第6話 もろバレ
そうして、昼休み。
一矢は学園を公欠し、一度屋上に来ていた。
今回、一矢が特異級なる存在を探すため、屋上を使用することは学園側に伝えられており、今は一矢以外誰もいない。
「さて……使用時間はとりあえず……三分。なるべく節約しないと、ですね。それじゃあ……【千里眼】」
すぅ――と、瞬時にものすごい集中力を発揮し、一矢は【千里眼】と唱えた。
すると、一矢の眼が淡く光り出す。
淡い光が一矢の眼に灯ると、一気に視界が遠くに飛ぶ。
数キロ先の場所ですら、至近距離で見ているのと変わらないほどに、よく視えている。
「さて……どこにいるか、だけど………………ん? あの人は……」
一矢は【千里眼】という能力で、商店街付近を見ていた。
昨夜、スーパー近くの路地裏でかなりの量の血痕が発見されたことは、ここの学園生に知らされている。
そして、何名かの生徒はそれがあちらのことに繋がりがあると考えている。
一矢もその何名かの生徒であり、スーパー近くの道を視たが、特に何もなかった。
しかし、場所を変えて商店街を視ていると、何やら赤の他人とは思えない、白い髪をした少女が視界に映った。
「……あのような人、この街にはいないはず……ですが、あの雪のような白い髪に、紅の瞳は出雲家の特徴……しかし、出雲家には祈兄さんしか子供がいないはず。では、あの人は一体誰…………――ッ!」
白髪紅眼の少女を観察している時、少女の隣にいる黒髪の少女を見た瞬間、一矢は一気に背筋が凍る感覚に襲われる。
少女が纏っている空気……いや、オーラとでも言うべきそれは、間違いなく人間ではない者が放つ、禍々しい気配そのものだった。
底が見えず、見ている側の精神を揺さぶり、更には根源的な恐怖を叩き込まれる、そんな気さえした。
この世のものとは思えぬ、強大な力を感じ、一矢の体から冷や汗が一気に噴き出す。
明らかに、この世界の存在じゃない。
そして思う。
形容するなら、そう、化け物だ、と。
「まずい……あれは、ダメですね……。しかも、あの隣の人、明らかにあの化け物と一緒に歩いている……殺されてしまうかもしれない……!」
一矢の脳内には、第六感と言うべきものが思いっきり警鐘を鳴らしていた。
それはもう、十六年と言う、まだまだ短い人生しか歩んでいないにもかかわらず、これが人生最大のものであると言わんばかりに。
「急いで、柊華姉さんたちに伝えなければ――!」
一矢は遠目からでも感じる、おぞましい気配に体を震わせながら、柊華たちに連絡を取る。
そこで取り出したのは、一枚のお札のようなものだった。
お札には、幾何学模様が描かれており、ところどころ文字のようなものも書かれていた。
それに、何か不思議な力を込めると、学園内にいる大雅、柊華、紫月の三人と不思議な線のようなもので繋がったような感覚が発生する。
『聞こえますか! 緊急事態です!』
『どうしたかず、そんなに慌てて』
お札の効果か、一矢の頭の中に大雅の声が直接聞こえてきた。
『慌てますよ! 特異級らしき存在を見つけました!』
『何!? どこだ!?』
『季空市商店街、西入口付近の公園です! しかも、白髪紅眼の――』
『白髪紅眼ですって!? すぐに行くわ! 大雅、紫月姉さん、すぐに学園側に言って公欠を! 祈が危ない!』
かなり焦ったような声音で、一方的に柊華が話すと、ぶつり、と柊華との繋がりが途絶えた。
『待ってください、柊華姉さん! ……て、切れてる……』
『おいおい、白髪紅眼って言ったか? それ、祈のことじゃねーだろうな!?』
柊華がいなくなった直後、白髪紅眼と訊いて、大雅が祈ではないかと尋ねる。
それに答えたのは、紫月だ。
『……この街において、白髪紅眼は出雲家しかいない。柊華ちゃんの言う通り、本当に祈ちゃんなの?』
『いえ……それが、どうもその人、女性のようなんですよ』
『それ、祈じゃねーのか!? あいつ、女顔だろ!?』
『あ、いえ、そうではなく……その女性、かなり発育がいいらしく、普通に胸があったんです。しかも、明らかに祈兄さんよりも髪は少し伸びていました』
『はぁ!? じゃあ、何か? 祈にオレたちが知らねー姉か妹がいるってのか!?』
『わかりません……ですが、僕たちも現場に急ぎましょう。もし、本当に祈兄さんの親類なら、危険です』
