第20話 直樹と秘密の部屋

 そんな電話の後、ドアがノックされる。

「お母さん開けて」

 十六夜そっくりの声色?


 そして、玄関チャイムが二度鳴る。

「もう、開けてってばぁ」

「手をお見せ、お母さんなら白いはず」

 お母さんから、そんな事を言われる。


「もういい。帰る」

「ちょっと待って」

 あっさりドアが開いた。


 すかさず、靴を差し込む。

「お嬢さんを連れて参りました。わたくし、使徒山上と申します」

「使徒山上? 昔そんな感じの名前をした、宝石商がいて捕まっていなかった?」

 あれは、ココ?


「さあ? これ名刺です。こっちは教会からの許可証」

「許可証って、これは何語でしょうか?」

「ラテン語らしいですよ」

 まあそれで納得をしてもらい、上がり込む。


「と、言う事で、金銭的な物は収めました」

 そう言うと、いきなり態度が変わる。


「まー。まあまあ。それはそれは。お寿司でも取ろうかしら?」

「あーいや。話は付けたと言うだけです。まともなところに対しては返してくださいね。まあ、任意整理という奴でしょうか」


「???」

「良くある、おまとめとか、まあそんな物だと思ってください。うちの場合この方が取りまとめを行った弁護士です。此処に忘れず入金をしてください。将来金利は放棄させていますので、お安いでしょう」


 必要なことは言ったので、後は、十六夜ちゃんの話だ。


「それで、もうお金の無心はしてこないで。いい? わたし。引っ越すから。大事なとき以外には電話をしてこないで」

 そう言って、とりあえず距離を置くことにした。



 帰り道。

「どこか良いところを探さないとなあ。本当ならセキュリティの付いているところなら安心なんだが」

 そう言いながら、彼女が魔の者に狙われていることを思い出す。


「そう言えば、放置するとまずいんだったな。うーん、家に来るか」

「えっ。良いんですか」

 そう言って嬉しそうな彼女。


 仕方が無いな。そう思って、手を上げる。

 すると、どこからともなく、車がやって来る。


 それに乗り込むと、家に向かう。


 車に乗り込んだ彼女だが、俺に対して思っていたイメージと違うのか、車の中を見て、俺の顔を見るという変な行動をしていた。


 彼女は助けた後、ホテルに住んで貰っていた。

 当然見張りは付けてあった。

 だがまあ家の方は、初めてだな。

 到着して、すっかり慣れたエレベーターで昇って行く。


 家に入ると、二人が飛んでくる。

「この子ね」

「どうして分かった?」

「うーん、なんとなく」

 と言う事で、その晩は部屋で食事をしながら、親睦会を開く。


永礼 十六夜ながれ いざよいさん。家庭の事情でここに住むことになった」

「桜井小雪です。私は…… 私もまあ家庭の事情かな?」

「私は、三浦 瑠璃みうら るりよろしくね。今院生の一年」

「あっ私も」

 小雪があわててフォローする。


「私は学部一年です。山上さん…… 直樹さんに助けられなかったら、きっと死んじゃっていました」

「あら、それは皆一緒よ」

 そうして不幸自慢と、マウントの取り合いが始まる。


「適当なところで、休めよ」

 そう言って、おれの部屋へと入る。


 ここは内側から鍵が閉まる。


 大学は良いが、まだ他にも困っている人は居るはずだ。


 あの地下で見た人たちが、魔の者達に誘われ、集められた困った人たち。

 大学で、相談室のような物が作れないか聞いてみようか?

 学生向けの相談室は、学務係と、医務室…… 保健管理室だっけ? そこの担当だったような気がする。


 非営利で紹介を受けて、もう少し踏み込んでみるという。


 翌日、俺と十六夜が大学に行く時間になったが、それに合わせて二人も出かけるようだ。

 ところが、二人のときは、両側に張り付き通行人に迷惑をかけていた。

 三人だと、そのバランスが少し崩れる。


 幾度か押し出されて、小雪が電信柱や、家の壁に追突をする。

 意地悪な顔をしているから、瑠璃のいたずらだろう。


 大学に到着をしてから、相談をしに行って見る。

 バックに教会がいるが、別に勧誘ではないこと、金銭的な物ならある程度まで救済が出来ること。

 望まれれば、弁護士さんを付けて動くこと。


「うーん。ありがたいとは思います。今って、日本国内やばいですからね。金銭的なフォローや弁護士的なところまでサポートが頂けるなら。少し教授会の方にかけるかどうか提案をしてみます」

 ついでに自分の身分と、神崎 慎一郎の名刺を伝える。


 すると、あっという間に話が決まった。


 うーん。権力は便利だな。

 自分が偉くなったような気になる。

 ―― 自重をしよう。



 そして、部屋まで貰ってしまった。学生相談室分室。

「こちらに、直接来ることはありません。普段は施錠をしておいてください。それでその、大学側で手に負えない案件が、紹介されてきますので、それを受け入れてくだされば。ああ。むろんあらかじめ。スケジュール調整アプリで、双方都合を合わせて面会をするようにいたします」


 とまあ、懇切丁寧にお願いをされる。


「部屋が出来て、人をお迎えするなら準備が必要ね」

 そう言って、十六夜が張り切る。


 そう彼女だけのときは、普通の小部屋だった。


 だが、そんなおもしろそうな話は、すぐに二人の耳に入る。

 彼女達は、個別にファミリーカードを持っているようだ。


 部屋に絨毯が敷かれ、ドアや壁に吸音材が貼り付けられる。


 パイプ椅子や、なが机が放り出されて、応接セットが入り、いつの間にか奥側に給湯設備が設置された。

 かくして、専用個室が出来上がる。

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