第4話 起きると少女に、リビングに魔王 下

「ごちそうさまでした」


 軽く手を合わせて、祈は皿を片していく。

 そして、台所で急須に茶葉とお湯を入れて緑茶を淹れる。

 少女には紅茶を淹れた。


「どうぞ」

「なんじゃ、紅茶も淹れてくれたのか?」


 ことり、と目の前に紅茶が入ったティーカップを置かれ、少女はそう言いながら祈を見た。


「はい。先ほど、紅茶を飲んでいたので、好きなのかな~、と」

「うむ、好きじゃ。……おぬしが飲むそれはなんじゃ?」

「これは、緑茶です。日本人は結構飲みますね」

「にほんじん?」

「あ、えーっと、この国に住む人たちのことですね。厳密に言えば、この国で生まれ育った人、でしょうか?」


 なるべくわかりやすく説明するよう心掛ける。

 相手が何者かわからない上に、あまり自分の知る常識を知らなさそうだという祈の判断だ。

 そして、それは正しかった。


「なるほど……。日本、とは国のことか」

「はい」

「ふむ……あぁ、そうじゃ。食事、美味であった。空腹だった故、助かった。例を言う」

「そうでしたか、それならよかったです。え~っと……」


 ここでふと、目の前の少女から名前を聞かされていないことを思い出し、何て呼べばいいのか祈が困惑する。

 それを見て、そう言えば名乗っていなかったと理解し、佇まいを直すと自己紹介をする。


「あぁ、そう言えば名前を名乗っておらんかったな。……こほん、妾はエヴァリア・レティヌス、魔王じゃ」

「ぼくは、出雲祈です。よろしくお願いします。え~っと、エヴァリアさん?」

「いや、エヴァでよい。で、おぬしは……あー、いずも? が名前か? 変わった名前じゃが……」

「あ、いえ、祈が名前です。出雲は家名です」

「ほう? なかなかに、面白い読み方じゃな」

「そうですかね?」

「うむ。……それで、祈、と呼んでもよいか?」

「もちろんですよ~。出雲って呼ぶと、ぼくのお父さんとお母さんも含まれちゃいますからね~。今はいませんけど」


 名前呼び自体、祈は家族を除けば、基本幼馴染や叔母などにしか言われないため、少し嬉しそうだ。


「なんじゃ、両親はおらんのか」

「はい。なんでも、出張とかで遠くに行っているんです。今はぼく一人で生活していますね」

「なんと。……であれば、見ず知らずの妾がいることは、警戒すべきではないのか? 祈は初対面の妾から見ても、かなり危機感が薄いように見えるが……」

「ん~、泥棒さんが入ってきたら警戒はしますけど、エヴァちゃんはいい人そうに見えましたからね~」

「……いい人?」

「はい、いい人です」


 ぽわぽわ~っとした笑みを浮かべながら、面と面向かっていい人とエヴァリアに伝えた。

 そんなこと、今まで言われたこともなかったエヴァリアは、思わず目を丸くして訊き返していた。

 聞き違いでもなんでもなく、普通に肯定したため、エヴァリアは思わずふっと笑みを浮かべた。


「……そうか。妾が、いい人、か。くくっ、おぬしは妾が怖くはないのだな」

「エヴァちゃんを、ですか? そうですね~、全く怖いとは思いませんよ? むしろ、優しそうに見えます」

「ふはははっ! そうかそうか。おぬしには、妾がそう見えるのか……ふふっ、おぬしは純粋と見える」

「そうですかね?」

「うむ。正直、妾を見た人間は、大体が怖がって逃げるか、攻撃を仕掛けてくるかでな。おぬしのように、いい人、とか、優しい、と言われたことは一度もなかった」

「むぅ、酷い人もいたものですね」


 エヴァリアの話を聞いて、祈はぷんぷんと少し怒ったような反応を見せた。

 もっとも、普通に可愛く見えてしまうので、これっぽっちも怖くはないのだが。


「まさか、おぬしのような者がおるとはな。……しかし、それは致し方ないことじゃ」

「? どういうことですか?」

「いやなに、妾は先ほども口にした……というか、おぬしが盛大にスルーしたが、こう見えて妾は魔王なのじゃ」

「魔王……えーっと、悪い人の王様っていうことですか?」

「……そうじゃな。妾はそうではないと言いたいが、先代までの魔王は軒並み悪い存在じゃよ」