『だな! オレもすぐ向かう!』
『……わたしも』
そこで、全員との連絡が途絶える。
「まったく、柊華姉さんは突っ走って……まあ、そこがいいところでもあるわけですが……ともあれ。僕も急ぎましょう」
そう呟いて、一矢は屋上を飛び降りた。
しかし、一矢は何の問題もなく着地を決め、そのまま高速で学園から飛び出すと、商店街西入口付近の公園に向かって、走っていた。
一方その頃、化け物と呼ばれた存在と、その化け物と一緒に歩いている女性はと言えば、
「えーっと、ここがクレープ屋さんだよ」
「ほほう、クレープか……うむ、美味そうではないか」
商店街西入口付近の公園に来ていたクレープ屋にて、クレープを注文していた。
一体なぜこうなっているかと言えば……まあ、化け物と一緒に歩いている女性こと、祈が原因である。
先ほど、友人関係からスタートした二人。
女になってしまった以上、今日は学園を休むしかないということで、祈は先ほど学園に休みの連絡を入れた。
いつもと声が違うことを教師に指摘されたものの、風邪です、という一言であっさりと信じてもらえた。
それから、お茶を飲みつつ、祈がこの世界に教えていると、エヴァリアがこの街を見てみたいと言い出し、せっかくだからという事で、デートと相成ったのである。
ちなみに、祈は普通に普段できない、学園を休んでのデートと言う非行にドキドキワクワクしており、エヴァリアの方は好きな相手とデートできるという事に、ドッキドキである。
二人とも、ベクトルは違えどこのデータを楽しんでいた。
「では、いただくか。はむっ……むぐむぐ……おぉ、これはまた素晴らしいのう」
「でしょ? ここのクレープ、美味しいんだ~。ぼく、ここに立ち寄ったらいつも買うの」
「そうなのか。ふむ、このクレープとやら、なかなか素晴らしい……。この、甘い白いクリームもそうじゃが、果物が酸味を与え、さっぱりとしておる。素晴らしい食べ物じゃ」
「ふふ、気に入ってもらえてよかったよ」
美味しそうに食べるエヴァリアを見て、にこにこする祈。
そんな祈を見て、エヴァリアも大人っぽい笑みを浮かべる。
なんとも、素晴らしい光景である。
ちなみに、祈が今着ている服装と言えば、Tシャツに普通のジーンズである。
幸い、制服用のベルトがあったため、今はぶかぶかなズボンをそれで固定している。
……なお、当然女物の下着など所持していないのでノーブラであるため、少々視線がえらいことになっているが、祈は気づいていない。
「それにしても……この街は、不思議な場所じゃな」
「それって、異世界だからっていうこと?」
「いや、そうではない。妾が元いた世界とは違う、不思議な力があるように思えてな。しかもそれは、祈、おぬしからも感じておる」
「ぼく? あはは、ぼくにはエヴァちゃんみたいに、不思議な力とかはないよ~。ごく普通の男の子だった女の子です」
エヴァリアの発言を、祈は冗談だと受け取った。
今しがた、異世界と話したが、あの後、エヴァリアが仮定の上での話として、自身が異世界から来たことを伝えた。
祈としても、魔王であるという言葉を聞いた辺りから、薄々感じてはいたため、さほど驚かれることはなかった。
「妾としては、普通とは思えぬが……まあよい。祈は祈、じゃな」
「うん。ぼくはぼくだよ~。エヴァちゃんのお友達です!」
「ははっ、おぬしが胸を張ると、随分と可愛らしく見えるものじゃな」
「そうかな? えへへ、ありがとう」
「――っ! う、うむ。……祈の笑顔は、心臓に悪いのう」
不意打ちのような可愛らしい笑顔に、エヴァリアは頬を赤らめた。
なんと言うか、随分と百合百合した光景である。
「あ、そうだ。次は散歩しない? この辺りはね、いい散歩道が多いんだよ?」
思い出したように、散歩をしないかと提案をする。
祈の提案を受け、エヴァリアは興味深そうな反応を示した。
「ほう、そうなのか。妾自身、あまり太陽は得意ではないが……祈と一緒ならば問題ないな!」
視線だけ上を向けたが、エヴァリアは視線を戻すと、笑い飛ばすように話す。
「紫外線、弱いの?」
太陽が得意ではない、という発言に、祈は紫外線が苦手なのか、という形で質問をした。
まあ、こちらの世界において、人体に影響を出しやすく、有名なのは紫外線であるためなので、ある意味当然の質問と言える。
