第19話 闇の花が咲く、いや何とか

「来ないで」

 彼女に忍び寄る闇。


 だがその黒き霧は、否応なく体に入り込み、彼女の心を蹂躙する。

 だが、直樹に出会ったことで、創られた光が抵抗をする。


 だが、涙をこぼす目から、白目は無くなり。魔の特徴が出始める。

 そう、彼女は浸食された。


 直樹のミス。

 助けを求められたとき、素直に助けていれば……

 ふと二人のことや、金銭的なものだからと、安易に神崎に救いを求めすましてしまった。


 油断といえば油断。

 思ったより、奴らの手が長く早かった。


 だが、まだ彼女の心は戦っていた。

 せっかく助けて貰い、これから心配が無くなる。そう言ってくれた直樹。



「ぬう、もう来たのか?」

 自分が出したとは思えない声。

 それは、地の底から響いてくるような低音で、妙に反響をする。

 頭蓋内での共鳴音を彼女は聞いていた。身体共鳴とか骨伝導。

 彼女の意識は、脳内に封じられているようだ。


 その頃、光を当てると煙を吐くものを、浄化していた。

 意外と、実践において神崎の力は弱い。

 結局一人で、すべてをこなすようになる。


「ええい、面倒だ」

 直樹は必殺技、手抜きを発動。


 とりあえず、フルパワーで光ってみる。


 その手抜きが、功を奏こうをそうする。

 彼女の意識が覚醒する。


「助けてくださいぃ」

 地下に彼女。十六夜の声が響く。

「今行く。まってろぉ」

 方向が分かり、一気に進んでいく。


 周りでは光を浴びて、まるで陸に上がった魚のように、人が跳ね回っている。

 ふと筋肉痛になりそうだと、余計な心配をする。


 途中で、神崎が足を取られ、助けに戻る。

「離れないでくれ」


 そう言って走り、牢ではなく普通のドアを見つける。

 だが、鍵がかかっているのか開かないが、力を乗せてひねる。

 バキッとか言って、ドアノブごと引き抜けた。

 だがドアが……

「内開きかよ」

 蹴り込む。


「大丈夫か…… じゃ無さそうだな」

 まだ彼女の目は黒い。


 一気に決めるため、彼女を抱きしめ。光を与える。

「「かはっ」」

 その言葉は、同時だった。

 彼女からは、黒い煙が吹き上げ。消えていく。


 そして、彼女の腕が、肘まで直樹の腹に突き刺さっていた。


「あっ。あっ。あっ」

 驚き、過呼吸気味にパクパクとし始める彼女。


「ああ、大丈夫だから。腕を抜いて。初めてだから優しくね」

 理解したのだろう。ずるずると抜ける腕。


 するとその穴から、光があふれ出す。


 そして、逆回しのように、修復が始まる。


 そしてその背後で、這いずってくるゾンビのような人たち。

 中途半端に自我が戻り、助けを求めてくる。


「畜生。どうして効かないんだ」

 神崎が悔しそうに吠える。


「あまり悩むな、禿げるし、闇に落ちるぞ」

「はっ。しかし」

「良いんだ」


 そうして、周りに光を与えると、天井や壁が崩れ始める。


「やべえ。さっきの奴、ここを創っていた奴だったのか?」

 光を浴びせながら、皆に言う。

「意識の戻った奴らは、入り口に走れ。階段を上がって真っ直ぐだ」

 方向を指し示す。


 だが、さすがに魔の者達。

 上に上がると、入り口が消えていた。


 周りを見回す。此処だったはず。

「うーん。記憶を頼りに…… 開け…… どあぁ」

 普段の白い光ではなく、金色の光が体からあふれてきた。

「ありゃ。初めての体験で、階位が上がったぞ?」


 地球側では、さっきのビルが一つだけ揺れ始める。


「エッ何? あのビル揺れている」

「地下で液状化?」

 そんな憶測が流れ始める。


 五階にいた人たちは、とっくに脱出をしている。

 皆記憶が無く、気持ち悪くて一目散に逃げた。

 警察官も、呼ばれてきたが、隣接するビルはなんともなく、そのビルだけが、身もだえをするように揺れている。


 程なくして、消防までやって来る。


 そして、その質量がなくなったかのように、砂となって崩れ始める。

 そして出来上がった、砂山。


 そいつが、ドンという、音と共に吹き上げた。

「うわああぁ。退避ぃ」

 警察、消防、被害者、見物人。

 すべてが、一目散に逃げる。


 やがて、砂の底。

 蟻地獄の巣のようなところから、人々が逃げてくる。


 どさくさ紛れに逃げ出す三人。

 十六夜のお母さんは、後回しだ。

 元々心労で倒れていただけ。

 後で、家に電話しよう。


 その母親だが、ずっと夢のような状態から、意識が冷めると、どこかの地下。

 まるでロッカールームから、光の当たるリングに向かう通路のよう。


 拳を突き上げているチャンピオンが見える。

 当然それは、直樹だ。

 逃げろーといって突き上げた腕だ。拳ではなく、人差し指は出口を指し示していた。


 そして彼女のお母さん、永礼知美ながれ ともみ四十四歳の職業は、そう、薬剤師。


 二六歳で、勢いに任せて十六夜を産んで、育ててきた。


 だが、薬局仲間の仮想通貨が美味しい。株が今ならという言葉に調子に乗り、生活難にハマってしまった。

 ずいぶん前には、牛肉を育てようという詐欺にも遭ったことがある。


 そして、督促の電話でストレスを感じ、参っていたが、高校生だった十六夜はもっと多くの電話を受け、死ねやまで言われて、ダメージは多かった。


 家から出るために、奨学金まで段取りを付けて、大学に入った。


 就職をしなかったのは、無心されることが分かっていたから。

 それに、普通高校からの就職は、数が少ないし、工場などの現場仕事しかなかった。

 それは行っていた高校から、就職者がほとんどいなかったからかも知れない。

 

 永礼知美は外に出た後。周りを見ていたが、ひとまず家に帰ることにした。


「もしもし、十六夜?」

「残念ですが、違います。わたし、直樹…… 今あなたの家の前にいるの」

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