
「ん~と?」
両親は何としてでも、霊術と能力を教えようと固く誓った。
「……あ、そうだ。お父さん。紙にこんなのが出てきたよ?」
「おっと、そうだったね。どれ、見せてごらん?」
「うん」
祈から紙を手渡され、そこに書かれていた物を見て、蓮太郎と雪葉は思わずぎょっとした。
紙には祈の能力に関する情報が書かれており、浄化と幸運それぞれの項目があり、その中にも三つほど項目があった。
まずは浄化の力。
一つは、条件を満たしているかどうか。
二つ目は、どれだけ能力を使用できるか。
三つ目は、力の強さについて。
一つ目に対する記載は、可、もしくは、不可、という形で記載される。
祈は当然、今まで能力を使用してこなかったため、『可』と書かれている。
そして次に、能力の使用可能な回数。
これに関しては、強弱により減る量が変わるため一概に言えないが、大体は平均して使用した場合の消費量で算出される。
そんな祈の数値はと言えば……
『壱百萬』
と出た。
「「……(絶句)」」
これには、蓮太郎と雪葉は目をひん剥くレベルで驚いていた。
というか、凄まじい数値であるため、口も半開きである。
祈はよくわからず、こてんと可愛らしく首をかしげている。
次は、力の強さについて。
これに関しては、数字で表されており、一番下が『伍』であり、一番上は『零』となる。
力の強さとは、才能による部分もあるが、能力を使用するに辺り、必要な条件をこなす際、そのこなした条件の質によって変動する場合もあるが、そう言った事例は少ないので、大体は先天的に決まっている。
一応、『零』があるにはあるものの、過去に現れたのは初代くらいのもので、現代までにおいて、『零』はいなかったのだが、祈の強さの項目は、
『零』
と出ていた。
つまり、最高の質というわけである。
余談だが、大雅は『参』。柊華は『弐』。一矢は『参』。紫月は『壱』となっている。
大体は『肆』もしくは『伍』であることが多いのだが、祈たちの世代は優秀だったりする。
さらに余談として、『壱』という数字は、初代を抜きにすると最高レベルと言われている。
つまり……祈はおかしいのである。
さて、次に幸運についてだ。
幸運は特殊な能力であるため、項目は一つしかない。
それが、効果の強さである。
これも、『伍』~『零』までであり、まあ、当然の結果とも言えるかもしれないが……
『零』
祈はこれである。
余談として、蓮太郎の幸運の効果は『肆』である。
蓮太郎の名誉のために言うのだが、幸運の『肆』は、常人と比較するとかなりの幸運である。
どれくらいの幸運か、簡単に言うと、ソシャゲなどで最高レアリティのキャラ、もしくは武器などが出現する確率が1%を大きく下回るというクソほど低い場合に、十連ガチャで三~四ほどほぼ確実に出す程度である。
これが『肆』なのだから、祈の『零』というのは規格外であると言える。
というか、人間が持つレベルの幸運を超越するレベルだ。
「あ、あー……なるほど……まぁ、祈の今までの善行を考えると納得と言うべきか……いや、だとしても能力二つとも、評価が『零』はちょっと……」
「あ、あらあらぁ……祈ちゃん、歴代最高じゃないかしらぁ?」
「む? この『零』とやら、何かおかしいのか?」
「……そうだねぇ。エヴァリアさんは、隕石って、知ってるかな?」
「いんせき? ……あぁ、もしや星喰いのことか?」
「星喰い?」
「うむ。広く高い空の彼方から飛来してくる、巨大な岩石のことじゃな。あれらは我々が棲む星に直撃し、まるで星を喰ったかのような惨状になるため、星喰いと呼ばれておる。おそらく、それのことじゃろ」
聞き馴染みのない単語だったので、廉太郎が『星喰い』についてエヴァに尋ねると、自分の世界における、隕石のことであると話す。
「なるほど、世界によって違うんだね」
「そうみたいじゃな。……して、その星喰いがどうかしたのか?」
「あぁ、そうだった。それで、その星喰い……隕石が仮にこの街に落ちてくるとしよう。そうなると、俺たち異戦武家でも被害を抑えるのは難しい……というか、大きさによっては何もできずに終わってしまう場合があるんだ。そうなってしまうと、時間稼ぎをして逃げるしかないわけだけど……この『幸運』の力が、『零』の評価だった場合、まず隕石が衝突せず、謎の力が働いたかのように軌道が逸れたり、そもそも衝突したとしても、何らかの形で祈は助かる。しかも、祈が失いたくない物や人たちも助かる、という結果でね」
「そ、それはもう、人ではないと思うが……」
蓮太郎の例えに、エヴァリアはそれはもう、戦慄した。