「はは、気にするでない。妾の種族的特性じゃ。もっとも、その種族は半分であるため、デメリットも半分じゃ。故に、問題はない」
「へぇ~、そうなんだ。それなら、夏場は日傘が必要だね~」
「なつ?」
「あ、えーっとね、一年で一番暑くなる季節のことだよ~」
「ふむ、そう言う意味か。それならばたしかに、日傘が必要かもしれぬな」
エヴァリアは種族的特性から、太陽を苦手とし、同時に暑い季節も好まない。
ある種族のハーフと言えど、きつい者は相当きつく、下手をしたら塵になることもあるが、エヴァリアは身から溢れる膨大な魔力や、その魔力を使用して自分の身を護っているため、今のように普通に出歩けているのである。
仮に、その力がなくとも別に死ぬことはないが、ある程度の弱体化は入るので、天敵と言っても差し支えない。
「まあともあれ、早速散歩へ行こうではないか」
「うん。じゃあ、行こっか」
「うむ――……っ!」
二人揃ってベンチから立ち上がり、いざ出発と言った瞬間、エヴァリアは祈りを庇うようにして立ちふさがる。
「え、エヴァちゃん……?」
「祈よ、そこを動くでない。……来るぞ」
「来る……?」
明らかに警戒をしているエヴァリアを見て、祈はただただ首をかしげるだけだった。
しかし、次の瞬間、
「祈から離れろッ! クソ野郎ッ!」
ガキイィンッ!
という、金属が強くぶつかるようなけたたましい音が鳴り響くとともに、一人の女性が出現。
その女性は、やたら透明な居合刀を持っており、それをエヴァリアの首元に当てていた。
……いや、よく見ると、透明な刀の刃はエヴァリアに優しくものを摘ままれるような形で止められていた。
女性は一瞬驚愕の表情を浮かべるも、すぐにエヴァリアから距離を取る。
いきなり響いた金属音に、周囲にいた子連れの家族や、ジョギング中の人、それ以外にもクレープ屋の店主の人も、軒並み目の前で起きた突然のことに、驚きざわついた。
「この世界には、魔法を使う者は存在しない、そう思っていたのじゃが……ふむ。半分ほど、修正すべきじゃな、これは」
いきなり切りかかってきたにもかかわらず、冷静に呟くエヴァリア。
そんな姿にいら立ったのか、目の前の女性は元々怒りの表情を浮かべていたのだが、さらに怒気を深めた。
「それに、妾は野郎ではない。一人の女じゃぞ?」
「そんなこと、知ったこっちゃないわ! 貴様、祈を誑かして何をしようとしていた!」
「んむ? 誑かす? 何を言っておるのじゃ? 妾はただ、祈と共にクレープとやらを食べ、これから散歩するつもりだっただけじゃ」
「はんっ! どうせ洗脳でもしたんでしょ。特異級なら、それくらい朝飯前だろうからね」
「特異級、というものはよく知らぬが……のう、祈よ。この者、どうやらおぬしを心配して来たみたいじゃが、知り合いかの?」
「えーっと……あ、うん。知り合いだね~。でも、ぼくの知っている人は、水? でできた刀なんて持っていなかったと思うな~」
「そうか。しかし……切りかかってきたんじゃが」
「ん~、柊華お姉ちゃん、たまに暴走しちゃうの。だから多分、今回もそれかな?」
「ふむ、柊華、と言うのじゃな」
相手――怒り狂った柊華を差し置いて、こちら側の二人は日常会話でもするかのように、ほのぼの~と会話していた。
「祈から離れ――って、は? え? あ、あなた、本当に祈……?」
怒りであまり周囲が見えていなかった柊華だったが、あまりにも普通に会話している二人を見てもう一度飛び出しそうになるが、そこではたと気付く。
切りかかったエヴァリアの真後ろにいる存在が、祈とは似ていたものの、どう見ても祈が持っていなかった物が二つ存在していたことに。
祈が男であることは、幼馴染たちがよく知っている事。
しかし、柊華が切りかかった相手の後ろにいるのは、どう見ても女性。
顔に、男の時の祈の面影があるものの、どう見ても女性だった。
体つきなど、前以上に丸みを帯びている。
故に、思わず尋ねたのだ。
それに対し、祈(女)は、
「うん、ぼくだよ? 色々あって女の子になったんだ~」
と、いつものぽわぽわ~っとした笑みと雰囲気で、質問に答えた。
「う、嘘でしょ!? い、いくら霊力があるからといって、そんな荒唐無稽なことあるわけが……」
「でも、事実だよ?」
