第8話 説明とか色々 下

「でも……みんなすごいんだね~。ぼくはあまり派手なイメージはわかないけど、どれも強そうだし、きっと簡単とはいかなくても、すんなりと倒せてそう~」

 休憩を少し挟み、軽く雑談をしていた祈たちだったが、ふと先ほどの説明を思い出し、祈はそんな感想を抱いた。


 そんな祈の感想に、四人は首を横に振る。


「いいか? 祈。オレたちには、そんな特異な能力があって、それらはかなり強力だ。だがな、どれも代償無しには使えねーんだ」

「代償?」

「あー、いや、代償っつったけど、実際は条件だな。オレたちの能力には、それぞれ条件があるんだ。当然、祈にもな。……まあ、お前のは結構特殊すぎるんだが」

「そうなの?」

「……その通り。じゃあ、次は条件について話そうか」

「うん。お願いします」


 ここから、能力の使用条件の説明となる。


 まず、『久遠家』の能力の条件。

 前者は、本人が移動した距離の分だけしか能力を発動できない。

 ここで言う移動とは、車や電車、飛行機、船などのような、機械的な運転によって移動したもののことではなく、徒歩やランニング、そして自転車などのような、自分の体を用いて移動した距離のことを言う。

 車などで移動した距離は全くカウントされず、自分の体で移動した場合にのみ能力が使用可能だ。


 目安として、一キロ歩く、もしくは走るなどをすると、百メートル分の能力が行使可能だ。

 一応、足踏みやランニングマシンなどもカウントされるが、それらの蓄積量は半減する。

 基本的に、動けば動くほど使用可能な距離が増やせるため、大雅の家の者たちは趣味がマラソンなどである。


 後者の条件だが、これは自分が一分間に持ち上げた物の総量で決まる。

 目安として、十キロのものを一分間持ち上げれば、一分間能力が使用可能になり、二十キロ一分間持ち上げれば、蓄積できる効果時間が二分に増える。

 そのため、久遠家の者はなるべく重りを付けて生活している。

 ただし、使用時の重力の強さにより効果時間が短くなる場合もあるので注意。


 続いて、時雨家の能力の条件。

 前者である、水の能力に関しては、一日に摂取した水分量に応じて使用可能な水の量が決まる。

 目安としては、一日に十リットルの水分を摂取すれば、十分間能力が使用可能。

 この条件に適応するため、時雨家は大量に水分を摂取できるという特異体質になっている。


 尚、その日に使用しなかった分は消えることはなく、ストックされて翌日以降にも持ち越しは可能である。


 後者である、時の能力に関しては、無駄な時間を過ごした分だけ蓄積される。

 ここで言う無駄な時間とは、言ってしまえば娯楽などの時間だ。

 つまり、生きる上であまり必要ではないことをした時に消費される時間のことを指し、主にアニメやマンガ、ラノベ、ゲームなどや、昼寝等も含まれる。

 他にも、学校の授業を予習して頭に入れておくことで、その授業の時間を無駄と言う風にすることができ、その分の蓄積もできる。


 ただ、この能力は生物に使用できないとなっているが、使用者本人は例外であり、自分の時間を加速させて高速で動くことが可能になる。

 しかし、その使用方法は自分の時間を進めているだけであるため、その分寿命を減らしてしまう。

 加速率は使用者次第だが、過去に強大な相手を倒すために、一分間で一年の寿命を減らした者も存在している。


 ……が、とある理由で、五家の者たち――というより、とあるものを身に宿している者たちは、それが原因で寿命が延びているので、一年程度であればさほど問題ではない。