「ふむふむ。じゃあ、あれですか? 魔法とかって……」

「うむ、使えるぞ。……こんな風にな」


 そう言って、人差し指を立てると、指先にぽっ、とマッチ程度の火を出した。


「わわっ、すごーい! 本当に魔法が使えるんですね!」


 突然魔法と言う、超メジャーなファンタジーを目の当たりにした祈は、目をキラキラと輝かせながら子供のように興奮していた。


「ふふ、こんなものは、初歩中の初歩。基本誰でも使えるようなものじゃ」


 エヴァリアからすれば、新鮮な反応を見せてくれる祈に笑みを浮かべつつ、エヴァリアは火を消した。


「他にも色々使えるが……室内では危険じゃから、無しじゃ」

「あ、そっか。たしかに、危なそうな魔法もありそうですもんね」

「そういうことじゃ。一応、氷塊を出現させて、それを飛ばしたり、巨大な炎の塊を出現させて、投げたりすることも可能じゃ。どれも危険な物じゃが」

「なるほど~。すごいんですね、エヴァちゃんって」

「なんてことはない、妾は魔王じゃからな。……しかし、あれじゃな。おぬし、随分とあっさり信用するのじゃな」


 おそらく、異世界の住人であると思って、あっさり信用する祈に、エヴァリアはそのことで少しびっくりしていた。


 祈が起きてくるまでの間、日本語を習得し、そのまま近くにあった新聞や本を読むなどして、この世界の簡単な情報を手に入れた。

 その結果、この世界には、自分のような存在や、魔法がなさそうであるということがわかった。


 少なくとも、ちゃんと生きている者からの情報ではないため、確実とまでは言えないが、それでもない可能性の方が限りなく高いと判断。

 その判断の元、この世界では魔法等は想像上のものであり、この世界に住む者にとっては信じがたいはずのもの、と考えたのだ。


 だからこそ、エヴァリアは祈があっさりと信用したことに驚いていた。


「そうですね。ぼく、これでも嘘を見抜くのは得意なんですよ。昔から」


 自分の目を指さしながら、いたずらっぽく笑う祈。


「ほほう、そうなのじゃな。直感力が優れておるのかの?」

「多分?」

「そうか。ならば、その直感力は大事にするとよい。きっと役に立つ」

「そうですね~。ぼくも、これでかなり助かっている時もありますからね。大事にしますよ~」

「うむうむ。……さて、話は変わるのじゃが……」


 つい今しがたまで、和やかに話していたエヴァリアの表情が一変し、申し訳なさそうな様子となる。

 いきなり表情や雰囲気が変わったエヴァリアを見て、祈は首を傾げた。


「はい、どうしました?」

「あー、いや、じゃな……おぬし今、女になっておるじゃろう?」

「あ、はい。そうですね。なぜか朝起きたらこうなっていまして……」


 あはは、と苦笑する祈。

 が、そこに困ったような様子は一切ない。


「……すまぬ。実はその姿は、妾の魔法が原因なのじゃ……」

「あ、そうだったんですね~」

「うむ、おぬしの怒りは……って、え? それだけ?」


 ものすごい軽い反応に、エヴァリアは怒られると思っていただけに、その反応は拍子抜けであった。


「え? あ、はい、それだけですね」


 聞き返したエヴァリアに対し、祈はこてんと首を傾げたまま肯定した。


「いや、おぬし、性別が変わったのじゃぞ? 男から女に」

「はい、そうですね?」

「そうですね、て……あー、普通、怒るところだとは思うのじゃが……」


 なぜか、祈ではなく、エヴァリアが困惑していた。

 普通、こういうのは立場が逆である。

 当然、エヴァリアもそう思っている。


「ん~、そうですねぇ……とりあえず、ぼく以外にはしないようにしてくださいね?」

「そこじゃないと思うぞ、妾」

「あれれ~?」

「……じゃが、その心配はいらぬ。その魔法は、一度しか使えぬのじゃ」

「あ、そうなんですね。じゃあ、被害者はぼくだけなんですか?」

「う、うむ……本当に申し訳ない……」

「あ、いいですよ別に」

「な、なぜ?」

「ん~、実はぼく、あの姿にすこ~しだけコンプレックスがあったんですよ。ぼく自身、ちょっぴり女の子のような姿でしたから」


(ちょっぴりか……?)