実際、辺り一帯を吹き飛ばしてしまうような隕石が来てら、どうあがいても死は免れない。
しかし、祈レベルの幸運となると、それすらも捻じ曲げて、自分にとってプラスになる方へと変えることができるのだ。
言わば、因果を捻じ曲げているようなものだ。
「……俺と祈の使う能力は二つとも、積んできた善行によって、効力や使用可能回数が変わるわけだけど……そもそも祈は、出雲家始まって以来の超お人好しなんだ。自分で言うのもなんだけど、俺もお人好しだしね」
「ふむ。それは理解しておる。何せ、妾も祈に命を張って救われたからの」
やや引き攣った笑みを浮かべ、その時のことを思い出しながら答える。
エヴァリア的にも、一目惚れしたという事実を抜いたとしても、あの時の祈の行動は異常と思わざるを得ない。
というか、普通にやばい。
いきなり人が殺されるのを見て、一瞬で助けようと決断し、間に入ったのだ。普通に考えてバカか、狂ったヤバい人、という印象しか抱かないことだろう。
「うん。俺でも同じことはしたとは思うけど、それでも祈のようにまったく考えも、躊躇もせずに突貫する、ということはさすがにしないね……」
「祈ちゃん、昔から優しすぎてね~」
「あー……それは妾も理解しておる」
「???」
三人から、妙な視線で見られても、首をかしげるだけで、自分が異常と言われていることなど、つゆほども思っていない様子である。
「えーっと? お父さん、それでぼくは能力を使えるの?」
「あ、あぁ、ごめんね。うん、問題ない。というか、能力が俺よりも強力になると思うよ、これ」
「そうなの?」
「うん。それに、使える回数も俺より多い。だから、きっと大丈夫さ」
「そっか。……じゃあ、どうやって使うのか、教えて!」
いまいち実感がわいていない祈だったが、ともかくみんなと一緒がいい、その気持ちで蓮太郎に改めて教えてほしいと頼む。
「あぁ、いいとも。……さて、それじゃあ早速……お、ちょうどいい。あそこに幽霊がいるのが見えるね?」
「おばけ? ……えーっと、あそこにいる男の人?」
廉太郎が指示した場所には、確かに男性がいた。
よく見れば、頭からは血を流し、体もあざだらけなのか、かなりボロボロだ。
顔も生気がなく、青白い。
どこからどう見ても、死者にしか見えない、そんな男性だ。
「そうそう。あれは多分、事故で亡くなった男性だね。頭から血を流している。あのままだと、いずれ理性を失って、悪霊になる可能性があるね。だから、そうなる前に俺たちの浄化で成仏させなきゃいけない」
「なるほど~。それで、力の使い方は?」
「あぁ。まず……そうだね、身も蓋もないことを言うようだけど、結局のところ、能力を使うと言うのは、人それぞれのやり方があってね」
「え~」
本当に身も蓋もない説明に、祈は珍しく文句を言うかのような声を漏らす。
すごいことを教えてもらえると思っていたら、結局は自分次第、みたいなことを言われれば、そりゃそうなる。
「じゃあ、お父さんはどうしてるの?」
代わりに、とばかりに祈は蓮太郎がどうやって力を使っているのかを尋ねる。
一瞬考えた後、口を開いた。
「そうだね……俺は、なんて言えばいいのかな。丹田――へその下あたりに霊力とは違う力の存在がある、そう言う風に認識して、その力を上へ上へと上げて行って、首の付け根辺りから腕を経て、手から放出する……みたいな感じかな。まあ、俺はこういうイメージだけど、祈はまた別だと思う」
「なるほど~。……んーと……じゃあ、何かコツはあるの?」
「そうだねぇ。とりあえず、疑わないことと……あとは、力の発生する場所をイメージすること」
「発生する場所?」
「うん。俺の場合は丹田だけど、それは俺の発生場所のイメージ。なんとなく、しっくりくるから、という理由だね。でも、祈には祈のイメージというものがある。だから、コツは自分でどこがイメージしやすいか、ということだね」
「なるほど~……じゃあ、やってみる!」
「あぁ、頑張って」
蓮太郎の説明を受けて、胸の前で握りこぶしを作って宣言する祈。
なんとも可愛らしい仕草に、蓮太郎は頬が緩むのを理解しつつ応援の言葉をかけた。
早速とばかりに、祈は自分がどこをイメージするかを考えてみる。
発生場所。
蓮太郎は丹田。祈の祖母(先代は蓮太郎の母方の方)は、頭をイメージしていた。
祈は自分の力を発生させやすい場所をイメージした。
見えない力を引き出すにはどこが最適か。
そう考えた祈は体の色々な場所をイメージしてみる。
(頭……違う。丹田……も違う。じゃあ、足? ……かなり違う……。腕も、手も違うし……う~ん…………あ、そうだ!)