 もっとも、自分の命を削ることに変わりはないため、緊急時以外は極力自身には使わないようにしている。


 続いて、弓波家の能力の条件。

 前者は、集中した時間によって使用可能な時間が変わる。

 目安として、一時間集中すれば、一時間弓を生成できるというもの。

 ただ、強力な弓にしようとした場合、その分の時間も使用してしまう。

 この能力のためか、弓波家の者の集中力は異常であり、その分頭の回転が早い。


 後者は、睡眠時間によって変わってくる。

 ここで言う睡眠とは、昼寝などの一時的なものではなく、夜から朝にかけての睡眠のことを指す。

 厳密に言えば、二時間以上の睡眠であり、二時間未満の睡眠はカウントされない。

 もっと言えば、二度寝なども継続としてカウントはされず、一度起きた時点までの睡眠時間がカウントされる。

 目安として、三時間眠れば一時間使用可能。

 基本一分刻みであるため、十時間眠れば七時間である。


 次に、音海家の能力の条件。

 前者は、音楽を聴く時間によって変わる。

 ただし、ここで言う音楽とは、歌詞の付いた物のみであり、吹奏楽やオーケストラ楽曲のようなものはカウントされない。

 一曲の長さ分だけ蓄積されるが、一日に聴いた音楽は二回目以降はカウントされない。

 途中で止めると、無効になる上に、一日一度という部分も適用されてしまうので、割と注意が必要。


 後者の能力は、一日に日に当たっている時間により変わる。

 つまり、日向ぼっこをすればするほど、蓄積されるというわけである。

 目安としては、一時間で大体三十分程度使用可能。

 使用時、強力な光を発生させた場合は、その分の時間を消費するため、配分を考えなければいけない。

 この条件のためか、音海家の者は割と日焼けしているものが多いのだが……紫月は敏感肌なので、実は紫外線などに弱いため、色白。


「――こんな感じだねー」

「ふむふむ……みんなの条件はわかったけど……ぼくの場合ってどうなの? さっき、大雅くんがぼくの家の能力は特殊、って言ってたけど……」

「あぁ、それな。いやさ、今しがた説明を聞いたように、オレたちは基本、二つの能力に対し、それぞれの条件があるだろ?」

「うん」

「だが、出雲家だけは例外でな。両方とも、全く同じ条件なんだ。それに、幸運の能力の方は、かなり特異だからな」

「そうなんだ?」

「あぁ。……ってーわけで、紫月さん、続きどうぞ」

「……了解」


 というわけで、最後に祈の家、出雲家の条件。


 出雲家の能力である、『幸運と浄化』だが、これらの条件は善行を積むこと。

 先に後者の説明がされた。

 後者である、浄化の力だが、これは今までに積んできた善行の規模や、種類のよって蓄積される量が変わる。

 浄化の際、使用する対象に必要な浄化の力の分が引かれるので、結局のところ相手次第であるのと、使用者の才能次第である部分が大きい。


 そして、特異と言われた前者の幸運。

 こちらは、常に幸運体質になるという能力。

 しかも、悪行をしない限り絶対に低下しないし、効果時間も無いという、他の能力にはない部分がある。

 さらにこの能力は、善行を積めば積むほど、それに比例して幸運力が増していく。

 そのためなのか、出雲家は基本的にお人好しな人物しか生まれない。


 尚、善行を積む、と一口に言っても、『掃除やっといてー』とか言われて、掃除を代わりにやることは善行には含まれず、逆にお説教をし、やるように仕向けることは善行になるなど、基本的に相手のため、もしくは誰かのためになることが善行とカウントされる。

