第12話 奇蹟

 楽しんでいる俺と、周りの大騒ぎ。


 小雪は目を覚まし、あろうことか、こちら側の扉を開けてしまった。


 そう彼女は、裸。

 こちらには、騒ぎがあって、十人以上いる。


 ベタだが、「んきゃあああ」という変わった悲鳴と、迷いなく一瞬で全員が回れ右をした。

 その判断は素晴らしいが、確実に見られたと言う事。

 しばらく、小雪は落ち込むことになる。


 そして食事には、てんこ盛りの毒。

 どこかで聞いたことのある、複数の毒を混ぜ、時間を調節した物。


 昔あった、トリカブト毒とふぐ毒を使い、発症時間をずらした事件が有名だ。


 通常、ふぐ毒であるテトロドトキシンは、食後二十分から三時間程度の短時間で、しびれや麻痺症状が現れる。

 トリカブト毒は、アコニチン系アルカロイド。食後十分から二十分以内に、口唇や舌のしびれが始まり。全身に麻痺が広がる。

 そう両方とも神経毒だが、調整により二時間近くの時間を稼ぐことが出来る。


 そんな物が、味付けとしてまぶされていたようだ。

 隠し味かな?


 そして、心を入れ替えた彼は、ペラペラと詳細を話す。

 教会の司教だか司祭が、突然降って湧いた我々を、疎ましく思い。行動を起こしたとの事だ。


 恐ろしいことに、教会の中でも出世欲という世俗の煩悩に従い、色々な物が蠢いているようだ。


 そして、お願いをされる。

「聖職者の心に住まう欲を、祓っていただきたい」

 とまあ。現状欲まみれの俺に、お願いが来た。


 そして、イメージして、それをばら撒いてみる。


 その願いは、同心円状に広がり、人々を包んでいく。


 まあ、それは良い。

 使徒達は、独自の保護がある様だが、それ以外の人たちから、欲を取り除くと、残る物は、虚無となる。


 当然だが、周囲が、一変する。


「これは、まずいですね」

 見た瞬間にそう言うくらい、精気の無くなった人たちが、ただ床に這いつくばり。空をぼーっと見上げている。


「人間、欲というのは重要なんだな」

「そうでしょうね。何かをしたいというのは、望みからくるものですから」

 神崎さんも、呆れている。


「どの辺だろう。世界平和とか、その辺りを主軸に戻してみようか?」

「そんな事が出来るのですか?」

 なぜか驚かれた。


 そして、その辺りをメインに戻してみる。

 すると、人々の目に光が戻り、いきなり動き始めた。


 だがその人たち、世界平和と名がつけば、何でもするやばい特性を持ったようで、一部では苦笑いが出た様だ。

 一部というのは、上部の人たちだな。

 ただ色々が、やりやすくなったとも。


 こうして、狂信者という名の、熱心な信者が生まれた。


 そして、この時に張ったシールドにより、魔が一切入れなくなった。

 いつまで持つかは知らないが、物理特性を持っていないので一年くらいはいけるのではないかと言われている。


 これが後に、ローマの人々を救うことになる。


 俺達が動き出すのと同じように、魔の者達も使い魔から進化をし始めていた。


 ヒト型の悪魔が、出没をし始める。

 そして奴らは、すぐに実体を持ち、人々を先導し始める。


 後に、巷で言われることになる、新人類の草創期そうそうきへと突入をする。



 少し前。瑠璃は学校から、踊りながら帰ってきた。

 今日で、直樹は仕事が終わり、挨拶だけだから午前中で帰って来ているはず。


 ところが、しんとした室内。

 一つ降りて、執事というか、お世話係の方に聞く。


「はい。山上様は旦那様達と御一緒に、お出かけでございます」

 ピシッとして、迷いのない態度。


「何処へ行ったの?」

「言伝されていないのでしたら、勝手に申し上げることは出来かねます。お戻りになるまでお待ちください」

 だが、瑠璃には冷たく、けんもほろろに追い返される。


 彼らにとって、あくまでも主人は、神崎と直樹なのである。

 彼女達は、イメージ的にはおまけ? ペット。そんな扱い。

 だから、余計なことは伝えない。

 ただ、食事など、最小限は与えてくれる。


「むうっ。ひどいわね。何も言ってくれないなんて」

 そう思った彼女だが、行く時には、直樹も何処に行くのか知らなかった。

 どうしようもない。


 仕方が無いので、ベッドに登り、一人で慰める。

 そして、今更だが、小雪がいないことに気が付き、少し暴れた。

「もうっ。直樹ったら…… 好き」



 結局、なんだか知らないが、組織的な枠組みと、身分の書類にサインをさせられる。


 これにより、一つの国が認めた使徒という職業になった。


「あなたの職業は? 使徒です。なんだか攻撃されそうだな」

「アニメね」


 少し機嫌の直った小雪が、コロコロしている。

 いや本当に。ストレスがなくなり、ここではやることが無いため。ひたすら食っちゃ寝状態。

 帰りに、来るときに着てきた服が、着られるのか不安だが、あえて言うまい。

 貰ったカードで金も下ろせるらしいし、買ってあげよう。


「給料はもらえるの?」

 そんな事を聞くと、このカードが渡された。


「俗世とは隔絶された存在が、給料などあるわけがないでしょう。このカードはあなたの物です。中のお布施は、お好きにお使いください」

 ですって。


 教会の人に貰ったこのカード、中身はお布施と言ったが、国家予算ダイレクトな数字が残高だった。

 本来は違うらしいが、帰りの町中にあるATMの前で、思わず声を上げてしまった。


 あーうん。小雪の服をね。少し買いに寄ったのだよ。

 お店に。

 下着も食い込んでいたらしく全部。


「あの。向こうに帰ったら、少し何とかするから」

 そう言う彼女は、フライト待ちで、いま菓子を食っている。


 そして、神崎さんは、「やはり専用機を買うべきか」などと言っている。

 俺はいきなり生活が変わりすぎて、少し常識が崩れてきている。

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