うんうんと頭を悩ませた祈は、びびっと来た場所をイメージすることに。
そこは、胸であった。
正確に言えば、胸の中心部だ。
心臓ではなくそこだと考えたのだ。
そうすると、なんとなく、霊力とは違う、暖かくて、なんだか懐かしいような、それでいて安心するような、そんな感覚が発生した。
それを浄化の力だと信じ、祈はその力を早速手の平に移動させてみる。
すると、
「わっ、ま、まぶしいっ!」
カッ――!
と、突然目を思わず閉じてしまうような、強すぎる光が発生し、祈は思わず目をつむり、蓮太郎と雪葉の両名も眩い光に目を手や腕で覆った。
エヴァリアの方は、瞬時にそれが何かを視ぬき、特に問題なしと断定して何でもないように平然としていた。
その光は徐々に収まっていき、数秒後には何事もなかったかのように、辺りは暗くなっていた。
「今のは……?」
突然強烈な光を発生させたものだから、祈は何が何だかわからず茫然とした。
「お、驚いた……今ので幽霊がきれいさっぱり消えてなくなってるよ。しかも、この辺りにいた幽霊もろとも」
「あ、あらあら……祈ちゃん、本当に強力な力を持っているみたいね~……」
「ん~……ふむ。なるほど……これはまた、すごいな……」
「どうしたんだい? エヴァリアさん」
周囲を探っていたのか、感嘆の声を漏らすエヴァリアに、蓮太郎が尋ねる。
「あー、いや。どうやら、今の祈の力によって、この辺りどころか、その他の場所……つまり、街の方にも影響があったみたいじゃな」
「「へ?」」
「どうも、悪感情を抱いていた者の心も浄化されてしまったらしい」
「「えええぇぇぇぇ?」」
「???」
「これで今初めて使ったと言う辺り、末恐ろしい限りじゃな」
強力過ぎた祈の力が及ぼした影響が、かなり広範囲にもあったとして、両親は驚きを通り越して、もはや呆れた。
エヴァリアも自分すらも危険かもしれない祈の力に、苦笑い気味だ。
「……とりあえず、これはコントロールをしてもらわないと、影響が大きすぎるね」
「えっと……?」
「いいかい、祈」
「あ、うん」
「この力はね、かなり強力なんだ。それこそ、魔物だけじゃなくて、人にも通用する。人は誰しも、善と悪の心を持っているものだからね。だから、悪性が強すぎる人は善性に寄ってしまうわけだけど……使用する浄化の力が強すぎると、悪性が0になったり、最悪の場合は消失してしまう場合があるんだ」
「……じゃあ、死んじゃうの……?」
「うん。今しがた、祈は力を使ったけど、あれだと影響が大きすぎる。いつかきっと、大変なことになってしまうかもしれない」
「……うん」
「だから、今はコントロールの練習をしようか」
「うん、わかった」
話が話なだけに、いつもぽわぽわとしている祈の表情も、かなり真剣なものになっていた。
それを見て、満足そうに頷くと、蓮太郎はコントロールに関しての説明を始めた。
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