 あと、この条件は、出雲家でなければほぼ不可能とされる理由もある。


「――というのが、出雲家の能力の条件」

「はぇ~、じゃあぼくが小学生の時、宝くじで一等を当てたのって」

「はい、祈兄さんの能力が原因ですね」

「なるほど~。だからぼく、あんまり悪いことが起きなかったんだね~」


 過去のことを思い出して、ぽわぽわと笑う祈。

 今しがた、とんでもないことを祈が言っていたが、マジである。


 どういったことがあったかと言えば……それは別の機会に。


「でも、そっか~。ぼくって幸運体質だったんだね~」

「そうね。まあ、色々と制限はあるみたいだけど……その辺りは、おじさんに訊いてね」

「うん、わかったよ~」

「じゃあ、次が最後かしら? 紫月姉さん」

「……はいはい。じゃあ、最後は霊力の話をしよう」


 紫月がする、最後の説明は霊力というものだった。


 霊力とは、異世界とこちらが繋がった際に発生した力の総称のことを指す。

 異世界からこちらの世界に流れ込んできた魔力と、季空市の地下に存在する龍脈というものから流れる、『気』という力が混ざり合ったことで発生した力だ。


 霊力は割と便利な物であり、これらは戦闘時などにかなり使用される。

 基本的に全員が習得する、『身体強化』があり、これは読んで字のごとく、身体能力を向上させることができる。

 防御力はもちろんのこと、攻撃力もアップするなど、かなり重宝される。


 この霊力、実は季空市に長く住んでいる者であれば、割と誰でも持っている力だったりするのだ。

 しかし、大抵は霊力に気付くことなく、生涯を終えるので知っているのは本当に一部だ。


「――こんな感じ。おっけー?」

「うん、オッケーだよ。……じゃあ、ぼくにもその、霊力? が備わってるの?」

「もちろん。なんだったら、私たちの中で二番目に多いわね」

「わ、そうなんだ。ちなみに、一番は?」

「僕です」

「へぇ~、かずくんすごいんだね~」

「……え、えぇ、まぁ」


 祈が微笑みながら、一矢を褒めると、なぜか一矢は頬を赤らめた。

 ……まあ、今の祈はかなりの美少女であるため、それを考えたらある意味当然と言えるのかもしれない。


「本当は、霊力を用いた霊術、っていうものがあるけど……まあ、今は割愛。その内説明してあげるわ」

「うん。……それじゃあ、説明は以上になるのかな?」

「そうね、あとは…………あ、そう言えば魔物について話してなかったわね」

「魔物って、異世界から来る存在のこと?」

「えぇ、そうよ。とりあえず、そうね。簡単に触れましょうか。いい? 魔物って言うのは」


 そう言って、今度は魔物の解説が始まった。

 魔物とは、異世界に存在する、敵意ある魔の存在のことで、魔物以外の存在に襲いかかるという危険な存在である。

 発生原因は異世界のことであるため、不明とされる。


 魔物には、強さに応じて階級分けがされており、下から順に、『第三級』→『第二級』→『第一級』→『特異級』である。

 数字が小さいほど強くなり、特異級は決死の覚悟で挑まなければならないレベル。

 エヴァリアはこれに該当する。


「と言った感じね。一応、第三級に関しては、自衛隊の人たちでも勝てたりするわ。……まあ、一般人でも勝とうと思えば勝てるけど」

「なるほど~」


 簡単な魔物説明を聞いた祈は、勉強になったと頷く。


「一応、大雑把だけど説明は以上。……で、私たちは魔物やそれ以外の存在が現れた際に、対処に当たっているのよ」

「じゃあ、夜の時間とか?」

「おう。実は裏でこの街を護るために戦ってたんだぜ? どうだ? カッコいいだろ?」

「うん! みんなすごいね!」

「……なんだろう、祈にそうやって褒められると、今まで頑張ってよかったって思えるわ~。この笑顔を護りたかった、みたいな」


 祈の純粋な言葉と笑顔に、柊華は拳を握りしめて少し涙を流していた。

 報われた、そんな顔である。


「んゅ?」

「あー……うん、それはわかるわ」


 と、大雅が言えば、他の二人もうんうんと頷いた。


「……あ、それじゃあ、今度からぼくも一緒に参加した方がいいのかな?」

「「「「えっ」」」」


 突然の祈の言葉に、四人が固まった。


「あれれ? ダメなの?」

「い、いや、ダメって言うか……ほ、ほら! 祈はまだ、霊力の扱いも、能力の扱いもわかってないし!?」

「そうそう! 祈はよ、霊力を感じ取るところから始めなきゃだから!」

「そもそも、わざわざ危険に首を突っ込まなくても、僕たちでどうにかなってますから!」

「……大丈夫だぜー」


 祈が参加した方がいいのか尋ねた瞬間、四人はそれはもう焦りに焦り、絶対に参加させまいという強い意志を感じるほど、説得を始めた。

 とはいえ、四人が言う事はあながち間違いではない。

 そもそも、霊力の扱いがわからなければ、参加は望ましくない。

 使えなければ、あっさり死んでしまうのだ。


 ……が、それはあくまでも、祈を除外した場合の話である。

 そもそも、出雲家の能力である『幸運』の方は、先で軽く説明した通り、自分自身に有利になるようになるというもの。

 つまり、死なないことが有利であるという状況は、どうあがいても幸運が作用するのだ。


 だが、いかに幸運であっても、防げない時は防げないのが現実。

 …………なのだが、四人は知っている。

 祈は、出雲家始まって以来の超お人好しであることを。

 幼い頃から一緒だった五人は、祈のことをよく知っている。行動もだ。


 祈は、気が付けば人助けをしているような人物だ。

 幼少の頃、五人で遊んでいる際、ふと目を離した隙に、横断歩道を渡れなくておろおろとしているお婆さんを見つけ、ちゃんと渡れるように手伝ってあげる、などをしていたこともある。


