第23話 謎の秘薬

「聖水は、売り上げが順調です」

「審査はどうだった?」

「検査結果は水ですね」


 思い出される騒動。

 原液のまま、一般人に飲ませると死にかかる。

 少量ずつ飲ませば大丈夫だが、大概、瓶に入っていれば一気に飲みたくなる。


 そのため、二十分の一にまで希釈をしたものを販売をした。

 だがそれでも、色々と症状が出るため手入れが入った。


「いやあ。購入者から苦情が来れば、調べないわけにはいけませんから」

 ヘラヘラ笑う担当者。


 政治的な思惑もからみ。色々とあるそうだ。


 むきになって検査をしたが、どう調べても水だった。

 結果が偽造されると感じたので、立ち会いの元、一つの瓶を分取ぶんしゅして、同時に複数の検査機関に依頼をした。


「そこまでしなくても」

 担当者はそう言ったが、安全のためだ。


 そうでなければ、毒の成分が出たと報告される可能性がある。


 ちなみに、検査機関は完全秘匿だ。


「問い合わせがありましたよ」

 そんな回答も回収をしてある。


「国の機関で、色々な者達が蠢いていますね」

 神崎さんも驚いたようだ。


「意外と全体的に、目を配らないといけないようだ」

「魔が、広がっているようですね」

 深刻な話の奥で、彼女達は、別の方向で話が盛り上がっている。


「あの水。お肌がつるつるになるよね」

「そう。体も軽いし」

「魔法がちょー便利」

 三人寄れば、かしましいというのは本当のようだ。


 そして、警察で手を焼いていた者達。

 食事に聖水を用いると浄化が出来た。


 力を失い、ただの人となる。

 やっと、普通に収監が出来たと噂が出る。


 反対派か、人権団体が、非人道的だとか苦情が来た様だが、返した答えは、水を与えない方がまずいのでは?

 それに力も失ってはいません。などと、議論になった。

 症状としては、凶暴性がなくなるだけ。


 そして、怪しい組織と縁が切れる。

 それだけだ。


「ええい。忌々しい」

「もうかまうものか。実力行使だ。この体が滅んでも次を探せば良い」

 知性を得た魔の者達。


 色々な方面に潜り込み、暗躍をしていた。


「だが、捕まると強制的に浄化をされる。今あの秘薬が広がり、依り代が急激に消えている」

「ああ、そうだ。あれを飲まれていると入り込めない」


「女どもの中で美容にいいとかいって、急速に広がり。また、力を得たため、襲うことも出来なくなった」


 そう日本では影響が少なかったが、武器を携帯する海外の国では、絶対だった力。

 銃の権威が急速に失われた。


「紫外線から体を守るため聖水を飲み、何物も寄せ付けないシールドを習得しましょう」

 そんなコマーシャルが流される。


「飲むだけで、神に許されます。心と体を浄化し、新たなる人間として生まれ変わりましょう」


「最初飲んだときは苦しいです。それは魔に侵されていた証。飲み続けると、神の力を得て、自身も家族も救われます」

「ああ、ドラッグが完全に抜けた。もう欲しくない。完全に生まれ変わったよ」


 毎日のように、そんなニュースが流れ始める。

 企業によっては、面接時に進められる。


 これは水面下で行われた、教会による情報拡散。

「魔の者を浄化します。御社の従業員に、魔の者が一人でも紛れ込んでいれば、大変なことになります」


 それは、大昔の日本で行われた、踏み絵のようなもの。


「飲めないなら、魔の者」

 そう指摘され、暴れた者が居ると広がっていき、必要な物だと認知される。


 そしてそれは、飲み続けられて、人類は新たな領域へ進化をする。


 皆が、力を使う社会。

 個人が強力な盾であり鉾でもある。

 従来の兵器が、意味をなさなくなった。


 個人の独立。

 恐怖が武力によるものだったが、それが意味をなさなくなる。

 上手いことに、攻撃型の能力よりも防御型の方が簡単で強く持続できる。

 それは、犯罪の抑止へと繋がっていく。


 人々は、銃を捨てた。

 一部にはマニアもいたが、個人的な趣味。


 笑いながら、グリズリーと相撲をする人々。

 大破したバスから平気で這い出す人々。

 着の身着のままで、サバンナを歩き、自然を楽しむ。

 飲み水は、自前で生み出せる。


 拡大をしていた魔の浸食は、ある日を境に急激に縮小をして行った。


 人の不満や妬み。それが意識の中から消える。

 荒れていた掲示板から暴言が消え、穏やかになる。


 それと同時に、人々から必死さが消え、人のことを思う余裕が出始める。当然結婚も増加に転じる。


 そんな世界の流れの中で、俗物が誕生をしていた。

 そう、直樹は舞い上がり、水を飲んで這い上がる。


 あろうことか、神に近い者が魔にも近くなっていた。

 日々その誘惑と戦い、中の人に警告を受ける。


「やめてくださいよ。魔に落ちるのは。沐浴をします?」

「そうだな」

 神崎さんに促されて、浴場に向かう。


 聖水掛け流し。

 普通の人間は、この空間に入った瞬間、意識を失う。

 高濃度の聖水。


 ここには、彼女達も入ってこられない。


「あああっ。気持ちい」

 此処で浸かりながら、意識を広げ、上位へと意識を広げる。

 そこで人々は、自然の一部であり、ゆったりと暮らす。

 過去には地球のように、血みどろの歴史もあったようだが、今はなくなっている。


 本当の自然との融和は、本当の力の上に成り立つ。

 脅威や恐怖。

 それがあるうちは、本当には周りを見る事は出来ないし、感じることも出来ないようだ。


 力による奇蹟。

 気象すらコントロールを行う。


 それすらも、本当に良いのかは不明だが、一つの理想ではある。

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