「だ、だけど、どこの五家全ての家にも、そんな異常すぎる霊術はないし、能力だって……」
予想だにしていない事態に、柊華は混乱した。
過保護にしていた祈が、なぜか昨日の今日で性別が変わり、女になっていたのだ。
そりゃ混乱もする。
「おーい、柊華さん!」
「柊華姉さん! 一人じゃ危険です!」
「……死ぬよー」
と、ここで大雅たちが参戦。
「あれれ? 大雅くんたちだ。みんな~、学園はどうしたの~?」
今の時間帯、自分はともかくとして、普通に登校しているはずの大雅たちが突然現れ、祈は首をかしげながら、おーいと声をかける。
「……おいおい、マジかよ、本当にいるじゃねーか、特異級」
「いえ、それもそうですが……あの女性、明らかに僕たちを知っているかのような反応ですよ。彼女は一体……?」
「……柊華ちゃん、情報はなにか?」
「……ごめんなさい、私も結構混乱してるけど……とりあえず、向こうのあの娘……本人が言うなら、祈らしいわ」
「「「……は!?」」」
「でしょうね。でも……見てて」
簡潔に、混乱しつつも、向こうの情報を後から来た三人に伝えると、三人は驚きの声を挙げながら、バッ! と祈(女)に顔を向けた。
祈はきょとんとした。
「祈―!」
「あ、うん。なぁに、柊華お姉ちゃん?」
「あなたが本当に祈なら、ここにいる私たちの名前と年齢、在籍している学校、あとクラスも言えるわよね!?」
「うん、言えるよ~?」
「じゃあ、今言って!」
「うん。えーっと、全員翠蒼学園に在籍。久遠大雅くんはぼくと同じ、二年四組。時雨柊華お姉ちゃんは十七歳の三年一組で、生徒会長さん。弓波一矢くんは、十五歳の一年三組。音海紫月お姉ちゃんは、養護教諭さんで、二十二歳、だよね~?」
「あ、合ってるわ……」
「マジかよ……正確に言いやがった」
「これは……まさかとは思いますが……」
「……なるほどー。少し、まずい状況かもしれない、けど……うーん?」
祈の回答に、四人は驚きつつも、やや焦ったような表情をした。
全員思うことは一つ。
祈が何かされた、と。
そして、洗脳か何かを受けている、と。
しかし、紫月だけは目の前の祈(?)と、エヴァリアの距離感と、エヴァリアと祈(?)の様子に、少し違和感を覚えていた。
なんとなく、洗脳じゃないような気もしなくもない、みたいな。
洗脳の割に、少し意識がはっきりしすぎでは? みたいな、そんな感じだ。
「ゆ、許せない……! あの女、私たちの大事な祈に……! 誑かすだけならともかく、呪いに洗脳まで……! 殺す――ッ!」
次第に異常なまでの怒りを体から発しながら、鬼の形相で再びエヴァリアに襲いかかる。
「あ、おい、柊華さん!?」
「一人じゃ危険ですって!」
「……だめ、聞いてない」
後ろの三人は、エヴァリアの危険性を察してか、制止をかけるも、紫月の言う通りまったく意に介さず突っ込んでいく。
「ハァァァッ!」
首を狙ったまったく躊躇いのない一撃が迫る直前、
「ほう……急所を的確に狙った、いい攻撃じゃが……遅いな」
退屈そうに呟くと、エヴァリアはその刀を軽くいなした。
「なっ――あぐっ!?」
自分の渾身の一撃をいなされたと知った柊華は、驚愕の表情を浮かべ、気が付いたら地面に叩きつけられていた。
いきなり背中か落とされたため、背中を通して痛みと衝撃が突き抜ける。
「あっ、くぅっ……」
「まったく、いきなり切りかかるとは、危ないじゃろう。このような往来で」
「貴様、にっ、言われたく、ないっ……!」
エヴァリアの忠告を素直に聞かず、むしろ怒りが募る。
「柊華さん! おい、かず、あいつを弓で――」
「無理です。近くに祈兄さんがいます。それに、足元には柊華姉さんもいるんですよ!? 今の僕では不可能です!」
「……わたしも、少し難しい」
「くそっ……!」
いきなり柊華が倒されたことに、他の三人は苦虫を嚙み潰したような顔をする。
このままでは、と思ったら、
「もぅ、エヴァちゃんも柊華お姉ちゃんも何してるの!」
ふと祈がぷんぷんと怒り出した。
「す、すまぬ、この者がいきなり妾の首を切ろうとしてな……」
なぜか祈が怒ったことに、エヴァリアはややたじろぎつつも、そう答えると、祈は視線を地面に倒れている柊華に向けた。
「……柊華お姉ちゃん、これは一体どういうことなの?」
