第18話 ダンジョン

 つかつかと、奥へと向かう。


 受付さんと仁王さん達は、かわいそうに生粋の魔だった。

 光を受けて、燃え尽きてしまった。

 真っ黒に……


 風が吹くと、服だけが残る。


「さあ行こう」

 案内が無いので、受付のすぐ横にある、大きめの扉を開き……

「ねえ、神崎さん。扉がガションといって開かないのだが、受付に開閉ボタンがあります?」

「よっと、お持ちください」

 神崎さんは、受付さんの制服を物色していた。


 ビーッと警告音が鳴って、扉が開く。


 ビーと鳴ったからには、多分、お出迎えがいる。


「また、和やかなお姉さん達。でも、笑顔だが、貼り付けたような笑顔」

 シンクロとかそういう……


 光を浴びせると、今度は苦しみだして、鼻や口。ありとあらゆる穴から黒い煙が吹き出してくる。


「人間かぁ。殴らないように気を付けましょ」

 そう言って、進み始める。


 エレベーターホールが、ほぼビルの中央。意識を広げると、五階ほどのところに広いところがあり、三十人ほどの固まりがいる。

 問題は下だ。変な空間で、探査が戻ってこない。かなり深そうだぞ。


「上は、五階だけのようだ」

「じゃあ先に、こちらから浄化をします?」

「最近よく見て浄化をしないと、こびりつきがあってなあ」

 その場で浄化を始めようとした、神崎さんを止める。


「じゃあ、上に行きましょうか」

 当然階段だ、エレベーターはどう考えても怖い。


 多少息が切れるが、到着をする。

 オペレータールームと、書かれた室名札が刺さっている。


 ノックもせずに入るが、誰もこっちに意識が向かない。


 無表情の人たち。

 何かボタンを押し、しゃべっている。

 通販もどきの相談室だな。


 なかなか盛況で、ひっきりなしに電話がかかる。


 こそっと浄化をしてみると、燃えずに、ばふっと鼻から黒い煙。

「人間だ」

 一気に浄化を進める。


 いきなり静かになる室内。

 ヘッドセットから漏れてくる泣き声や、叫び声。


 盛況なのは良いが、食い物にされるのは忍びない話だ。


 壁の一部が燃えて、というか黒い煙を噴いている。


「あれは見張りか?」

 近寄りつつ見るが、目には見えない。

 探査をすると確実にいる。


「まあ、いいか」

 一気に浄化をして消し去る。


「電源を落とすか」

 そう言って、退室時に、部屋の回線を落とす。



「当初の目的は、連れ込まれた二人。早く地下へ行こう」

 

 そして階段で地下に降りて、ドアを開ける。


「……」

「なんでしょう? どうして地下に墓場が……」

「湿っている匂いと、空気の流れ。これって本物だろ」

 探査を撃つが、一キロ二キロではない。

 背後のドアには、さっきの階段が見えている。

 だが、探査はそちら側だと、壁にぶつかったように切れる。

 通れるし見えているのに、空間的に繋がっていない。


 思い当たるのは……

「これってダンジョンか?」

「ダンジョンというのは、あのアニメとかである」

「まあ元は、地下牢という意味だし、バッチリかもしれないが、あちらの円形の闘技場から反応がある。行くぞ」


 そう言って走って行く。

 かなり建物が大きく、近いと思ったが、以外に遠かった。


「どわあ。しんど」

 軽く見回し、地下に降りる階段を降りる。



 その頃。

 永礼 十六夜は祈っていた。

 きっとあの人が来る。

 来てくれるはず。

 根拠のない希望だが、なぜかそう感じていた。


 新入生宿泊研修後、病院に急いで報告に行く。だが、お母さんはいなくなっていた。

 病院でいきなり転院すると言って、連れて行かれた母親。

 身よりは自分しか居ないのに、全く話を聞いていない。

 山上さんは、きっと違う。

 誰がどうして。


 そう思っていると、必ず存在する、お節介でお喋りなおばさんが教えてくれた。

「あれは、最近、はやっている宗教家だよ。早く行かないと帰してくれなくなるよ」

 そう言ってビルの名称と、住所を教えてくれた。

 御礼を言って、十六夜はその住所へ向かう。


 だが、おばさんはそれを見届けると、すぐに、どこかへ電話する。

「娘も送ったよ」

 そう言って笑みを浮かべていたが、手元に影が落ちる。それが気になり、ふと顔を上げると、仁王立ちの看護師さん。

「決まった所以外で、通話をしないでください」

 そう言われて、すごすごと消えていった。


「あんな患者さん。いたかしら?」

 首をひねりながら、妙に元気な患者を見送る。



 そしてこのビルにやって来ると、受付さんが、かくかくした動きと表情で、お待ちしていましたそう言って、にいぃと笑う。



 それを見ていた、二人。

「あれでいいのかね」

「はい素晴らしい素材。きっと、心を開いてくれれば、良い依り代となりましょう」

「良くは分からんが、わしに迷惑をかけるな。金は貰うがな」

 そう言うと笑いながら出ていく県議会議員。

 黒原 兼常くろはら かねつね三期ほど当選している偉い人。


 新人の市長が張り切り、少し焦っているが、まあ色々と手広く悪さをしている。

 このビルも、自身の持ち物ではないが、不動産部門での委託管理物件。


 勝手に貸し出し、家主に渡さず、その金を貰っている。


「いえいえ、あなたもすぐに絶望し、その心に深くて暗い穴が出来ます。そうすれば良い依り代になれますよ」

 そうつぶやくと、そいつは地面へと沈んでいった。

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