第7話 説明とか色々 上
「はい、お茶ですよ~。かずくんにはコーヒーで、紫月お姉ちゃんには玄米茶で、エヴァちゃんにはミルクティーね」
それぞれの好みに合わせた飲み物を淹れて、全員が集まるテーブルの上に置く。
なんと言うか、気配りが上手い。
しかも、祈は全員の好みを完璧に把握しているので、なおさらである。
「うむ、礼を言う。……ふぅ、こちらの世界の紅茶は本当に美味じゃな。特に、祈が淹れるものは最高に尽きる」
「ふふふ、褒めてもクッキーしか出ないよ~」
((((クッキーは出るんだ))))
「コーヒーのかずくんもこっちね。お茶組には、こっちの羊羹をどうぞ」
そして、まさかのお茶請けすらも飲み物に合わせるという。
なんと言うか、女子力の塊である。
ちなみに、祈が今出したお茶請けは、両方とも祈の手作りである。
「さて、と。えーっと、それで魔法、だったかな? の、お話を聞きたいな~、って思うんだけど……いいかな?」
自分用のお茶を淹れ、畳に座ったところで早速とばかりに切り込んだ。
それを受けた四人は、一瞬難しそうにするものの、全員で顔を見合わせて国利と頷き、代表として柊華が口を開いた。
「……まず初めに、ね。そこにいるのが、この世界の人じゃない、っていう事は伝えておかなきゃいけないわ。その人は――」
「あ、うん。魔王でしょ? 知ってるよ~」
「異世界の……って、え? 知ってるの?」
エヴァリアの存在について話そうとしたところで、遮るように祈がエヴァリアのことについて簡潔に答えた。
のほほんとしている。
祈のまさかの言葉に、柊華だけでなく、他の面子も驚き顔になる。
「うん。知ってるよ? だって、お昼ご飯を食べた後、エヴァちゃんから聞いたもん」
「え、えぇ? 祈あなた、それを聞いて何も思わなかったの……?」
「んっと……何がかな?」
「ま、マジかー……ぽわぽわしてるとはいつも思ってたけど、魔王って知ってもそんなに驚かないとか……って、え、ちょっと待って? 魔王? ねぇ、今魔王って言った?」
数瞬遅れて、当たってほしくない、そんな様子で魔王と言う部分について聞き返す柊華。
三人も冷や汗だらだらである。
「え? うん。そうだよ? すごいよね~、エヴァちゃんって異世界で魔王をやってるんだって~」
やや焦りを見せている四人とは違い、祈はぽわぽわとした口調で魔王であることを褒めた。
「いやいやいやいや!? え、マジで!? そいつ魔王なの!?」
「うん、そうだよ? それと大雅くん、そいつ、じゃなくて、エヴァちゃんだよ」
「そこじゃなくてだな! 祈お前、そいつが異世界において、魔族を従えている悪の親玉なんだぞ!? オレたちからすりゃ危険な奴だ!」
「親玉? エヴァちゃんが? ……エヴァちゃん。エヴァちゃんって、悪い人たちの王様じゃないって言ってたよね? あれって本当だよね?」
「む? うむ。嘘は吐いてはおらんぞ。……ただ、先代まではその説明で合っておるがな」
「……先代までは、ということは、あなたは違うと?」
祈の質問に答えると、一部の部分を抜き取り、紫月がそう質問する。
「うむ。妾は今、平和な魔族の国を作っておってな。最近では、戦争を仕掛けて略奪なんぞをせんでも、自給自足ができるようになっておる。それに、基本的にはむやみに殺傷することも禁じておるよ」
「へぇ~、すごいんだね、エヴァちゃん!」
「ふふ、祈から褒められると、本当に嬉しいのう」
と、にこやか~に話す二人を見た四人は、信じられない光景に目を疑った。
なぜか、異世界の魔王がのんびりと、一人の少年(今は少女)と話しているからだ。
四人が知る魔王と言えば、『世界を滅ぼしてやろう!』とか言いながら、強力無比な力で暴れまわる、まさに天災のような存在なのだ。
なのだが……目の前に広がる光景は、どう見ても可愛らしい少女たちが、談笑している姿にしか見えない。
「しかし、そうか。こちらではそのような認識か……。祈よ」
「なぁに?」
「妾は怖く悪い存在に見えるか?」
「ん~……全然? むしろ、いい人だと思うよ? ぼくのこと助けてくれたもん。それに、悪い人特有の嫌~な雰囲気もないしね~」
自身が悪い存在に見えているのかが気になったエヴァリアは、内心不安でドキドキしつつも祈に尋ねた。
しかし、そんな不安は杞憂であり、祈はいつものぽわぽわとした笑顔でいい人だと断じた。
「……そうか。おぬしはどうやら、善悪を見抜く力が優れておるようじゃな」
「ふふふ~、こう見えて見る目はあるんだよ~」
「そのようじゃな。それを聞くだけで、妾は嬉しいぞ」
そう言いながら、エヴァリアは祈の頭を優しく撫でる。
「わわっ」
撫でられた方の祈は、驚きの声を上げる。
「っと、すまぬ。嫌だったか?」
「ううん。ちょっとびっくりしちゃっただけ。むしろ、嬉しいかな?」
「そ、そうか。では、別に撫でても……?」
「うん、いいよ~」
柔らかな笑顔で了承すると、エヴァリアは頬を赤らめつつ祈りの頭を撫でた。
