第24話 追い詰められた奴らは、大抵地下に潜る

 教会の勢力圏内では、もうどうしようも無くなった奴ら。


 当然だが、手の届かないところへ広がっていく。


 戦争中の所や、宗派の違う所。生活が一杯一杯で、それどころではない国。


 そして、そう言うところでは、人の心に闇が発生しやすい。


「下火になっていた戦闘が、再び激化をしています」

「マフィアどもが、大量に人を攫っています」

「最近、墓地でサバトが開かれている様子。参加した者がテロを起こしています」


 先進国には、日々情報が流れ込んでくる。


「ええい。どうして心静かに暮らせんのだ」

 怒り、机を叩いた手は、瓶に伸びる。

 一気に煽ると、怒っていた顔が穏やかになる。


 どう見ても怪しい薬っぽいが、聖水の力。

 どんなに怒っていても、これ一本で落ち着ける。


「さて諸君、対応を考えよう」

 ぐいっと一本いって、落ち着いたところで会議に入る。


「気を付けるべきは、内政干渉。しっぽを掴まれると突き上げが来ます。そして、責任を問うてくるでしょう」

「そうだね。新設の特殊部隊。神の翼は使えるか?」

「はっ。いつでもいけます」

「では、麻酔代わりに、聖水を撃ち込み、夢から覚ませてやろう」


 ある戦場では、無音のドローンから、霧状になった聖水が、振りまかれた。


 ここは、いい加減長引く戦場で、今回の魔以前から、怪しい現象が起こっていた。

 大量の戦士が死んだ場所。

 闇の運気が、呪いの様に積み重なっていた。


 そう悪霊、死霊、怨霊そんなモノが彷徨っていた。

 気が付くか、気が付かないかそれだけだ。


 そこに噴霧された聖水。

 地を浄化し、恨みを解放する。


 降りそそぐだけで、よどみ、腐りかかった地面から、白い蒸気が吹き上がる。


 そして、浄化され反転した呪いは、荒れ果てた地表にいきなり可憐な花を咲かせる。


 塹壕に籠もっていた者達は、この奇蹟を体に受ける。


 ふらふらと、塹壕から出て、戦車に向かう。

 相手は、一人の人間にまで榴弾を使う。


 だが……

 撃ち込まれた弾は、確かにはじけた。

 人間など粉みじんになるはず。

 だが、物理的何かは無効化されて、兵達は体を確認し、無事だと分かると和やかにやって来る。


 生身で、戦車を引っくり返す。


 今まで、砲弾を搭載したドローンで、いい加減潰された戦車が、全く役に立たなくなった瞬間。

 それどころか、小銃や機銃まで。


 戦況が変わる。

 支給された聖水により、生身でやってくる兵達。

 どう編集をしても、世間受けが悪い。

 手を繋いでバリケードを作る兵達に、機銃が撃ち込まれ戦車で踏み潰す。

 その影像は支援疲れをしていた人たちに、衝撃を与えた。

 支援をしなかったから、この地獄が作り出された。


 反対にそれを行った大国は、反感を買う。


 実際には、銃は効かず。影像の外では笑いながら、兵達は戦車を引っくり返し破壊する。


 人ならざる力。


 武器弾薬より圧倒的に安く、見栄えが良い。

 きっと彼らは、核ミサイルからでも、笑いながら立ち上がってくるだろう。


 それは、マフィアを抱えた国でも起こる。


 修道服を着た集団が、住民を救っていく。


 そして助けられた者達も立ち上がり、無手で彼らを追い詰めていく。

 そしてお決まりとなってきた散布。


 浄化された者達は、次々に寝返っていく。


 集団は、まるでゾンビだと形容される。


 白い集団。

 悪しき者の天敵。


 笑顔を浮かべて、やって来る無敵の軍団。


 必然的に、散布から逃れるために地下へ潜る。


 逃げても逃げても追ってくる恐怖。

 それは魔の者達に付け込まれるが、憑依されるとより聖水の効き目が強くなる。


「うぬぬ。恐ろしいモノを。悪魔のような奴」

 とうとう、魔の者に悪魔とまで呼ばれる始末。


 そいつは、大学生活を楽しんでいた。

「山上さん。カラオケに行きません?」

「ああ、行こうか」

 身の回りに、護衛の付いていることは周知となり、ひょっとしてお金持ち? そんな噂が広がっていた。


 実際に、聖水のおかげで、金回りは良くなっていた。

 教会のカードは使いにくかったが、聖水は自分が稼いだもの。


 すぐに調子に乗ってしまう、元小市民。

「だって仕方が無いじゃないかぁ」

 などと言って、羽目を外す。


「山上さん。少し危機感を持ってください。あなたは聖職者なんですから、俗世と少し距離をとってですね」

「分かっているって。適度に距離は取るから。あっ、今日女の子達と飲み会だから、また後で」


 最近、神崎の額が、心なしか広くなってきていた。

 

「むう。罰でも当たれば良いのに」

 神崎がそう思ったせいか、直樹は柱に、右足の小指をぶつけ、蹲る。


「畜生、シールドはいつも張っているのに、何でだ?」

 呪いの様な、神崎の願いが届いたようだ。


「もう。だいじょぶ?」

 横で甘やかすのは十六夜。

 まだ体の関係はない。


 だが、日々狙われている。

 どうして手を出してくれないの?

 そんな事を思いながら。


 直樹にとって、少し前には、思いもしなかった生活。

「おおっ。良いぞ。ドンドン注文して」


 そう言って張り切るが、場所は安い居酒屋チェーン店。

 小市民の行動は、早々変わる事はない。


「山上さんって、本当にお金持ちなの? あれってSPじゃなくて、どこかの借金取りに、見張られているんじゃ?」


 そんな話が、流れ始めてくる。


「皆バカよね。直樹ぃ。今日は鉄板焼きのお店、予約したから行こう」

「ああ、良いぞ。鉄板焼きって、お好み焼きか?」

「ちょっと違うかなぁ。でも美味しいらしいよ」

「分かった」

 こうして、小雪はコロコロと直樹を転がし、自身もコロコロ…… 

「ちょっと増えたかしら? でも、野菜も食べれば、ゼロカロリーね」

 どこかの、芸能人のようなことを言い始める。

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