「ですから、この姿は結果的にコンプレックスを解消することになったな~って思いまして」

「ふ、ふむ?」

「えっとですね――」


 微妙に理解しがたそうなエヴァリアを察して、祈は自分のことを話し始めた。

 祈はごく普通――とは言い難い家に生まれた。

 このことは祈自身まったく知らないことではあるが。


 ……ともかく、祈はそんな家に生まれた一人息子だった。

 しかし、成長していくにつれて、男らしくなっていくと思われた祈だったが、身長以外のほとんどは大体中学生に上がる頃には止まった。

 ようは、顔つきもほとんど変化しなかったし、声なんて喉仏あるの? ってくらいに声が高かった。

 体も華奢のままで、いかにも少女のような外見。

 それ故か、祈は時たまからかわれることがあったのだ。


 例えば、


『やーい、女男~』


 みたいな。


 一般的な感性を持っている人間であれば普通に怒るのだが、祈の場合、


「そうだね~」


 くらいにしか言わなかった。


 マジで怒らなかった。


 尚、そうやってからかわれた人間は、次の日、祈に謝りに来る。ちょっと怯えながら。

 その姿に祈はこてんと首をかしげるも、謝りに来たことに関しては受け入れるべきものだと思っていたため、にこにこしながら謝罪を受け入れつつ、怯える様子を心配して気遣ったりもした。

 その結果、その人間は祈のファン的存在になる。


 ちなみに、どうして怯えながら謝りに来たかと言えば……原因は幼馴染たちである。

 他の四人全員、祈が好きであるため、祈がバカにされるのは許せない事柄なのだ。


 閑話休題。


 とまあ、祈は昔から男に思われることが極端に少なかった。


 特に、中学時代の修学旅行や林間学校など入浴時間などでは、それはもう……他の男子たちをドギマギさせることとなった。

 下を隠したら、本当に女子にしか見えなかったので。

 そんな、一見すると少女にしか見えない外見。

 当然、祈とて全く気にしないなどという事はなかった。


 ……しかし、祈はその辺り特に気にしてもいなかった。

 一応、とりあえず、ほんの少しは、気にしている程度。

 どれくらいかと言えば、普段着ている洋服の腰元あたりにほんのちょっとのほつれがあることを気にするくらいだ。


 本当にその程度だった。


 しかし、たまーにこう考える時があった。


『女の子だったらなぁ~』


 と。


 そう、実は祈、女の子になりたい、そう思っていた時が何度かあったのだ。

 自分がかなり少女に近い姿をしていたことと、どちらかと言えば女子寄りの考え方や趣味趣向をしていたため、そっちに傾いたのだ。


 普通であれば、男らしくなりたい、とか思うのだろうが、祈の場合は、いっそそっちの方が楽しそう、という理由でそのような考えになっているのである。


 そう言った背景もあり、祈が今の姿になっても慌てたり、混乱したりするようなことがなく、むしろやや嬉しそうにしていた、というわけだ。


「――こんな感じです」

「ふむ、なるほどのう。……しかし、それでは男らしくなりたい、の方が自然だったのではないか?」

「ん~、ぼく、どちらかと言えば、女の子になりたかったんですよね。だって、女の子だけが入店できる、スイーツフェアとかもあるんですよ」

「む? しかし、おぬしの場合、あの姿でも十分女子として通用するかと思うのじゃが」

「そうなんですけど、あんまりずるはしたくなくて。男の人だって、そう言うのを見て行ってみたいな、とは思いますけど、ぼくみたいに女の子っぽい男の人は少数だと思うんです。だから、そういう人たちのことを考えると、ずるをしているみたいで嫌だなぁ、って」