 他にも、商店街で困っている人がいたら、普通に普段のよしみという事で、自発的に手伝ったり、学園でも不良を見つければしっかり注意して、改心させたりするなど、他にも色々あるのだが……正直、祈の善行に関して挙げようとすると枚挙にいとまがない。


 故に、現在の祈は過去の善行全てが積み重なった、超幸運体質と言える。

 そのため、仮にこの状態で参加したとしても、確実に死なないだろう。


 理由は二つ。


 一つは、単純に幸運すぎるからというもの。


 そして二つ目は――


「ふむ。……ならば、妾が祈を護ろう」


 エヴァリアがいるからだ。


「い、いや、私たちあなたの強さを知らないし……」

「あぁ、そうじゃな。たしかに、おぬしらは妾の強さを知らぬか。ふむ、であれば……過去に一度、こちらに来た魔王はいないか?」


 エヴァリアの強さは、先ほどの出来事である程度把握できるが、それはあくまでも自分たちレベルの話であって、上限は知らない。

 だから、任せられるのかもわからないのに、お願いしますとは言えない。

 あとは、単純に異世界から来た魔王であることが理由でもある。

 なぜそうなのかは、今のエヴァリアの質問でわかる。


「たしかに、過去に魔王が現れた、そういう記録はあります。しかも、当時の五家全員が束になって挑んで、ようやく勝てた、とも記載されていたほどの」

「そうか。ならば、問題あるまい。妾は、それ以上じゃからな」

「ま、マジ?」

「マジじゃ。妾たち魔族はな、魔王至上主義じゃ。そして、魔王は強さによって決まる。ようは、魔王を倒した者が新たな魔王となるのじゃ」

「それが、どういう意味を持つんですか?」

「簡単な話よ。魔王を倒した者が魔王ならば、常に歴代最強という肩書を更新し続けるのと同義。そして、現在の魔王は妾じゃ。つまり、今の魔王である妾が現在の魔族最強と言うわけじゃ」


 そう、今しがた説明したように、魔族は強いことこそが至高と言う考えを持つ。

 この考え方が理由で、魔王は常に魔族最強の者が選ばれるのだ。

 その今の魔王が、エヴァリアだ。


「だけどよ、それが今さっきの、こっちに来た魔王ってのと、どう話が繋がるんだ?」

「あぁ、それはな。その魔王はおそらく、妾が倒した魔王じゃ」

「「「「……は!?」」」」

「?」


 まさかのカミングアウトに、四人は驚愕に目を見開き、祈はわけがわからず首をかしげる。

 そんな様子の五人を全く意に介さず、何杯目かもわからないミルクティーを飲みながら淡々と話す。


「先の能力、そして霊力の起源を聞き、理解した。妾は数百年前、先代の魔王を倒したことがある。理由は、いい方向に魔族の国を向かわせるためであった。そして、肝心の魔王じゃが……妾がとどめを刺そうとした瞬間、奴は転移で逃亡。むろん、妾はそやつが逃げた時のため、魔力でマーキングをしたのじゃが……忽然と世界から消えたのじゃ。死んだものとばかり思っていたが……そうか。こちらの世界にいたのじゃな、あやつは」


 どこか、憎々し気に話すエヴァリアに、祈は疑問符を浮かべる。

 しかし、すぐに先ほどまでの普通の姿に戻ったので、気にしないことにした。


「……しかし、そうか。まさか、妾の不手際でこちらの世界に迷惑をかけていたとは……先代に代わり、謝罪しよう。すまなかった」


 自分が殺し損ねた相手が悪さをしていたと知り、エヴァリアは頭を下げて謝罪した。

 まさか、魔王がいきなり謝罪するとは思わず、四人は面食らい、慌てる。


「あ、謝らないで! それはもう、数百年前の話だし、当時の先祖たちはそれがきっかけで戦い方や、霊力の扱いを見直したんだから! おかげで、私たちも死なない程度に強くなれてるから頭を挙げて!」

