第26話 あの警官

 女の子が、瑠璃の知り合いなのは良いが、倒れている男の方は、俺も見知っている。

 俺が、今回は素直に警察へ連絡を入れた理由。


 そう、あの鬱陶しい警官だ。

 往来での暴力行為。

 多分、神崎さんの付けた見張りがその辺りに…… ああ居た。

 手招きをして呼ぶ。


「撮りました?」

「ええ。通信アプリに転送いたします」

「ありがとうございます」

 と言う事で、準備が出来た。


 まあ警察なら、怪我をしていないから、暴行にはならないとか言いそうだけれど。

 その場合、殴ってその場で修復をする、どこかの回復術士の真似でもしようか。


 精神的な傷は負うでしょう。とか言いながら。


「どうしたの? すごく悪い顔をしているわよ?」

 瑠璃に突っ込まれた。

 十六夜ちゃんは、走って死にそうになっている小雪を、介抱しているようだ。


「それで、尾前さんは、どうしてこんな奴と一緒にいるの?」

「えっ。ああ。まあ。コイツが公務員だって言うから付き合ったんだけど、かなり束縛はするし鬱陶しかったのよね。スカートははくな、夜は外に出るな。その割には早く帰るって言うと、俺がいるから大丈夫だなんて言って、エッチしたら夜中にとっとと人を放って帰るし」

「うわあ。やりそう」

 見事に瑠璃の表情は、嫌そうな顔になる。


「知ってんのコイツ」

「鬱陶しい警察官。直樹の話だと、田舎の方に飛ばされたはずだけど」

 そう言うと、何か納得をしたらしい。


「それで最近、いきなり出てこいの、パターンがなくなったんだ。そっかぁ」

 そんな事をしゃべっていると、パトカーがやって来た。


「通報した方は?」

 手を上げると、見知った警官。

 一瞬で、またあんたかという顔になる。


「すみませんね。また私です」

「あっ。ええまあ。今日は?」

 黙って指をさす。


「うん? 葛野。コイツどうしたんですか?」

「その女の子に、殴る蹴るの暴行をしていました」

「なっ。怪我は、無いようですね。コイツ空手と柔道やっていてかなり強いんですよ。どうして、怪我もせずに」

 結構失礼だが、じろじろと尾前さんを見ている。


「ああ。シールドを張ったので」

 そう言った後、説明が面倒かと思ったが、意外なことで一般的常識になっていた。


「あれかあ。飲もうかな」

 おっ。聖水がメジャーになって、話が簡単だ。


「ちなみに、こんな感じです」

 動画を見せる。


「コレいただいても」

「ええ」

「それなら調書も書くので、署の方へお願いします」

 そうして、連れて行かれる。


 瑠璃は付いて行くそうで、十六夜ちゃんと小雪は車を呼んで家に送って貰った。


「最近は、銃を撃っても、包丁で刺しても平気なので、怪我の有無はあんまり重要じゃなくて」

「そうなんですか?」

「ええ、怪我もしていないのにとか言った裁判官が、人の不幸を望んでいるのか。回避できるならするだろ。怪我したり、殺されないと罪に問えないのはおかしいって炎上をしましてね。実際には傷害罪じゃなく暴行罪とかで、意思があれば罪には問えるのですが、罪の重さが違うので、刑法が変わるかもと言っていました」


 そう言いながら、ちょっと苦笑い。


「その実、能力があるつもりでやったら、相手が怪我をしてって言うのもあって」

「ああ、友人を車でひいた奴。動画サイトに上がって、炎上をした奴ですね」

 スピードは出ていなかったが、車でひいた奴は飲んでいなかった。ロシアンルーレットの様に、友人に飲ませて試したが、ちょうど偽物を飲ませたようだ。


「ええ、海外だと、撃ってみたって言うのもあって」

「おかしいなぁ。心が安定して、そんな事をする気も無くなるはずだが。一発目は駄目なのか」

 それとも撃たれたもの以外は、飲んでいなかったのか?


「何ですか?」

「いいえ。何でも無いです」


 まあ、一応証拠を出して、刑事事件となるようだ。

 被害者の、尾前 優奈おまえ ゆうなは瑠璃に、これからもストーカーされるかもしれないから、きっちりしておいた方が良いよと言われて、嘘泣きまでして「怖かったです」と聴取を書いていた。そうそう、調書は警官が書くんだよ。確認して間違いないですかという感じ。


 その後、解放された。


 俺の攻撃は言っていない。

 突然倒れたとだけ言ってある。

 火傷をさせない電撃。

 結構難しいんだ。最近力が増しちゃってね。


 その後、彼女を送っていき、瑠璃とラーメンを食べて帰った。

 ホントは、取り調べの途中で、カツ丼が食べたくなったのだが、某チェーン店がこの辺りに無かったんだよ。


 ――あの、瑠璃がねえ。

 ぱっとしない感じだけど、山上直樹か、お金持ちかなぁ。

 部屋で風呂に浸かりながら、優奈は考える。


 そう、瑠璃は直樹と付き合いだして、随分変わったけれど、少し前まで荒れていた。

 だから、そっち方面の知り合いが多い。

 あの、勘違い野郎、松岡のような。


 家に帰ると、まだ小雪は動けないようで、コロコロしていた。


 そして、暴れた警官。

 葛野 稔くずの みのるは病院で目を覚まし、自分の起こした事件が受理されたことを知る。

「俺はなにもしてねえ」

 そう言って暴れ、取り押さえられることになる。

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