 あはは、と頬を掻きながら自分の考えを話す。

 実際、祈は甘いものが好きだ。

 スイーツなど、普通に好物であり、たまに女性限定のスイーツフェアがやっている店を見る度に、女の子だったらな~、と羨ましく思ったりするのだ。


「ふふっ、そうか。おぬしは、本当に面白いのう……」

「そうですか?」

「うむ。……で、まあ、なんじゃ。正直、傍から見ればとんでもないことをしでかしてしまったわけじゃが……」

「そうですね~。でも、ぼくはむしろ感謝しているくらいなので、お気になさらず~。……でも、どうしてこんな姿に? あ、別に怒っているわけじゃないんですけど、そこだけ気になって……」


 今の祈のセリフに嘘はなく、純粋な好奇心から来る質問だった。

 その質問を受け、エヴァリアは一瞬、うっ、と言葉を詰まらせる。


「……かなり、私的な理由なのじゃが……」

「あ、はい、そうなんですね。それで、その理由とは?」

「う、うむ。……実は、な。昨夜、おぬしは死にかけておったのじゃ」

「あ~、じゃあやっぱり夢じゃなかったんですね」

「うむ。妾が殺されそうになっているところに、祈が間に入って妾を助けたのじゃ。その際、相手の男に剣で切られ、おぬしは瀕死の重傷を負った。妾はその後、男を撃退し、おぬしの記憶からこの家を特定、そうしておぬしの部屋まで運んだのじゃ。その際、傷は完璧に治ったのじゃが……傷跡や切られたために発生した不調などが消え無くてな。これからの人生、その傷があれば変に遠慮されたり、気を遣われたり、もしかすると謂れのない悪口を言われるやもしれぬ。そこで、使いどころがあるかどうかわからなかった、代償付きではあるものの、体の不調全てを完璧に治すことができる治癒魔法があったことを思い出したのじゃ」

「へぇ~、そんなにすごい魔法が……」


 エヴァリアの口から説明された魔法の効果を聞いて、祈は感嘆の声を漏らした。

 ちなみにあの魔法は、本当に体の不調を消せる。

 癌があろうが、未知の病気だろうが、なんでもだ。

 そんなとんでもないチート魔法だが、一人に付き一度しか使用できない上に、膨大な魔力を消費しなければならないため、実際に使える者は少ない。

 そして、その代償として、使用した対象の性別が変わってしまうのだ。


「そして、その魔法の代償と言うのが……性別を変えてしまう、というものだったのじゃ」

「なるほど~、そういう理由でぼくが女の子に……」

「……うむ。もちろん、傷跡を消したり、おぬしの体の不調を治したりしたい、という想いはあった、あったんじゃが……」

「じゃが?」


 言いにくそうに、顔を真っ赤に染めるエヴァリア。

 どこかもじもじともしており、そんな様子のエヴァリアを見て、祈は首を捻った。

 そして、意を決して、口を開く。


「……実は、な。祈が妾を助けた際、おぬしに、その……ひ、一目惚れを、して、しまって……な? し、しかし、妾は、その……女が好き、なのじゃ」

「……ふぇ?」

「最初は、おぬしのことを男ではなく、女だと思っておったのじゃ。……しかし、実際はおぬしは男で、妾は酷く狼狽した。こんなにも可愛らしいのに、女ではないのか、と」

「……あ、う、うん」

「そこで、じゃな。おぬしの体の不調と傷跡を消すための魔法が存在し、その代償が性別を入れ替えるものだと思い出して、な。それで、まあ、なんじゃ……使用してしまった、というわけじゃ……」

「…………」


 エヴァリアが説明している際、祈は一目惚れをした、と言う部分で顔を赤く染め、思わず気の抜けた声を漏らした。

 その後、自分が可愛いと言われたことで、さらに赤面。

 説明を終える頃には、いつもにこにことしている祈が、赤面して少しだけ恥ずかしそうにしている姿があった。


「え、え~っと……エヴァちゃんは、その……ぼ、ぼくのことが好き、ということでいいのかな?」

「あ~、うむ…………そう、じゃな」

「な、なるほど~」


 赤い顔で、少し困ったように笑う祈。

 そんな祈の姿を見て、エヴァリアは心の底から可愛いと思った。

 というか、祈の反応やら一挙手一投足が既に愛おしいと思うくらい、祈に対して本気である。

 だからだろう。

 エヴァリアは気持ちを抑えることができなかったのだ。


「あー、それで、じゃな…………わ、妾と、結婚してくれ!」


 なんと、まさかのまさか、祈にプロポーズをしたのだ!