「そ、そうか?」

「あぁ。正直、魔王って時点でかなりこう、危険なんじゃねーかとは思ってたが……祈が懐いてる時点で、ほぼほぼ信用してたし、何より頭を下げて謝るってのは、オレたち的には十分だぜ。なぁ?」

「そうですね。僕としても、祈兄さんが信用している時点で問題ないと思います」

「……祈ちゃんがいいなら、わたしも信じるよー」

「えっと、エヴァちゃんを信じてくれるのはいいんだけど、どうしてぼく基準?」

「「「「祈(兄さん)(ちゃん)、善悪の区別正確だし」」」」

「そ、そうかな?」

「「「「うん」」」」

「そっか……」


 異口同音に言われ、祈はそういうものなのかな~、と納得することにした。

 まあ、実際のところ、祈はそう言った部分の勘は鋭いので正しくはある。


「ふふ、祈は好かれているのじゃな」

「まあほら、祈って癒し系だし」

「それは同意じゃ。妾としても、祈は一緒にいるだけで和む。出会ったばかりではあるがな」


 嬉しそうにミルクティーを飲むエヴァリア。

 いきなり褒められたことで、祈は少し顔を赤くしながら頬を掻いていた。


「……と、まあ、そのようなわけじゃ。妾が同行するならば、祈も参加しても問題ないとは思う。もちろん、妾とて完璧ではない。故に、自衛手段を学ばせるのは賛成じゃ。最初は見学、と言う意味でどうじゃ?」

「……そうね。正直、私が切りかかった時とか、まったく敵う気がしなかったし、ありだと思うわ」

「オレもだ。ってか、知られちまった以上、無関係じゃいられねーだろうしな」

「ですね。本来であれば、最初から関わらなければいけないはずでしたし」

「……だねー」

「あ、それなんだけど、どうしてぼく、教えられてなかったの?」


 と、祈がしごくごもっともな質問を四人に投げかけた。

 一瞬、気まずそうにするも、柊華が口を開いた。


「祈って、かなり性格が優しいし、何より…………優しさ勢い余って魔物と仲良くなろうとして、そのまま殺されそうで……」

「そんな理由~?」

「……あとはまあ……癒し系で可愛い祈を戦いに引っ張り出すとか、誰もできなかったのよッ!」

「……え、え~っと?」


 突然の魂の慟哭に、祈は苦笑いを浮かべた。


「昔から、祈はぽわぽわしてて、さらに周囲を癒し、和ませる笑顔を常に浮かべていたのよ! そんな可愛らしい姿を見たら、誰だって戦いに引っ張り出そうとか思わないの! しかもこれ、五家全ての人が思ったことよ!? 当然、おじさんやおばさんもね!」

「ぼく、そんなに大事に思われてるんだ?」

「「「「それはもう、驚くほどに」」」」

「そっか~。なんだか嬉しいね~」


 ややずれたような反応ではあるが、祈的には全然嬉しいようだ。

 もともと男なのに、だ。

 ごく一般的な男子が思う事と言えば、守られるのは嫌だ、とかだろう。もちろん、嬉しい気持ちはあるにはある。

 しかし、祈はまったくそんな気持ちはなかった。

 まあ、祈自身、人との繋がりが最も大事だと思っているので。


「ん~っ……あ、結構話しちゃったね。夜ご飯、みんなも食べていく?」


 話も一区切りというところで、軽く伸びをした後、時計を見ればもうすぐ夕飯時であったので、祈はせっかくだからと、この場にいる者たちに夕飯を食べていかないか提案する。


「もらうわ」

「柊華姉さん、反応速いですね、本当に」

「いや、祈の料理よ? 食べたいに決まってるじゃない」

「ふふ、そう言ってもらえると嬉しいな~。それじゃあ、今日は人数も多いし、お鍋にしよっか。……あ、紫月お姉ちゃんは今日は火曜日だからわかるけど、大雅くんとかずくんはどうする~?」

「あー、じゃあ頼むわ」

「同じく」

「りょうか~い。幸い、昨日の夜買ってきた物がそっくりそのまま残ってたから、買い物に行かなくて済むよ~」


 などと、呑気に言っているが、その理由が自分が死にかけたからであることを特に気にしない辺り、祈のメンタルはおかしいだろう。

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