「んぅ~、エヴァちゃん撫でるの上手だね~」
「そ、そうか? あまりしたことがない故、少々心配だったが……祈がそう言うのならば、嬉しいぞ」
「ふふ」
二人の間に、花でも咲いているかのような(具体的には白百合とか)、そんな空間が繰り広げられていた。
が、忘れないでほしい。
この場には一応、この二人以外にも人はいる。
「……なんつーか……あれだな。祈の奴、なんかやけに懐いてね?」
「むしろ、あっちが祈に懐いてる、とも言うと思うわ」
「これは、完全に予想外の流れですね……」
「……まあ、祈ちゃんが悪い人じゃないって言ってる以上、あの人は悪くない存在かも」
と、目の前の光景を見てどう反応していいか困るような状況だった。
全員、頭が痛そうにしている。
「あー……んんっ。話、進めていいか?」
「あ、ごめんね。進めていいよ~」
「すまぬな。つい、祈の頭を撫でてしまった」
「……オレ、本当に魔王なのか疑いたくなるわ」
「正真正銘、魔王じゃよ」
「そ、そうか。……んじゃ、改めて。柊華さん、頼むぜ」
「えぇ、任せて。……えー、こほん。それじゃあ、祈が知りたがっていることについて、全部教えるわ」
「うん。お願いします」
ぺこり、と頭を下げる祈。
一つ頷いてから、柊華は語りだした。
「私たちは、
「異戦武家?」
「えぇ。異戦武家というのは……そうね、簡単に言えば異世界からこちらの世界にやってくる魔物や魔族と言った、異世界の危険な存在を倒す役割を持った家のことね」
「なる、ほど?」
こてんと首を傾げ、わかるような、わからないような? といった様子を見せる祈に、柊華は苦笑い交じりに前提としての話を始める。
「あー……まずは季空市のことについて話さないといけなさそうね」
「この街の? 季空市って何かあるの?」
「えぇ、そうよ」
一旦、『異戦武家』のことは後回しにし、柊華は季空市についての説明を始める。
「祈は、この街の噂を知っているかしら?」
「え~っと、たしか……全体的な気候が中途半端で、その理由が実はどこか別の世界と繋がっていて、そこに流れて行ってしまっているから、だっけ?」
「そう。で、その噂なんだけど……実はかなり的を射ているのよ」
「え、そうなの?」
「えぇ。と言うのも――」
祈りの疑問に答えるべく、柊華は季空市についての詳しい説明を始める。
この地は、実は異世界と繋がっている場所である、と。
異世界とはつまり、地球とは全く別の世界であり、その世界にはこの世界と同じく、様々な生物が存在している。
そして、この世界と異世界の大きな違いは、魔力が存在しているかどうか。
向こうには存在するが、こちらには全く存在しないのである。
普通に考えれば、さほど問題が無いよう見えるのだが、後々これが問題になるが、一旦後回しだ。
ともあれ、この異世界だが、繋がる頻度はほぼ不定期。
わかっていることは、こちら側から異世界に行くことは不可能であり、繋がる時間は基本的に夜であること。
ここで言う夜とは、主に十九時~午前三時のことだ。
十九時が最も早いが、その時間に来ることはほぼ稀であり、大体は二十一時以降であることが多く、繋がってしまった場合、魔物や魔族はほぼ確実に出現し、こちらの世界に甚大な被害を及ぼすことになるのだ。
そして、それらの存在をどうにかするのが、
「――私たち、『異戦武家』なの」
ということである。
「はぇ~、そうなんだ~。それで、『異戦武家』? っていうのは、どういうものなの?」
「もちろん、説明するわ。『異戦武家』は――」
次に、柊華は『異戦武家』についての説明を始めた。
『異戦武家』とは、先ほども説明したように、異世界からこちらに出現した危険な存在を討伐するために存在している家のことだ。
この『異戦武家』だが、かなり特殊な出自をしている。
『異戦武家』生まれたきっかけというのは数百年前のとある出来事にある。
それは、『化生の乱』という出来事だ。
この出来事は、当時戦乱の時代だった際、この季空市にて起きた戦いのことである。
かつての季空市は、時空の地という呼ばれ方をしていた。
これは、古い言い伝えによるものが理由で、この地はどこか別の世界と繋がる、奇妙な土地だ、ととある文献に残されていたのだ。
その文献は、当時の時空の地にて存在していた、いくつかの武士の家系に受け継がれ、同時に守られてきた。
その文献が、本当なのかどうかなど判らず、眉唾物だろうと思いながら日々を過ごしていた、そんなある日のことだった。時空の地の空に、突如として黒い穴が発生。
一体何事かと慌てて近くへ出向いてみると、そこから、多くの化生――今で言う魔物などが出現し、時空の地を破壊し始めたのだ。
当然、その地にいた武士の家々は人々を護るために立ち上がり、化生相手の戦が始まる。
化生には様々な者がおり、末端程度の化生であれば、難なく対処することが可能だったが、それ以上に強力な存在が多かったため、武士たちはかなり劣勢に追いやられた。