「だ、だって、そいつを殺さない、と、祈が殺される、から……」
「ぼくが殺される? 何を言ってるの? エヴァちゃんは、ぼくの命を助けてくれた恩人なんだよ? そんなわけないよ!」
柊華の返しに、祈はぷんすかと怒りながら、エヴァのことを話す。
「命、を?」
「そうだよ! まったくもう……エヴァちゃん、大丈夫?」
「あ、うむ。妾は問題ない」
「それならよかったよ……。それで、柊華お姉ちゃんは?」
「え、えぇ、これくらい大丈夫、ちょっと痛い……って、あら? なんか、体が軽い……」
祈に心配されて立ち上がると、自分の体がなぜか軽いことに気付いた。
今まで肩こりが酷かったり、少し腰なども痛めていたりしたのだが、それら一切が消えていたのだ。
「あぁ、おぬし、見たところ、体のいたるところに不調が見られたのでな。軽く治しておいたぞ」
そんな様子の柊華に、エヴァリアはあっけからんと答えた。
「じ、自分が殺されかけていたところに、相手の体の治療……? あんた、頭おかしいんじゃないの?」
「まあ、数百年前はよく言われておったな」
「数百年?」
「おっと。気にするでない、祈よ」
「あ、うん。それで、えっと……柊華お姉ちゃんもそうなんだけど……後ろの三人も何してるの?」
怒り顔を収め、今度は疑問符顔で少し離れた位置にいる三人にそう尋ねた。
と言うのも、そこにいる三人は、一人は鈍い光沢を持った黒い球体を浮かべていたり、一人は石でできた弓を持っていたり、一人は手から炎を出している人がいたりしたからだ。
見た目、どう見ても普通じゃない。
が、三人は冷や汗だらだらである。
「あ、あー、こ、これは、だな……て、手品だよ手品!」
「え、えぇ、そうですよ! 少し練習していまして!」
「……すごいでしょ?」
どうだ! と言わんばかりの表情で、祈の反応を伺う三人。
うーん、と目を閉じて考え込む。
その状況が数秒ほど続き、不意に祈が目を開ける。
そして、
「……うん、すごいね! 本物みたい!」
と、にっこりと疑いが一つたりとも介在していない笑顔で感想を告げた。
それには思わず、三人だけでなく、近くにいた柊華ですらほっと胸をなでおろした。
なんとか隠し通せそうだ、と安堵した四人だったが、その考えは一人の人物によって砕かれる。
「む? 何を言っておる。今のはどう見ても、魔法……いや、魔法ではないか。おそらく、こちらの世界特有の力じゃろう。特に……そうじゃな。祈、武器の娘、黒球を浮かべた小僧に、弓の小僧、そして炎を出す娘は、十中八九普通ではないな。妾も見たことがない」
何らかの力を行使していた四人+祈に対し、不思議な力を持っていると話した。
「えっと、エヴァちゃん、それってどういうことなの?」
「うむ。あれは、魔法に似た力じゃな。もっとも、今しがた妾が口にしたように、普通ではないが」
「へぇ~、じゃあ、みんなは魔法使いなのかな~?」
身内が魔法らしきものを使っていると説明された祈だったが、全然驚いていなかった。
いや、一応これでも驚いているのだが、そもそも祈はかなりぽわぽわ~っとしているため、何かとずれているのだ。
「マジかよ……おいおい、結構ばらされちまったぜ? ってか、あれやっぱ祈だよなぁ……?」
「おそらく、ですが。それに、あのぽわぽわとした反応と、邪気のない癒し系の笑顔は、祈兄さんの特徴ですね」
「……本当に女の子に?」
そんなずれている反応の祈を見て、三人はこそこそと話し合う。
すると、そんな幼馴染たちの様子を見て、祈はある提案をする。
「あ、そうだ。これからみんな、ぼくの家に来る~? 少しだけお話が訊きたいな~、って思って」
「い、いやでも、それは……」
「……だめ?」
「行きましょう今すぐにほらみんなぐずぐずしてないでさっさと行くわよ」
圧倒的変わり身の早さ。
祈に上目遣いにノックアウトである。
「……オレ、たまに柊華さんが手遅れなんじゃ、と思う時があるぜ」
「いえ、あれはあれで柊華姉さんの良いところですよ」
「……かずちゃんは、柊華ちゃんの信者だから、ね」
「信者フィルター、怖いわー」
とまあ、そんなこんなで、全員祈の家に行くことになった。
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