第25話 世間は狭い

 聖水の売り上げ。一部は、教会にも落ちる。

 それにより、資金が潤沢となり、人々を救う。


 そう、教会には助けを求める者達が、日々やってくる。


 今までは、救えなかった者達。

 それが潤沢な資金と、力によるお話し合い。

 追い込まれた者が、教会の門を叩く。

 その意を汲んで、悪徳な商会へと、共に現れる白き衣を纏う者達。


「この者が借りた金額はこの通り。すでに、金利を含め返済はなっている。証文を返したまえ」

「何を言ってやがる」

 物事を知らないチンピラが吠える。


 教会が提示したのは、法的に許される金利。

 悪徳な者達は、そんなモノを守るわけは無い。


 それも、複利での倍々になった金利が付いている。

 合算では、年利で元本は数倍となっていく。


 そう、被害者は最終的に体を文字通り売っていた。

 臓器売買。

 そんな事がまかり通っていた。


 今までは。


「話が通じぬ様だな」

 脇から、いきなり行政執行官が出てくる。


「違法業態を確認。解体を許可します」

 背後から、警官隊と軍まで飛び込んでくる。


 悪は許さない。


 あっという間に逮捕。

 組織は解体される。


「ちっ。おい手を回せ」

 幹部は、そう伝え部下が走る。

 だが、彼らは追いかける。

 関わる組織をすべて潰していく。

 今までのように、家族や関係者を攫い、脅しをかける。

 その手法が通じない。


 何処に行っても、白装束が存在し、ターゲット自体も銃口を向けられても平然としている。


「何という、非常識な世界になっちまったんだぁ」

 そう、悪の栄える世界は終わってしまった。


 直樹がそれを知れば、鼻の穴を膨らませて、図に乗ったことだろう。


 その頃、本人はモテバブルが、下火になっていた。

「あれは、お金持ちじゃないわね」

「でも羽振りはよさそうよ」

「そうよね。なんだか、ちぐはぐなのよね」

 

 そんな中、救済のお仕事に、やっとまともな相談がやって来た。


「そうです。親からお金を無心されて、私もう一杯一杯で……」

 その女の子は、やつれた顔で教えてくれる。


 直樹も身に覚えのある話。

 支払い能力を超えた無心。


 払うから、契約だけすれば良いし。

 そんな事を言って、金を持って行く親。


 一度も払うことなく、お前の借金だろ。自分でなんとかしろや。

 そんな事を言った、数ヶ月後には、すべて忘れて無心がくる。


 金がないというと勝手に契約し、本人の了承無しに保証人にして、ノンバンクの借入があって保証人にならねえ。どんな生活をしてるんだと怒ってくる。


「そんな親は、縁を切って良いんです」

 弁護士さんに言われて、驚いた記憶。


「先ずは、そこからです」

 縁を切るところ。姉弟も居るようで、そこも手を回す。


「育てて貰った恩を」

 とか、

「面倒を見る義務があるだろう」

 とか言ってくるが、法的にぶった切る。


 勝手に契約された物は、詐欺で訴える。


「やっと、まともな相談だったねえ」

 そしてその救済は、噂となって広がり始める。


 今までは、あそこに近付くと、この世から抹消されると噂が立っていたようだ。


「いや確かに、抹消はしたけれど、あれは仕方が無いよね」

 そう一般的には非現実が、最近身の回りでは現実となって行われていた。


 中に居ると異常さに気が付かない。良くある話だ。



 そして……

「依頼も達成をしたし、お祝いしよう」

 そう言ってで食事に行く。


 そう、小雪が言っていたお店。

 なぜか、予約が二人になっていたから、四人にする。


 皆が、いそいそと用意を始めると、小雪の機嫌が悪くなる。

「まあ良いけどね」

 そんな事を言って。


 そしてその数時間後、小雪はメタモルフォーゼをしていた。


 そう、まるで、おすもうさん。

 かなり美味しかった。

 そのせいか知らないが、注文をして食って、注文をして食ってを繰り返し、動けなくなった。

 まだ食べるというのを、何とか、強引に外へ引っ張り出す。


 どこかがおかしいのかと、治療をするが、変化がない。

 食い過ぎは、病気や怪我に入らないようだ。


「うー。もっと欲しかったのぅ」

 そう言って、だだをこねる小雪。口元のソースが目に付きそっと拭う。


 そんな時、久しぶりに誰かが助けを求める声を聞く。


「あっちかな?」

 小雪達三人に、この場にいるように言って、走っていく。


「何で俺じゃ駄目なんだぁ」

「やだ。束縛がキツいし、DVよ」

「なんだと」

 殴られる前に、女の子の方にシールドを張る。


 それに気が付かず、思いっきり殴ったのだろう。

 男が悲鳴を上げる。


「てめえナニをしやがる」

 まだ懲りずに、蹴りやパンチが女の子を襲う。思わず女の子は頭を抱えてしゃがみ込むが、衝撃は来ない。


「何これ?」

 目の前のシールドに気が付いたようだ。


 そこへやっと、直樹が現れ、電撃を食らわせる。


「大丈夫ですか?」

「はいっ」

 女の子はそう言って向き直り、直樹を上から下までみた後、小さな舌打ちが聞こえる。そしてスタスタと場を離れようとするので、待って貰う。


「今、襲われていましたよね」

「そう。だから早く帰りたいの」

「コイツとの関係は?」

「彼氏だったけど、もういいの。すでに元彼。他人」

「いや、ちょっと警察に連絡をするし、帰らないで待って」

「えーもう…… 面倒だし良いよ」

「きっちりしないと、また襲われる可能性がありますし」

 ぐだぐだ言っている間に、連絡をする。


「あれ? 尾前さん」

 声をかけたのは、瑠璃。

 知り合いだったようだ。

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