なんとか人々を護るために、踏ん張ってはいたが、健闘空しく、ある一つの家を除き戦死するという事態に陥ってしまった。
頼みの綱である、旗印とも言うべき者たちの戦死という状況に、人々は絶望し、どうしようもないと諦念に達していたその時だった。
なんと、時空の地を守護していた神が現れ、時空を護ろうとした武士たちを蘇らせ、さらに特別な力を与えたのだ。
それにより、押されていた戦況も与えられた力のおかげで、魔物たちを撃退することに成功。
それからというもの、時空の神から力を得た五つの家は、異世界から発生する魔物や危険な存在と戦う役目を与えられ、それが今日まで続いている。
「――というのが、『異戦武家』の成り立ちね」
「つまり、それがみんなの家なんだね?」
「えぇ、そういうこと」
「へぇ~、みんなそんなにすごい家だったんだね~。幼馴染として、なんだか嬉しいなぁ~」
ぽわぽわ~、とすごい家に生まれたんだ、と四人を褒める祈。
しかし、その四人は苦笑いを浮かべていた。
祈の横でミルクティーを飲むエヴァリアの方も、口元に小さな笑みを作っていた。
「あー、祈?」
「なぁに?」
「祈の家――出雲家も、その武士の家なのよ」
「……え?」
「あなたの家もね、当時の武士の家。つまり、あなたもその末裔なのよ」
「……えぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
これにはさすがの祈も、素っ頓狂な声を上げるほど驚いた。
珍しく大きな声を上げるものだから、他の四人はとても珍しそうな顔をした。
それほど、祈は驚かないし、そもそも大きな声も出さないのである。
「ほ、本当に?」
「本当よ。ちなみに、唯一戦死しなかった家と言うのが、出雲家だったりするわ」
「ほぇ~~……ぼくの家って、そんなにすごいんだ……」
今まで知らなかった出来事に、現実味がないと感じて、リアクションに困る祈。
とりあえず、すごい、とは感じているようだ。
「……まあ、出雲家はわたしたちの中でも、かなり特殊だからね」
「そうなの? 紫月お姉ちゃん」
「……うん。じゃあ、ここからはその辺りについて説明」
「そうね。紫月姉さんの方が、これからする話には向いてるかも。お願い」
「……ん、任された。じゃあ、次は能力と霊力の話をしよー」
「あ、うん。お願いします」
「……えーっとだね、まず能力というものは、全ての家、それぞれにあってね――」
ここからは、柊華ではなく紫月が解説役となる。
紫月が最初に話すのは能力。
ここで言う能力とは、いわば特殊な能力――異世界系作品で言うならば、ユニークスキルのようなもののことだ。
この能力だが、家ごとで能力が違う。
まず、大雅の家『久遠家』。
久遠家の持つ能力は『距離と重力』。
前者は、距離を弄る能力のことで、自身と対象の間に存在する距離を消したり、逆に距離を延ばしたりができる能力。
後者は、文字通り重力を操る能力だ。
触れた物に、強力な重力を与えたり、逆に無重力状態にしたりすることが可能な能力だ。
続いて、柊華の家『時雨家』。
時雨家が持つ能力は『水と時』。
前者は、何もないところから水を生み出し、自由自在に操ることができる能力。大気中の水素や、水蒸気なども操作可能で、言ってしまえばどこででも武器を創り出せる能力でもある。ちなみに、液体だったらなんでもいい。
後者は、時間を操作する能力で、巻き戻すことはできないが、進めることは可能。
次に、一矢の家『弓波家』。
弓波家が持つ能力は『弓と千里眼』。
前者は、手にした物質で弓を創り出す能力で、創り出すのに使用した物質によって威力が変わる。
後者は、遠くを見たり、透視のようなこともしたりすることが可能で、前者の能力と併用することで、かなり厄介な攻撃が可能。
次は、紫月の家『音海家』。
音海の持つ能力は『音と光』。
前者は、音、と言うより言霊に近く、口にした言葉を現実に引き起こすという能力。
後者は、光を操る能力で、某海賊マンガに出てくる光人間のように、武器を創り出すことは不可能だが、閃光手榴弾のように強烈な光を発生させることが可能。他にも応用有り。
そして最後、出雲家は――
「『幸運と浄化』」
である。
この能力は、前者は読んで字のごとく幸運体質になるという能力。
それ以上でもそれ以下でもない。
だが、幸運体質になるという事は、自分に有利になる状況を意図せずして作り出せるという能力であるため、かなり強力だ。
そして、後者の浄化。
これは、悪性のものや魔の物を浄化する力を持ち、人間相手にも有効。
「――という感じ。わかった?」
「うん。なんとなく」
「まぁ、最初はその程度でいいわ。……っと、続けて話したし、少し休憩を挟みましょうか」
「あ、うん。じゃあ、お茶を淹れ直すね~」
祈が全員分の飲み物を再び淹れ直し、一度休憩を挟むことになった。
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