「……ふぇ!?」


 それにはさすがの祈もぽわぽわとした状態を維持できず、素っ頓狂な声を上げた。

 まあ、いきなりプロポーズをされればこうなることだろう。


「いやもう、好きじゃ! 妾を魔王と知って普通に好意的に接してくれたどころか、見ず知らずの妾に食事を用意してくれたり、命を助けてもらったり、そもそもおぬしの可愛さは天使レベル! もう、好き! 大好きじゃ! じゃから、妾と結婚してほしい!」


 顔を真っ赤に、そして勢いのままに全力でのプロポーズである。

 これにより、祈はそれはもう……顔を真っ赤にした。

 が、祈はなるべく冷静に考える。


(う、うわぁ、ここまで本気の告白、初めてされちゃったぁ……。ど、どうしよう。すごく嬉しいんだけど……エヴァちゃんって女の子、だよね? それに、ぼくなんかと一緒になってもって言うのはあるし、第一ぼくのことをよく知らないし、ぼくもエヴァちゃんのことをよく知らない……まずは、お互いを知りたい、よね)


 決して、祈はエヴァリアの本気のプロポーズを受けて、引いた、とかはない。

 そもそも、女が好き、と言う発言に対しても、祈は別段蔑んだりもしない。

 恋愛は自由であり、誰も邪魔してはいけない。

 それが不道徳なものであること以外は。

 祈は自分のことも考えるが、大体は相手のこと、つまりエヴァリアのことも考えて返事を出そうとしている。


 そうして、少し考えて、出した結論は――


「え、え~っと、その……ご、ごめんなさいっ!」


 お断りであった。


「……そ、そう、か。そう、じゃよな……す、すまぬ。初対面でこのようなことを言って……」


 祈のお断りにより、エヴァリアは目に見えてしょんぼりした。

 だが、エヴァリア的には、絶対成就しない、そう思っていた。

 何せ、自分の性別を変えた相手が、自分であるからだ。


 それに、女が好き、と言った部分に関してもお断りの理由の一つになっているだろう、と。

 永く生きて来て、初めての恋であり、同時に初めての失恋。

 それはもう、ダメージがでかい。

 今すぐに棺桶か布団に引きこもりたいくらいには、ダメージがでかい。

 ところが。


「あ、えっと、いきなりの結婚は難しい、っていうだけですよ?」

「……え?」

「ぼくもそうですし、エヴァちゃんもそうです。お互い、よく知らないじゃないですか?」

「う、うむ」

「そんな状態でOKを出しちゃったら、エヴァちゃんに申し訳ないんです。せっかく、ぼくを好きになってくれて、こうしてプロポーズをしてくれたんですから。それでしたら、まずはお互いのことをよく知ってからの方がいいかな、って」

「……で、では、先の言葉は」

「今は、と言う意味ですね。ですので、えっと……まずは、お友達から、ということでどうでしょうか? あ、嫌なら嫌で――」

「いや! そのようなことあるはずがない! 友人からで頼む!」


 祈のセリフに食い気味で反応し、ずいっ! と顔を近づける。

 そんなエヴァリアに、思わず面喰うと、祈はいつもの笑みを浮かべて、


「はい。それじゃあ、改めてよろしくお願いします、エヴァちゃん」


 そう言った。


「うむ! よろしく頼む! あ、友人からであるならば、敬語はいらぬぞ」

「あ、うん。わかりました……じゃなくて、わかったよ、エヴァちゃん」

「うむうむ、それでよい!」


 そんなこんなで、二人の友達以上恋人未満? のような関係が成立した。

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